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OUR WORLD  作者: 新堀はさむ
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第1話

「マサオだよ! 今日は、アルトリア王国の首都、アルティーからおとどけするよ。」

僕の名前はマサオ。

・・・と、いっても仮名だけどね。

本名は、凛藤政斗りんどう まさと、15歳の高校1年生だ。

世界的動画配信サイト「OUR WORLD」の配信者、アワルダーとして使用している名前がマサオだ。

僕のチャンネルで扱ってる題材は、異世界。

チャンネル名は、「マサオの異世界冒険記」だ。

地球とは違う世界、クリアランスにて実際に撮影して編集した動画を「OUR WORLD」で公開している。

異世界を題材に、しかも実際に異世界で撮影したものを公開しているアワルダーは、世界でも僕だけだ。

おかげで、登録者数は300万人を超え、海外の登録者も多く、世界的に見ても、そこそこ有名なアワルダーである。

「それでは、アルティーで1番人気の飲食店である『冒険野郎の憩い』より、今が旬の巨大魚、ドルマグロの解体から料理になるまでを紹介するね!」

カメラには、4人の獣人が巨大な魚、ドルマグロを天井に吊るし上げ、店主であり料理長でもあるイカツイ体格の中年男性がドルマグロの吊るし切りを始める姿を写し出す。

今回も良い動画が撮れた。

週に1回という少なめなペースで動画を挙げているが、毎回100万回以上の視聴が記録されている。

初期に挙げた動画は、視聴回数がすでに1000万回を越えている程だ。

それだけ僕が公開する動画はインパクトが大きいのだ。

そりゃそうだ、物語の中でしか登場しないような生物、そして世界をリアルに視聴できるんだもん。

まあ、僕の動画は全てCGであるという意見も多数あるけど、それでも空想の世界を見たいという人は世界中に沢山いるわけだ。

ところで、僕が何故こうも異世界へ行き来することができるのかだが・・・まあ話せば長くなるんだけどね。



僕は頑張ったんだ。

3年間、頑張ってアルトリアを・・・いや、クリアランスに生きる人達を救ったんだ。



3ヶ月前・・・

「・・ビ・・エ」

軽い目眩を起こしながら徐々に周りの景色が見え始めてきた。

ややジメッとした初夏を感じる空気、道路を挟んで向かい側は公園であり、小学生と覚しき少年少女が何やら騒がしく駆け回っている。

この場所は確か・・・

「ルルゥ」

僕は呼び掛けてみたが返事はなかった。

この場所は、僕がアルトリアに召喚された時に、最後にいた現世の場所であった。

そうだ、3年前のあの日、学校の帰り道で急な目眩に襲われ、その場にうずくまり・・・気付いたらアルトリア城の儀式祭壇上の魔法陣にいたんだ。

その先は、まさにラノベやアニメ等によくある王道中の王道だった。

僕はクリアランス全土を脅かす魔王を倒すために異世界から召喚された勇者である・・・から始まり、道中仲間を得て少数精鋭で魔王を討ち、クリアランスに平和をもたらしました。

・・・といった具合だ。

ただ、魔王を討ち取った後、用無しとなった僕は、アルトリア王国宰相により強制帰還させられたんだけどね。

そして、この場にいる。

いや、それだけではない。

あの日のこの場所だ。

つまり、召喚された時点の現実世界に戻ってきたのだ。

「戻れたんだ・・・」

自分の服装を見る。

あの時の・・・下校時のまんまだ。

つまり、制服姿。

衣替えの時期であるが冬服との併用期間であり、僕にとってはまだ肌寒く、ブレザーを着ている。

そして驚いたことに、体格が元に戻っている。

僕は華奢な体格であり、身長も平均より低く、更に中性的な顔立ちであるため、恥ずかしいことに私服姿だと女性と間違われることがよくある。

中学時代の文化祭の出し物で、喫茶店をやった時にクラスメイトに冗談でウェイトレスをやらされたが、クラスの女子より女子っぽく見られたくらいだ。

でも、クリアランスで3年間鍛えたこともあり、身長はグンっと伸び、体格も細マッチョと見られるくらいにはなっていたと思う。

まあ、それでも一緒に旅をしていた仲間であるリンカとアリーナには、チョイチョイと着せ替え人形扱いされてたっけ・・・主に女性用の服で。

とにかく、理屈はわからないが、時間軸も戻る形で現世に戻ってきたわけだ。

本当は、記憶も抹消されて強制帰還されるはずだったんだけどね。

まあ、あれこれ考えても仕方がない。

時間はあの時と変わってないみたいだが、自分にとっては3年ぶりの地元である。

帰宅路は・・・まあ覚えてるだろう。

とりあえず、今日は帰ってゆっくり休もう。


次の日

「まじか、ヤバイヤバイ」

登校時、道が分からなくなった。

クリアランスで過ごした日々はかなり濃密であったため、現世において特に気にもしてなかった通学路なんかは3年間という期間で忘れてしまっていた。

スマホのナビを使えば良いことに気付いたのもだいぶ遅く、またスマホの操作も久々であり手間取ってしまった。

「よしっ、なんとか間に合った」

遅刻はしなかったが、ほとんどの生徒が登校して仲の良いグループでダベっている時間帯にやっと教室に到着した。

そして到着してから非常に困った。

自分の席がわからない。

誰かに聞けば良いのだが、現実世界においてスクールカーストの底辺に属していた僕はクラスメイトと打ち解けることができず、また3年間の現世における空白な時間があるため、クラスメイトの名前も思い出せなかったりした。

