大人しい女の子は好きですか?
私はドストライクです。
「おはようございます」
場所は列車の車両の中。時間も通勤時間なこともあり、学生とサラリーマンであふれていた。幸いなことに混むのは次の駅からなので席は空いてることは空いている。
そしてだが、私に挨拶するこいつは名も知らぬ男。クラスメイト……というわけでもなく、男の家とか、どこの学校に行ってるのかも知らない。というか知る気は毛頭もない。だって、興味ないから。だから、謎である。どうしてわざわざ乗り合せただけの私に挨拶なんかするのか。
「どうも……」
私は男に聞こえないぐらいの声で挨拶をする。鞄をまたの下に下ろし、男の隣の席が空いていたので私は仕方なく座ることにした。ポスっと男の隣に座り、私は携帯を取り出す。話しかけないでというオーラを出しているのにも限らず、男は話しかけてくる。
「今日は早いのですね?昨日はいなかったので一本遅いので行ったのかと思いましたよ」
「……昨日は寝坊した……」
と少し不機嫌気味に返す。私の恰好を見てみると今日もギリギリに起きてきたから髪がボサボサになっている感じだ。
「あなたらしいですね。勉強の疲れたとかですか?」
「昨日、ゲームのアプデがあった……」
私は、目線を合わせずに答える。男は少し呆気にとられ口をあんぐりさせる。
勉強?それなら綺麗な教科書を見る事を言うなら私は勉強をしている。なんて冗談を口には出さず静かに答える。
「はははっ、それなのに肌荒れしないのですか?よくその美貌を保てますね」
男はそう気障らしくいう。私はこの男がなぜ笑っているのか、不審そうに見るなんだこの男キモい。よくそんな事言えるな……
「いや、そんな顔されなくても……」
さて、ぶっちゃけるが私がこの男に抱いている感情について単刀直入に言おう。私はこの男が心のそこから大嫌いだ、と思う。チップをかけてもいい。いくらイケメンだろうが人のプライバシーに侵入してくるのは最低だ。
このプチっと頭の何かが切れてしまいそうな感情が愛?
『殺意の衝動でしょ』神のお告げ?
「……」ヒキッ
「?」ニコニコ
露骨に嫌な顔をしてもこの男は全く気付いてない……というかむしろ私が照れてるとすら思ってる。それだけで鳥肌が立つ。自分がかっこいいと思ってんのか?ナルシストめ。
だが、残念な事に男は客観的に見ればイケメンだ。周りの乗客はコソコソと
「あの人カッコよくない……?」「わかるぅ〜」
というコソコソ話が聞こえてくる。
「……ふふっ……今日も綺麗ですね」
そう言い、男は気持ち悪い瞳でしっとりと眺めてくる。
「……うるさい。電車出発するから黙ってて……」
「手厳しいですねぇ」
それでも男はニコニコと笑った。ムカつく……そんなんで私に勝った気でもなってるの?
「……さっきから社会の窓が開ている」
「ほわっ!?」
男は焦ってか勢いよく、下のチャックを確認する。だが、チャックは開いていなかった。それを見ていた乗客していた人達はふふっと笑っており、男はますます顔を赤くする。
「や、やりますね?……」
「……ふん」
私は運すらも味方につける……
イヤホンを耳に突っ込み、私は電車にゆりかごのように揺られながら外を眺める。
一年も乗っていれば見慣れた光景だ。変わらない乗客に変わらない風景。そして変な男。実にいつも通りだ。
目的地の駅につき、私は起きて電車を出る。外は電車の中とは違い、肌寒く、冬を感じさせるがまだ雪は降っていない。ニュースで見たが異常気象で今年は雪が降っていない。何回が降ったらしいが私は見ていない。
「……んじゃ」
手袋をつけ、マフラーに顔を埋めながら、チャック男に別れを告げ、改札を出て、数歩歩いて止まる。
「……なんでついてきてるの?」
後ろを振り向くとさっき別れを告げたはずの男が立っていた。なんで?次の駅じゃないの?と疑問となる。
「お!やっと反応してくれましたね!てっきり自分は透明人間になったものだと思いましたよ」
「……セクハラしたら殺す」
「ありゃ、思考を読まれていましたか。残念」
「……通報」
私は携帯を取り出し、携帯に110を入力する。
「ま!待ってください!誤解です!だからその右手の携帯をしまってください!」
手袋してるから反応しないけどね。
〜ストーカー男説明中〜
「……ふぅーん?こっちから行ってもそんなに変わらないから降りたんだ」
