第2話
私の名前はオリビエ・ロランスという。
女性でありながら、アルトリア王国近衛騎士団副団長という、この国においては、物凄く誇らしい役職に就いている。
父は、ガライ・ロランスといい、アルトリア王国近衛騎士団の団長を務めている。
父娘で国のトップともいえる職種に就いているため、妬み等も多く、中には私が父のコネで近衛騎士団の副団長をやっていると決め付ける輩もいた。
そういう奴等は大抵貴族が多く、自分が抱えている騎士団の方が実力は上だと勝手に勘違いをし、貴族の特権で、私に私設騎士団の実力者との剣の勝負を挑んでくるのだ。
実力などないのに、親のコネで近衛騎士団の副団長になったやつの実力を世間に知らしめてやると、貴族お抱えの騎士も最初は意気込むが、何度か剣を打ち合う内に、その実力差に顔を青くしていく。
しかし、私は手を抜かない。
あえて実力を知ってもらった後に、一瞬でフルボッコ状態にする。
自分で言うのもなんだが、私は剣の実力だけでいえばアルトリアで1番だと思っている。
父にも成人を向かえる前に勝利しているのだ。
また、近衛騎士団副団長という肩書きであるが、主な任務は、王女アリーシャ様専属の護衛騎士である。
女性同士であり、歳は2つだけ私が上であるが、年齢も近いので専属騎士として最適だということだ。
こうして、アリーシャ様の専属騎士として過ごすなか、その時が来てしまった。
魔王復活
光魔石が点滅し始めたのだ。
点滅は魔王復活の予兆であり、点灯すると魔王は完全に復活したことになると言われている。
・・・言われている、と又聞きのような表現になってしまったのは、光魔石が前回光だしたのは、およそ200年前だからだ。
これは、先人が残してくれた記録により知り得たことである。
魔王は倒しても復活する存在である。
魔王復活の時、勇者と聖女現ると言われており、これまでの魔王復活時には勇者は必ず現れている。
今回も勇者は現れるのだろう。
魔王や魔族といった存在は勇者しか倒せない。
だから、私達ができることといったら、魔族復活の兆しから始まる凶暴化したモンスターから民を守ることだ。
光魔石点滅から2日たち、アリーシャ様に異変が起こった。
どうやら本能的に感じたらしいが、アリーシャ様が今代勇者の召喚者だという。
教わらないのに、勇者召喚のやり方がわかるという。
アリーシャ様は召喚儀式に入られた。
召喚儀式が始まり、5日が経った。
アリーシャ様専属騎士である私は、儀式の間もアリーシャ様と同じ儀式部屋にいる。
邪魔にならないように部屋の端でその日の儀式が終わるまで待機する。
アリーシャ様は、もともとあまり身体が強くない。
しかし、5日も神殿に閉じこもっているが、不思議な力が発動してるためか、アリーシャ様は弱まっている気配を感じない。
そして儀式を開始してから7日後に今代勇者の召喚が成功した。
召喚された人物は、女性なのか男性なのか・・・貴族の正装に似た服に見を包んでいるので男性だと思われる。
こんなのが勇者とは・・・もっと、父ガライの様なたくましい人物を想像していただけに拍子抜けであった。
勇者召喚から数ヶ月、勇者マサトはこの国の言葉を理解し話せるようになった。
ここから、私に与えられた任務は彼に剣術を教えることであった。
午前はアリーシャ様の座学、そして午後は私の剣術という日々を勇者マサトは過ごすこととなった。
最初は、こんなナヨナヨした者に私の稽古がついていけるか疑問に思ったが、勇者というのは流石は選ばれた者である。
訓練を重ねれば重ねるだけ、体力、技術が面白いように伸びる。
召喚されてから1年たたないうちにマサトの実力は、剣術だけであれば、私に3回に1回は勝利する実力になった。
ここに勇者スキルの身体強化などを使われたら、私は勝つことはできないだろう。
この1年で、1つ年下であり、何事にも一生懸命なマサトのことは、可愛らしい弟のように思え、また特別な存在とも思えた。
私は彼が本格的に冒険に出る時は、共に行く者として選ばれた。
アリーシャ様の専属騎士であったので、迷いはしたが、マサトと共にいたいのと、またアリーシャ様と同様にマサトにも同じくこの命を捧ぐ思いで忠誠を誓った。
そして、光魔石が点灯したことで魔王復活が確実となり、私達は旅立った。
魔王討伐の冒険に出て、道中仲間も得て、マサトが召喚されてから3年で魔王の討伐に成功した。
そして、魔王討伐の祝賀会が始まり、あの日が来たのだ。
胸騒ぎがしたのだ。
その日に限って、私を含めた仲間達に身分の高い貴族や他国の重鎮が集まってくる。
そして、気付けばマサトが見当たらなくなっていた。
失礼と言い、貴族達を押しのけ部屋を出ようとしたが、しつこく私の前に出て行くてを阻もうとする。
おそらく、宰相の指図で貴族たちに執拗に私達の足止めをすることになっていたのだろう。
理由も知らずに、ただ宰相の指示ということでだ。
無理に部屋を出て、勇者の加護により得られたスキルにより、マサトの気配を感じる。
直ぐに向かうが、突然であった。
勇者の加護が消えた。
マサトに何かあったのだ。
おそらく、他の仲間達も異変に気付いただろう。
最後に感じた気配を頼りに私はその部屋に到達した。
「マサト!」
「オ・・リ・・」
マサトの姿が消えた。
部屋には国王と宰相がいた。
二人共気不味い視線をこちらに向けている。
どういうことなのか問い詰めたが、そこに父ガライが表れ、事情は後で説明すると言われ、他の仲間達に顔を合わせることなく、実家に帰された。
そして、今に至る。
あの出来事は、過去にあった勇者の反乱がきっかけで、それから内密に国を担う特定の役職に付く者、国王、宰相、一部の大臣、騎士団長そして公爵及び侯爵といった有力貴族のみが知る機密事項であった。
私も近衛騎士団副団長として、知っても良いと思われる立場であったが、勇者と共に旅立った者だと、この件を否定するかもしれないこと、またアルトリア1番の剣術使いを相手にすると非常に厄介であるという理由で、私にはこの事実が伝えられなかった。
しかし、現場を見てしまった私には、理不尽であるが、謹慎処分が下された。
まあ、屋敷に閉じこもり、頭を冷やすことを目的としたいのだろうが。
しかし、ほとぼりが冷めたら、きっと私はマサトを戻す手段を探すだろう。
どのようなことがあっても。
例え近衛騎士団を退団しようとも。
そんなことを考えてる時だった。
屋敷にアルトリア王国騎士団治安部隊所属の騎士が10名程やってきた。
「オリビエ・ロランス、貴方を勇者マサト殺害の容疑で逮捕する」
どういうことだ。
彼等が突き付けた書状は、確かに国王印の付いた正式な物であった。
口封じであることは間違いないが、もっと何か裏事情があるはずだ。
しかし、調べる暇もなく、私は治安部隊に逮捕連行されてしまったのだ。