まあ、このコミュ障も、クリアランスで旅をしているうちに改善されていったんだけど。

現世に戻ったとたん、コミュ障がまた発動してるみたいだ。

どうするかな・・・と、教室内を見渡していると、クラス委員長の女子生徒(名前が思い出せない)が目についた。

彼女は皆に委員長と呼ばれていたので、名前を思い出さなくても問題ない。

席に座って読書をしている彼女の周りには人がいなかったので、これは好都合である。

僕は彼女に近づき声をかけた。

「委員長、変なこと聞いても良いかな?」

「えっ⁉」

なんだ? 委員長は何故か物凄く驚いた表情で僕のことを見ている。

寝癖でもあったかな? それとも顔に何か付いてるのかな?

それだけではなかった。

教室中が静かになっている。

つい今さっきまで、それぞれの陽キャグループやら根暗な奴らやらノーマル達でざわついていたのに、クラスの皆が僕のことを注視していた。

なんだろう、今日の僕は気付かないところで変な格好でもしているのかな?

3年間、クリアランスで過ごしていたから、あっちの世界では普通なことでも、こっちの世界では非常識なことがあるかもしれないし、もしかして僕は何かやらかしたかな?

と思ってた矢先、委員長が声をかけてくれた。

「おはよう凛藤君、ごめんなさい、どうかしたのかしら?」

「こちらこそ、急に声をかけて驚かせてゴメン」

「うひっ!」

「?」

「いえ、何でもないのよ。で、何かしら?」

何でもないというわりには、委員長の顔は耳まで真っ赤になっており、もしかして熱でもあるんじゃないかと思える程だ。

「いや、恥ずかしながら僕、寝ぼけてるのか自分の席がわからなくなって・・・」

ひどい言い訳だ。

寝ぼけていても、昨日まで座ってた自分の席を忘れる奴なんていない。

「あぁ、凛藤君の席は、あちらよ」

指差してくれれば、それだけで良かったのに、委員長はわざわざ席を立って案内してくれた。

その間、クラスの皆が凝視している。

ヒソヒソ話もしているみたいだ。

なんだろう、僕は別に委員長に気があるわけじゃないよ。

「委員長、ありがとう」

「あ、あの凛藤君。その・・・」

なんだろう、委員長がモジモジしながら語りかけてくる。

「すまない、花村」

そう言って、委員長と僕の間に割り込んできたイケメンが1人。

あぁ、そういえば、委員長って花村って名字だったな、そしてこのイケメンは・・・うん、名前を思い出せないけど、たしかクラスカーストの最上位の人だ。

「お、おはよう凛藤」

「うん、おはよう」

普通に返事をしてみる。

あちらは、ちゃんと僕の名前を言ってくれたが、僕は彼の名前を思い出せないので返事だけになる。ごめんなさい。

「いや、そのなんつーか、ちゃんとお前と喋ったことないよな〜と思ってさ、その、あ、俺の名前は山岸。山岸貴志だ。よろしくな!」

「あ、うん。僕は凛藤政斗。よろしくね。」

今は6月だ。高校に入学してから既に2ヶ月以上経っているのに今更自己紹介も変な感じだけど。

周りのクラスメイトは僕らを注視しているし、委員長は割り込まれた時に山岸君を睨みつけてたけど、今は僕のことをチラッチラッと見てはモジモジしてる。

なんだか、クラス中のこの視線、見覚えがあるんだよな。

何だったけな? と思ってると教室前方の扉が開き担任の先生が入ってきた。

「はぁ〜い、ホームルームはじめるわよー。みんな、席につきなさーい。」

「あ、じゃあまたな凛藤」

「凛藤君、またね」

「う、うん」

ぎこちなく返事を返した。

日直の指揮のもと、担任である中野今日子先生への挨拶を済ませホームルームがはじまる。

中野先生は、まだ24歳という教師になりたての先生である。

しかし、芯のこもった教育姿勢やその外見から生徒一同からは人気が高い先生である。

「では、出席をとります、相田君」「はい」

「相原さん」「はい」

「井上さん」「はい」

この学校の出席番号は、あいうえお順である。

そのため、ら行の僕はこのクラスの最後の番になるのだ。

クラスメイトの名前が次々呼ばれていき、最後である僕の番になった。

「凛藤君」「はい」

ビクっ!

