第一幕 新たな旅立ち Ⅰ
……目が覚める。
まだ夜なのだろう。
外が暗い。
俺が意識を失った後の出来事は、シーリスにある程度聞かされ、理解していた。
シーリスは、ゲーテの行動が理解できないと言っていたが、それでも俺たちは彼に助けられたんだと思う。
そして、時間と使命を与えられた。
ゲーテが残していったルルは、力が必要な時は呼んで欲しいと言い残して姿を消した。
小指の指輪に目をやる。
ルルとの契約の指輪であり、必要な時に念じれば彼女を呼べるらしい。
ルルは油断できないが、ゲーテの行動から見て今のところ敵ではないようだ。
ベッドを降りる。
隣では、シーリスと紫苑が寝ている。
紫苑はしばらくは意識を失っていたが、意識を取り戻した。
なんとか間に合ったようだ。
俺は自分の手を見る。
三つの神の欠片を取り込んだ結果、完全に身体の感覚を失っていた。
それでも、この力がなければ、紫苑を術具の呪いから助ける事が出来なかったのだから、後悔はしていない。
あれからヤテ村に帰ってきた。
アマフィス祭が終わったヤテ村は静寂を取り戻していた。
寝ている二人を起こさないようにベッドを降りる。
特にシーリスは、寝ていてもある程度周りの状況を把握しているので、取り込んだ隠遁華の力がなければ、気づいてしまうだろう。
外に出ると、満面の星空広がっていた。
「どうしたんだ?」
声をした方を見ると、鬼火が浮いていた。
「紫苑が寝ていても活動できるんだな?」
「ああ、紫苑の意識がなくなったり、瀕死になると身体を保てなくなるが、寝ているだけならこうやって活動できる。あまりあいつから離れられないけどな。……それよりどうしたんだ?」
鬼火が若干身体を揺らす。
「ちょっと色々考えたかっただけだ。」
「そうか。」
「ああ、自分が神の片割れだと言われても、実感がわかないんだ。」
俺は、空を見上げる。
幼いころから、感じていた違和感の正体はこれだったのだろう。
なぜか、自分が作られたもののように感じていた。
その思いの正体が分からなかったが、今なら少しわかる。
多分、無意識に気が付いていたのかもしれない。自分の中にいるもう一人の存在がいることに、そしてそのもう一人の存在が、自分の本当の正体だということに。
「実感はわかないんだが、納得できているんだ。俺の意思は、俺の物ではなく、多分、リエルという存在の物なのだろう。」
鬼火は黙って俺の話を聞いている。
「神の欠片を集めていき、力を手に入れるほど、俺は、俺の意思は、多分、そのうち消えるんだろうな。」
漠然とした不安の正体を口にする。
それまで黙って俺の話を聞いていた鬼火が身体を揺らす。
「……それでも、俺は、お前が紫苑を助けてくれたのは感謝しているぜ。お前はお前の意思で、紫苑を助けてくれた。そうだろう?」
俺はゆっくり鬼火の方を向く。
「それが分からないんだ。今こうやって話している俺も、元の俺なのか?」
鬼火は少しだけ考えるように黙る。
「……それを確かめる方法に一つだけ心当たりがある。『真実華』。すべての存在の真偽を明らかにする力を持つ神の欠片。それがあれば、今のお前の疑問は解決するかもしれない。だがな、結局は神の欠片を集め続ける事でお前は神人に近づいていく。」
鬼火は身体を揺らす。・
「……それでお前はどうしたいんだ?」
俺は少しだけ考える。
「神の欠片を探す。故郷の人達を助けるには幻想華が必要だ。それにアリエスがまた現れたら今のままだと対抗できない。」
「それでよいのか?」
俺は深く呼吸をして、口を開く。
「ああ。」
俺はそう口にしながら、星空を見上げた。
……何が正しいのか、今はまだ分からない。
でも、自分がやらなければならないことはなんとなく分かっていた。
例え、その結果、待つべき物が己の死だとしても……。
しばらくの間、星空を見上げながら、立ち尽くしていた。