男の言い分だと次の駅からでもいいけど、こっちの方が近いらしい。ただ、どうやら聞いていた感じ、ストーカー男の通ってる高校はここからだと坂道になっている。
わざわざ坂を登っていくのか……
「……分かってもらえてうれしいです。まぁ、それは建前であなたと歩けるなら多少の労力は伴いというのが本音ですけどね」
「…」
「そ、そんなに露骨に嫌な顔しないでくださいよ」
私は男を無視して再び歩き始める。
「……私はいく」
「そんな急がなくてもいいじゃないですか。私とあなたの関係ですから、途中まで話して行きませんか?」
私の気持ちなど知ったこちゃない、お構いなしに横に並んでくる。
補足だが、私の身長小さくて男は大きいののだが、気遣っているのかわざわざ私の歩幅に合わせて、車道側に立ってくれていた。こう言うところは気がきくのか……
並んでこなかったら百点満点の男だよ。
「……他人。だから半径一メートル以内に入らないで」
「えっ!?半径一メートルまではいいですか!?」
「……やっぱ、十メートル」
「えぇっ!?」
私は早足で学校に向かい、男はついていくという構図ができていた。
その後は「こっちなので」と男とは普通に別れた。だが、この時の私は知らなかった。この行動が誰かに見られてる事に……
学校に着き、ふぅっと席に座ると、1人の女子が近づいてきて、机をバンっ!と叩いてきた。あぁ、うるさいなぁ、もっと静かにして
「都子!聞いたわよ!!」
この茶髪のポニーの女の子の名前は山村三波。小学校からの腐れ縁で、高校でも同じクラスになった。
むしろ違うクラスになったことがなかった。だけど、中学校はあんまり喋らなかった。なぜかというと、私は文化部であっちは運動部で時間が合わなかったからという単純な理由でだ。それだから私がいつも先に帰っていた。
「……何が?」
こてんっとわざと惚けるように首を傾げる。なんとなく想像はつく
「とぼけても無駄よ!!あなたは今日の朝、イケメンと並んで登校してきたらしいわね!しかも聞くに南高校のそんな生徒会長さんらしいわね!」
イケメン?……ストーカーならいたけど……
「……そんな奴知らん……私は寝る」
私は机にバックを枕代わりにして、眼鏡を外して眠る体制に入る。
「ちょっ!?ね、眠らせないわよ!!」
三波は、バッとバックを奪い、私の安眠を邪魔する。
私の邪魔をするの?……
「アァァァ……!」
「そ、そんなに睨まなくたっていいじゃない……」
と三波は、怯えながら枕を返す。
「……ふぅ、三波」
そんなわけないだろ。ただ返してもらっただけで満足するつもりは、ない。
「どうしたの?やっと話す気になった?」
「駅前の喫茶店、男、デート、初めてのオシャ……モゴっ……」
三波は焦ったように私の口を手で押さえ、教室を見渡す。教室はというと特に私達の会話を聞いた人物はいなく、
「み、みやこ……!どこ、からその情報を……?」
「……舐めないで欲しい……友人の行動などマルッとお見通し」
と言っても、この前駅で見かけて誰かと待ち合わせをしている感じの様子で適当に言ったのだが……そっか。とうとう私の友達には春が来たのか。今冬だけど
「くっ!……」
「……そういえば、今日まだ三波にくしで髪といてもらってないなぁ……」
髪をくるくるっととぐろを巻きながらチラッと三波を見る。
「な、なんてずるい女なの!?……」
三波は驚いたように後ずさる。
「結衣ちゃんに黙ってて欲しかったら、言う通りになるよね?……」
「……そんくらい自分でやればいいじゃない……」
「……返事は?」
「……はい」
そう言い、三波は項垂れながら、私の髪を自分のくしでといてくれる。
「ふふっん♪〜……」
だって、家で手入れめんどくさいもん。これから毎日、これをだしにしてやらせよ。
と私はゲスいことを考えていた。ちなみに
「あんたら……朝から仲良いわね」
と結衣ちゃんに言われた。そうです。仲良しです。
「都子!!今日は勘弁してあげるわ!明日!覚悟しておきなさいよ!!」
「早く行け……また部長に怒られる」
「くぅぅ!!!!!お、覚えてなさい!!」
そう三波はいつも主人公に負けてるキャラの言いそうな捨て台詞を吐き捨てながら、何処かへと走り去った。
「……」
私はそれを見えなくなるまで手を振り続け、昇降口へと向かい、帰路に着く。やっぱり1人は落ち着く。