先生が突然、その場に崩れ落ちた。

「せ、先生⁉」

僕は立ち上がった。

でも立ち上がっただけだ。

何故かというと、先生に近い誰かしらが先生の介抱に向かうと思ったからだ。

しかし、見渡すと、クラスメイト全員が僕のことを見ている。

ついでに、先生も尻もちつきながら僕のことを見ている。

いや、見ているというより、見詰めているといった表現がしっくりくる。

思い出した、この見覚えある視線。

クリアランスで勇者として旅をしていた頃、立ち寄った町や村で演説をした時、まあ演説といっても簡単な自己紹介と魔王討伐のため旅をしてるから応援してね〜的なことしかしゃべらんかったけど、その時の民衆の視線と同じだ。

これは、そうだ。


勇者スキルの1つ「勇者のカリスマ」


単純すぎる名称であるが、このスキルは勇者である僕を認知してしまうと魅了されてしまうスキルである。

魅了といっても、サキュバスなんかが得意とする魅了と違い、僕に対する好感度が急激に上がるだけだ。

イメージとしては、僕が人気歌手や有名な俳優に見えるのに近いのかもしれない。

ただ、僕に悪意を持つ者には効き目がないのだけど。

このスキルのおかげで行く町や村で貴重な情報を教えてもらえたり、宿屋や飲食店では無料で良いとよく言われた。

もちろん適正金額は支払ったよ。

強制帰還で、もとの時間に戻されたので、勇者の能力は全て失われていると思ったんだが、もしかすると勇者の能力は残っているのかもしれない。

放課後にでも試してみるかな。


放課後

今日は、色々大変だった。

授業中、特に現国の時間など指名されたので朗読したら、『勇者のカリスマ』の影響で先生は倒れちゃうし、昼休みは山岸君やらクラスのカーストトップの方々から昼食を共にすることになるし・・・

帰宅後は、勇者の能力をどこで試すかだよな。

「政斗」

山岸君から呼ばれた。

名字ではなく、名前で呼ばれるようになったのは、昼休みからだ。

「今日、何か予定あるか?」

「いや、特にないけど」

さすがに、勇者の能力を試すなんて言えない。

「じゃあさ、俺これから部活なんだけど、体験入部してみないか⁉ マネージャーでも良いから!」

昼休み中に山岸君はサッカー部に所属しているのを聞いた。

サッカー、ルールあまり知らないんだよね。

体育の授業でも、華奢であり運動も得意でなかった僕は戦力外であり、班対抗試合の時は外野で応援という具合だった。

まあ、サッカー以外のスポーツも同じようなもんだったけど。

「おい!山岸、抜け駆けすんなよ!」

「政斗、俺のとこにも体験・・いや、入部してくれよ」

「凛藤君、文化系の部活もどう?体育会系と両立可能よ」

ワイワイと部活に所属してるクラスメイトが話かけてきた。

『勇者のカリスマ』、ちょっとマズイな。

クリアランスにいた時は、立ち寄った町や村には長くても3日しか滞在してなかったんで、その期間中は、沢山の人に群がられたけど、その分有益な情報を得ることもできたし、長居する訳でもなかったんで、あまり気にしなかった。

しかし、高校卒業までまだ3年近くあるのにこの状態は・・・

何か対策を考えないと。

とりあえずは・・・

「今日は、山岸君が先に声をかけてくれたんで、サッカー部を体験してみるよ」

「よっしゃー!」

山岸君はガッツポーズをする。

他のクラスメイトは、凄く残念そうに悔しがっている。

なんだかな。


ジャージに着換え、サッカー部へお邪魔した。

簡単な自己紹介をすると、『勇者のカリスマ』のおかげもあり、サッカー部の皆さんからは大歓迎された。

「じゃあ、まずグランド5周」

部長の合図で練習が始まった。

まずは、身体を温めるということで、校庭内のサッカー部専用に与えられた敷地内をジョギングする。

1周500メートルくらいだ。

「政斗、疲れたら休んで大丈夫だからな、無理するなよ」

「うん、ありがとう」

このジョグの時間に、これからのことを考えておこう。

まず、この体験入部で、自分の身体能力を試すことができる。

今日は体育の授業はなく、昨日クリアランスから帰還してから、まともな運動をしていない。

「おい・・政斗」

勇者スキルも、午前中に『勇者のカリスマ』が発動しているのを気付いただけで、他のスキルも発動するか試したい。

「ま・・さと」

あと、勇者の能力が消えたと勘違いしたのは、この世界に『魔素』を全く感じなかったからだ。

魔素は、簡単にいうと魔力の源。

魔法を使うのに必要な要素だ。

クリアランスでは、魔法を使った後でも大気中の魔素を取り込むことで・・つまり、普通に呼吸することで、体内魔力は回復してくれた。

一応勇者であった僕の体内魔力は、人類の中でもトップクラスであった。

一緒に冒険していた大魔法使いであるリンカの魔力量には敵わなかったけどね。

強制帰還される時、僕はその膨大にあった体内魔力を吸い上げられ、空っぽ状態で現世に戻されたんだよな。

「おい! 政斗!」

目の前に山岸君が仁王立ちしていた。

「なんていうスピードどで走ってるんだ。ビックリだ。しかも8周くらいしてるぞ。俺は3周目でついていけなくなった・・・」

他のサッカー部員の方々も驚きと尊敬みたいな眼差しで僕をみていた。

考え事しながら走っていたら、気付かずに凄いスピードで走っていたみたいだ。

全力を出してはいないが、どうやら勇者時代の体力は残っていそうだ。

その後は、パスやドリブル等の基礎練習を行い、ここでは俊敏性や正確性を確認し、次の練習試合でも全力を出すことなく1人で試合を制覇するようなことをした。

「政斗君! 俺、君の事を尊敬するよ! ぜひ入部してくれ!」 

山岸君が、僕のことを君付けし始めちゃった。

ちょっとやりすぎたかな。

部長や他のサッカー部員も必要に僕に入部してほしいと懇願されたが、考えさせてくださいと言って、今日は帰宅した。


帰宅後・・・もう辺りは暗くなっている。

「身体能力の確認もできたし、次はスキルの確認だ」

スキルにも色々あり、戦闘に使うスキル、戦闘の補助のためスキル、生活に役立つスキル等がある。

スキルは魔法と違い、魔力ではなくどちらかというと体力面や気力面に負担がかかる。

例えば、パワーナックルという筋力とパンチ力を増加させるスキルがあるのだが、それを右手で行うと岩をも砕く威力になるが、右腕全体に痺れに似た痛みが入る・・・といった具合だ。

そして僕は主に戦闘スキルをメインに覚えているが、家の中で使えば、下手したら家が壊れてしまう。

なので、戦闘補助や生活面で使えるスキルとして覚えた身体強化を使ってみる。

単純に身体能力を2倍、3倍、それ以上と思い通りに上げることができる。

ただし、その分身体全体に負担がかかる。

僕の場合、10倍を超えないと身体に大した負担など感じなかったけどね。

勇者であった僕は、その気になれば100倍はいけたが、身体強化を何十倍に設定すると、身体への負担だけでなく、体内魔力も消費していかないと身体が保たなかった。

まあ、通常の身体能力ですら普通の人を、いやモンスターをも凌駕するくらいだから、魔王軍の幹部クラスとの戦闘でも、身体強化は2倍〜5倍で収まっていた。

「スキル、身体強化2倍」

・・・ということで実際に使ってみる。

身体にチカラが湧き上がり、それと同時にチリチリと心地良い体力の削れを感じる。

ベランダに出て、周囲を意識する。

誰からも見られてないことを気配で察する。

地面に飛び降りると、一気に地面を蹴り跳躍する。

辺りが暗くて良かった。

想像通りの飛距離であり、1歩で50メートルくらいは飛んだ。

スキルもしっかり発動することを確認できた。

次は魔法を確認したいが、この世界は魔素がほとんどない。

ほとんどないと言うことは、言い換えれば少しはあるのだ。

それに気付いたのは、体験入部中。

勇者としての能力がちゃんとあると自覚し始めたら、自分の中に魔力がほんの少しだが感じとれたのだ。

強制帰還させられた時に、空っぽにされたのだが、約1日で僕の最大体内魔力量の1割にも満たないが回復してるのを感じ、改めて大気中の魔素を意識すると、極わずかであるが魔素があることがわかった。

下級魔法を1回使えば体内魔力はまた空っぽになるかもしれないが、試してみたい。

風呂場で試すことにする。

やってみるのは『ファイアアロー』

火属性の下級魔法だ。

魔法というのは、体内魔力を発動のきっかけにして、あとは大気中の魔素を取り込んで生成するのだ。

ファイアアローを例にすると、体内魔力で拳くらいの大きさの炎を作り、相手に向かって飛ばす。

拳台の炎は敵に向かって飛んでいる間に、大気中の魔素を取り込み膨れ上がり、矢の形になっていく。

これがファイアアローだ。

まあ、大気中の魔素を使わず、体内魔力のみでも魔法は生成できるけどね。

しかし、この世界は魔素がほとんどない。

はたして、しっかりとファイアアローは作れるか。

試す場所に風呂場を選んだのはファイアアローは打撃のような物理的な衝撃はほとんどなく、ただ燃やしたり火傷をさせるのが目的の魔法であり、さらに魔素が少ないので大した威力もないこと、そして水気の多い風呂場が最適と判断したのだ。