「あっ、やっと来ましたね。あなたが来るまで何人の女性に口説かれたと思うのですか。」
やれやれという表情で手を動かす目の前には朝の男がいる。
「……どうでもいい……」
「どんなに早歩きしたって無駄ですよ?あなたの身長でその歩幅だったら、余裕で追いつけます。逃げられませんよ?私からは!」
と犯罪者が言いそうなセリフNO1を言いながら私を追いかけてくる。おまわりさん。こいつです。
「……ロリコン」
「おや、自分がロリである自覚はあったのですね」
プチっ
「?どうしたのですか?ポンポンがいたいたいですか?」
近くの中学校、野球場、そしてフェンスのないコース……私は横を見て、その場でしゃがみ込む。
「……高き空を知る鳥は、あえて地に足をつける。これの……」
「……?何かの名言でしょうか?」
男は急にしゃがんだ私を不思議そうに眺める。
「意味は……」
「ぶっ!!……」
すると男は予測していたコースから飛んできた野球ボールを横っ腹に食い、
「飛来物注意」
くの字に上半身と下半身を折り曲げ、その場で膝をつき
「ぶべらっ!!」
変な声を出した
私はすっと立ち上がり、置きざりにするように歩き始める。見捨てる?そうですね。人じゃない?そうですか。
「……さようなら」
「ま、まって……」
もう貴方と会う事は無いででしょう。これからの人生に幸があらんことを
「駅前のイチゴのショートケーキを買おう!」
ピタッ
「……本当?」
「あぁ!もちろん!」
そう?だけど私はそんな安い女じゃないわよ……
「♫〜」
私は目の前に広がるスイーツの山をキラキラっと眺めながらスプーンで一口切り取り、口に運ぶ。んー……この甘み、だけどしつこくもなく、後からくるこの渋味……最高
「あー、財布が空っぽになってしまったよ……」
と男は今月のバイト代出るまで金なしだと嘆く。
「……貢いだと思えば安い物」
「それもそうかな……」
と男は少し悲しそうに財布をながめていた。
私はそんな姿を見て、少しかわいそうだなと感じ、
「ん…」
「えっ?」
私はスプーンで一口分を掬い取り、男にケーキをわける。
「いいんですか?そもこれって…」
「…君が買ったやつじゃん…別にいい」
「あのそういうことじゃなくて…間接キス…になったいますよ」
...あー、そういうこと。細かいこときにするのね
私は代わりのスプーンを店員さんからもらい男に渡す。
「これなら文句ないでしょ…」
男はスプーンをもらい、食べる。その表情はおいしそうにたべていたけど、少しがっかりしている顔だった
私はご馳走さまをし、皿を片付ける。なんというか癖だ。
「……じゃ、帰ろっか」
「えっ?」
えっ?何その反応?
「帰らないの?」
「いや、さっきまで嫌がってたから、てっきり逃げるものだと……」
はぁ?一体私をどんな存在だと思っているのか?奢って貰ったんだから、お礼に言う事を聞くのは人として当たり前でしょ……
「……約束は違えない。今日ぐらいは付き合ってあげる」
「っ!……」
男はバッと口元を隠し、目元をうるわせる。えー急に何?とりあえずキモい
「……どうしたの?」
「いや、その口元にケーキの残りカスがついてますよ……」
「……ふん。それは言わないのがお約束」
私はティッシュを取り出し、拭き取り、その後は特に目立った会話もなく、男と一緒に電車に乗った。
「じゃぁね」
「さようなら。また明日も今日と同じ時間ですか?」
「うん」
「……まぁ」
「そうですか。ならまた明日も会いましょう」
「……」
また、明日か……考えておこう……
家につき、やる事は全てやり、布団に入る。
「……今日は色々あったな……」
思い返せば、今日はいつもとは違かった。いつも隣にいた男が話しかけてきて。一緒に学校に行って、一緒に帰ってきて……あれ?これってカップルっぽい?
「……」
意識してみると側から見たらカップルだった。まぁ……私にとってはただの隣にいる男。意識するような事はなかった。
「変な男……」
「そういえば名前聞いてないや……」
「明日、聞こうかな」
私は、すっと眠りについた。明日の電車に寝遅れないように
「あ、あぁ……と、とうとう今日話せたぞ……!!明日こそはな、名前を聞き出さないと……!!!」
男はというと次の日の朝、ギリギリ電車に乗り遅れたという。