入浴のついでに、魔法が使えるか試してみる。

「ファイアアロー」

前に広げた右手の平から、ライター程度の火が出たと思ったらプシュ〜と消えた。

一応、魔法も使えるが、大気中の魔素はあてにならないので、魔法を使いたければ100%体内魔力で生成した魔法しか使えない。

まあ、使いたくてもモンスターがいない世界だし使うことはないだろう。

「お兄ちゃん、お風呂まだ開かないの?」

「そろそろ出るよ」

妹の和美から呼びかけられた。

そういえば、家族には『勇者のカリスマ』が効いてないな。


次の日

「おはよう!」

「おーす」

「おっはー」

クラスのみんなから挨拶を受ける。

「おはよう」

ぎこちなくも挨拶を返し、自分の席に着く。

早速、山岸君をはじめクラスカーストトップの人達が来た。

「政斗、山岸から聞いたぞ。運動が凄いできるんだってな!」

「今日は、バスケ部に来いよ」

どうやら、昨日のサッカー部での出来事が広まっているらしい。

「なあ、政斗。まじサッカー部入らない?」

山岸君の口調が戻ってくれて良かったが・・・

「ごめんね。今はやりたいことが他にあるから・・・」

この身体能力なら、おそらく1人で全国大会を優勝させることができるだろうが、やはりそれは間違っている。

まあ、文化系の部活なら大丈夫だろうが。


今日は体育の授業がある。

昨日のサッカー部で色々見せてしまった手前、手を抜き過ぎると変に怪しまれるので、運動神経抜群なクラスメイト的な感じに抑えて授業を受けた。

昼休み、昨日と同じくクラスメイトに囲まれた状態で食事等したが、昨日ほど僕にアプローチをしてくる者はいなかった。

・・・というのは、勇者のカリスマを制御できるようになったからだ。

常時発動スキルだとずっと思っていたが、意識して勇者のカリスマを抑え込むイメージをして、行き交う人に路を訪ねてみたら、普通の対応をしてくれた。

もともと、調整することの出来るスキルだったのかもしれないが、クリアランスではその必要がなかったので気付かなかっただけだ。

また、好感度が上がるといっても、最大で家族や親友等に抱く好感度らしい。

最初は気にもしない人物に好感を抱くため、飛び抜けて好感度が上がるらしく、その後は落ち着いて家族や親友くらいの親しみになっていくようだ。

だから、クリアランスから帰ってきた後、家族は僕に対し好感度が上がることがなかったのだ。

まあ、クリアランスで旅してた時も、仲間達とは親友的な感じであったし。

旅の仲間が、ずっと好感度上がりっぱなしてあったら、非常に面倒くさい。

そういえば、みんなどうしてるかな。


剣士:オリビエ・ロランス

パラディン:カイズ・マックス

魔法使い:リンカ・アーガス

聖女:アリーナ

そして、精霊ルルゥ

オリビエは、女性でありながら、アルトリア王国近衛騎士団副団長であり僕の剣の師匠でもある。

彼女の父親は、ガライ・ロランスと言い、アルトリア王国近衛騎士団長でもある。

この国では15歳で成人とみなされるが、女性であり、また16歳と若年ながら副団長であるのは、父親のコネだろうと噂されていたみたいだが、彼女の剣は王国で、いやクリアランスで1番であろう。

カイズは、アルトリア王国の北西に隣接する国であるヴァローナの軍人である。

その丈夫な身体を活かし、常にタンク役として敵を引きつけてくれた。

まだ20代半ばと若いが、武器や徒手格闘の腕前も1流であり、よく丸腰状態での戦い方を教えてくれた。

また、このパーティーにおける僕以外での唯一の男性であり、よく相談事の相手をしてくれた頼れる兄貴分だ。

リンカは、18歳という若さでアルトリア国立大学の魔法学と魔法戦闘の教授であった。

その魔力と知識は、千年に1人と言わしめた程であり、特に攻撃魔法が得意であり、無詠唱で発動させていた。

魔法においては、僕の師匠とも言える人物であり、無詠唱での魔法発動も教わった。

アリーナは、聖魔導教会の本拠地があるフェアリス共和国で聖女としての公務に勤しんでいた。

「魔王現る時、勇者と聖女現る」という言い伝えがあり、マリアがその聖女であった。

聖女として覚醒した経緯は省く。

教会に勤める僧侶達は、僧侶という身分を持ちながら冒険者をやる者も多く、回復系の魔法を得意とする。

その中でもマリアの回復魔法は普通の僧侶ではたどり着けないレベル10まで扱える。

経験はないが、彼女のレベル10ヒールは、生きてさえいれば身体の半分以上が消滅していても元通りになる程らしい。

また、クリアランスではマリアにしか使えない魔法もある。

それは蘇生魔法である。

蘇生魔法も条件があるみたいで死後2日以内であり死因が寿命や病死でないものに限った。

ルルゥは・・・たぶん精霊の一種だ。

実はルルゥは姿が見えず、また直接僕の心に話しかけてくる女の子だ。

そのため、ルルゥの存在について他の仲間は知らない。

僕がルルゥとお話していると、みんなは「マサトが、また謎の独り言を始めた」と呆れてたっけ。

そういえば、強制帰還される時、あの部屋のトラップにかかり、体内魔力が謎の装置で吸い取られている最中に・・・

(マサト! プロテクションをかけるの!)




魔王を滅ぼした瞬間、魔王軍の戦闘力がいきなり崩れた。

この時に、クリアランスの各国の軍人達は魔王が滅んだことに気付いただろう。

アルトリア大神殿、僕が召喚された場所に設置されている、神から受け取ったとされる宝石・・・光魔石。

魔王復活が近づくと赤く点滅を始め、復活が近づくににつれ点滅の間隔が短くなり、魔王が復活したら点灯状態になる宝石だ。

この宝石の点灯が解け、元の透明な宝石になったことで、魔王が滅んだという証明にもなった。

転移魔法が使える僕らは、魔王を滅ぼした次の日にアルトリアへ帰ってきた。

それからは、国をあげての祝賀会だ。

他国からの重鎮も、僕ら勇者パーティーへの挨拶を兼ねて祝賀会に参加し、これが1週間も続いた。

いや、もしかするともっと続いたかもしれない。

何故なら、祝賀会が連日続いた7日後に僕は現世に強制帰還させられたからだ。

あの日以外は、アルトリア国内と他国の重鎮に囲まれ、まともに食事さえできなかった。

僕以外の仲間達にも多くの人が集まっていたな。

アリーシャ姫は5日目まで祝賀会に参加されていたが、もともと身体も弱く、6日目からはご自分のお部屋で休んでおられる。

しかし、あの日に限って僕のところにはあまり人が集まらず、他の仲間達には今まで以上に人が集まっているようにも見えた。

そんな中、宰相から声をかけられた。

「勇者様、祝賀会が始まって、もう1週間だというのに、まだまだ皆様の活気は高まるばかりですな」

「そうですね。町を見てもずうっと祭が続いてますし、こんなにも国民が喜んでくれたのならやりきって良かったです」

「えぇ、この平和が通常でしたら約300年。魔王というのは復活する存在ですから、それまでには次の勇者様のご負担が少しでも減るように軍の強化と今回の事を歴史として後世に語り継ぐのが、私共の役目であります」

宰相は目を細め、この平和になった世界を喜んでいる人々を眺めているようだ。

「さて、勇者様。実はアリーシャ王女が勇者様をお呼びでして」

「姫様が? お身体の具合は大丈夫なのですか?」

「えぇ、問題ないかと。勇者様に伝えたいことがあるようで、第5会議室へ来ていただけますか。」

「わかりました、みんな・・・まあ、いっか」

みんなに一言声をかけようとしたが、みんな沢山の人に囲まれて動けそうにない。

まあ、少しの間いなくなったところで問題ないだろう。

実は、アリーシャ姫が僕を召喚した張本人である。

もともと王家の人間にこの特殊な召喚能力が受け継がれているようで、それが発揮されるのは光魔石が赤く点滅を始めると・・・つまり、魔王復活の予兆が現れると王家の人間の誰かが召喚能力を覚醒するらしく、この度はアリーシャ姫が覚醒したというわけだ。

アリーシャ姫は僕の座学の教師でもあった。

座学は、主に語学と歴史だ。

そりゃ異世界だもん。

言葉は通じないもん。

召喚能力を持つアリーシャ姫は、召喚した者とテレパシーみたいなやり取りができるため、召喚されてからはアリーシャ姫の教育を受け、おかげで3ヶ月程でカタコトだが言葉を覚えることができた。

言葉を覚えた後は、午前中はアリーシャ姫から歴史の教育を受け、午後はオリビエから剣の稽古を受けるといった生活を送った。



宰相の導きで会議室のドアが開かれた。

会議室といっても、応接室に近く、入って正面奥に議長席があり、その手前にテーブルがあり、テーブルをコの字になるようにソファで囲っている。

だが、アリーシャ姫の姿が見えない。

「アリーシャ王女をお呼びしますので、ソファにかけてお待ちください」

宰相はそう言うと、隣の部屋へ続くドアをノックし、隣の部屋へ

入っていった。

僕は言われるままにソファに腰をかけた。

(マサト、この部屋・・・何だか変)

ルルゥが近くに来ている。

「どうした、ルルゥ。何か感じるのか?」

(マサト、嫌な感じがする。この部屋から出たほうが良い)

「嫌な感じといっても、魔族や魔物の気配なんか感じないぞ」

僕にとって、魔族や魔物以外の生物は、もちろん人間を含めて襲われたところで、たとえプロのアサシンであっても簡単に返り討ちするくらいには自信がある。

まあ、勇者の加護を受けている僕の仲間達は除くけど。

勇者の加護というのは、勇者スキルの1つである。

魔物・・・簡単に言うと魔界の野生動物、モンスターとも呼ばれている。

これらは、致命傷を与えることができれば普通の人でも倒すことができる。

だが、魔族・・・これは魔界の知的生命体、これらは普通なら致命傷と思える攻撃を与えても、倒すことができないのだ。

唯一倒せるのが勇者であり、そして勇者に選ばれ勇者の加護を受けた者だけだ。

勇者の加護を受けた者は身体能力や体内魔力が飛躍的に上昇する。

しかし、勇者の加護は誰にでも与えられるものではない。

人数制限があるのだ。

僕の場合はオリビエ、カイズ、リンカ、アリーナの4人までしか与えることが出来なかった。

そのため、歴代勇者パーティーは少数精鋭というのが通常である。

しかし、自分の仲間以外で僕を倒せる者はいないと思ってしまっていた、この傲慢さがアダとなった。

それは、突然だった。

「あれ?」

急に目眩が起きた。

それと同時に急激な脱力感が襲い、ソファに座っていられなくなった。

ボワンボワンと耳鳴りみたいなのが始まり視界がグルグルまわる。

(マサト!マサト!)

ルルゥが僕を呼んでいる?

仰向けになり天上を見ると、それがあった。

見たことのない魔法陣が発動している。

体力と魔力がどんどん奪われていくのがわかる。

ガチャリと隣の部屋のドアが開いた。

出てきたのはアルトリア国王、ユザール・フォン・アルトリアと宰相であった。

「ガガ・・グ」

口にも思うようにチカラが入らず、言葉が上手く出せない。

「マサトよ。悪く思わないでくれ。これも仕方のないことなのだ。」

「勇者様。命の保証はします。ただ、あなた様には記憶を失ってもらい、そして元の世界に帰っていただきます。」

どういうことだ・・・元の世界だと。

「納得いかないだろう。あまり時間はないが説明くらいはしてやろう」

ユザールが喋りだした内容はこうだ。

今から4代前の勇者、約1000年前に遡るが、魔王を滅ぼした後にやる事を失った勇者は、世界征服をもくろんだのだ。

勇者の戦闘力は1国の軍事力の数倍はある。

誰にも止められず、クリアランスは勇者という魔王にかわる新たな驚異に支配されるのかと誰もが絶望した。

しかし、この勇者の加護を受けた者達は違った。

路を誤った勇者を正すため、断腸の思いで勇者を斬ったのだった。

まだ、当時のアルトリア王国内部で済んだことだったので、他国に勇者謀反は伝わらずにすんだが、勇者を殺めたことが知られる訳にはいかなかったため、他国には勇者は元の世界へ戻ったことにしたという。

この出来事を教訓に、勇者が魔王を滅ぼした後、元の世界へ戻すための方法の研究、勇者の記憶や力を封じる研究を約200年続け、そしてでき上がったのが、この魔法陣であった。

それから3代前の勇者からは、魔王討伐後は記憶を取り除き強制帰還をしてきたのだという。

「王よ、間もなく帰還魔法が発動します。お下がりください」

後頭部と首の間がビリビリと痺れ、気を失いそうになる。

(マサト! プロテクションをかけるの!)

ルルゥが叫ぶ。

プロテクションといっても・・・かけたところで、これは物理的な攻撃ではないから意味ないんじゃないか・・・。

(記憶に! 思い出に! プロテクションをかけて!)

記憶や思い出にって、そんな概念にプロテクション意味あるのかな?

薄れ始める意識のなか、無詠唱でプロテクションをかけてみる。

対象は僕の中の記憶や思い出だ。

漠然とした対象であるがプロテクションが発動した。

バァン!!

ドアが激しく開かれた。

「マサト!」

この声は・・・

「オ・リ・・・ビ・・エ」


仲間達のことを思い出してる内に、強制帰還された時のことも思い出してしまった。

結果として記憶にプロテクションはかかってくれたので、クリアランスでの記憶、思い出はしっかりと残っていた。

オリビエが助けに来てくれてたんだな。

彼女は冒険に旅立つ時に最初からいてくれた仲間であり、勇者の加護をかけたのも彼女が初めてだ。

また彼女は「私は、あなたの剣となる。常にあなたの側であなたを守り抜くことを誓う」と、なんだか騎士道精神な誓いをしてくれた。

みんなに会いたいな。

まだ別れてから3日程度であるが、別れの挨拶もできなかったのが心残りだ。

会いに行こう。

極めて濃度は薄いが、大気中の魔素をかき集めて体内魔力を回復させれば、転移魔法でクリアランスにいけると思う。

異世界を転移・・・やったことはないが、強制帰還で経験はできた。

理屈や理論はわからないが、感覚でわかる。

転移魔法で異世界へ、クリアランスへ行ける。

魔素の集め方だが、スキル、マナストックを使おう。

「マナストック」

手の平からフラスコのような形の物が現れる。

これは、自然に効率良く大気中の魔素を取り込んでくれる装置型のスキルだ。

マナストックの最大容量は、発動した者の最大体内魔力量と同じだ。

使い道としては、たとえば究極魔法みたいに体内魔力の半分以上費やす魔法を連発したい場合等だ。

マナストックに溜まった液状になった魔素を飲むことで体内魔力が回復するのだ。

ただ、このマナストックは、実戦で使うことがなかった。

そもそも究極魔法を連発するような事態にならなかったし、多少魔力を使いすぎても、魔素の濃いクリアランスでは半日もかからず体内魔力は全快していた。

とりあえず、マナストックを窓際に置いておく。

網戸越しに外から魔素を取り込んでいる。

概算だが、異界転移するとなると恐らく僕の最大体内魔力量の7割前後を費やすと思われる。

マナストックが8割り以上溜まったら、異界転移を試してみよう。



今日は土曜日だ。

マナストック発動させて約1週間で、マナストックはほぼ満タンとなった。

8割り溜まったらと思ってたが、やっぱ念の為に体内魔力はマックスにしていほうが良いと考え直した。

一応感覚ではあるが体内魔力の7割前後で異世界転移はできると思ってたが、失敗すると体内魔力だけ失われ少しも移動できてない状態になってしまうからだ。

また溜めるまでに1週間費やすのも嫌だし。

ちなみに、1週間で僕の体内魔力は自然回復で2割弱といったところだ。

まあ、元の体内魔力量がかなりあるので、2割弱回復すれば、上級魔法を1発くらいは使えるかな。

まあ、それは置いておいて、今は異世界転移だ。

「よし。試してみるか」

マナストックを持ち上げ、溜まったマナ液を一気に飲み干す。

身体中に染み渡る魔力の流れを感じると共に体体内魔力が湧き上がってくるのを感じる。

「よしっ! これなら行ける!」

明日は日曜日だし、日帰りを予定しているが、向こうで1泊しても大丈夫だ。

いや、家族に心配かけると思うが、まあ何とかなるだろう。

あとは、転移場所だ。

一度行ったことのある場所ならそこを思い出して転移魔法を使えば、その場所に転移できる。

アルトリアの首都アルティーへ転移して、万が一国王や宰相に知られたら不味いので、アルトリアの西中央、カイズの出身国ヴァローナの南に位置する獣人達の国、ガロンへ転移することにした。

さらにガロンの首都『獣王の牙』より離れた名もなき村の近くへと行き先を決めた。

「ふうっ。 行くぞ!」

少しばかり緊張するが、気合をいれる。

「転移!」



軽い目眩が治まり、辺りを見るとそこはイメージした通りの場所であった。

「戻ってきたんだ」

僕にとっては、この世界は第二の故郷、いや思い入れが強い分、こちらの世界のほうが僕の生きる世界と感じてしまう。

転移で体内魔力の約6割が減っているのを感じた。

予想より使用した魔力は少なかった。

しかし、その減った魔力も空気中の魔素により急速に回復している。

とりあえず村へ向かうかと思った矢先、気配を感じた。

凄い勢いでこちらに対ってくる・・・こいつは。

「ワォ〜ん」

遠吠えに似た雄叫びを上げながら僕に飛びついてきたヤツがいる。

まあ、僕も気配で誰だか分かってたので、そのまま抱きかかえる。

「ひさしぶりだな。ワッフル」

「マサト! 会えて嬉しいぞ! ワォーン!」

こいつは犬獣人の娘、ワッフル。

魔王討伐の旅に出たばかりのころ、この国は魔王軍に攻められていた。

とくに、この村は魔王軍の駐留所になっており、村人は奴隷のように虐げられていた。

まあ、僕らが魔王軍をぶっ潰し、この国を助けたんだけどね。

特に被害が酷かったこの村にしばらく滞在して、復興の手助けをしていたんだけど、その時にワッフルと出会っていた。

「たまたま山菜とりに、この辺に来ていたんだ。そしたらマサトのニオイを感じたんだ。いてもたってもいられなかった。」

獣人達は、獣の性格も受け継いでいるので、その獣独特の個性をかもしだす。

ワッフルみたいに犬獣人なら、嗅覚は優れ、このようになつかれたら、もの凄いスキンシップをする。

「ところでマサト。背、低くなったか?」

「まあ、これには色々訳ありでな」

「でも、マサトはマサトだ。また来てくれて凄い嬉しい。村のみんなのとこにも行くぞ!」

「おっと、そんなに引っ張るなって。」


ゴトッ


ポケットから何か落ちた。

スマホだ。

今の僕の格好はというと、家でくつろぐ用のジャージ上下だ。

さらには、裸足である。

まあ、こちらの世界ならジャージ上下ならあまり浮くような格好ではないし、獣人は素足で生活している者が多い。

ガロンの人口割合は獣人が約8割りを占めるため、素足でいても気にされないと思う。

スマホを広い、せっかくだからこの世界を映像で残しておこう。

カメラモードからビデオ撮影モードに切り替える。

「マサト、何だそれ」

「あぁ、気にするようなものじゃないよ」

機械という物が普及していないこの世界だと、説明してもわからないだろう。

ワッフルは、鼻を近づけスマホをフンフンと嗅いでいる。

「マサトのニオイはするな」

「ははっ、まあ僕のだからね」

そして、撮影をしながら村へと向かった。

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