第四幕 決意 Ⅵ
紫苑が悶え苦しんでいる。
苦しみ方が尋常ではない。
呪いの般若面と呼んでいたあの仮面、紫苑の戦い方から見て、かなり強力な式具なのかもしれない。
かなり強力な式具ということは、それだけ精神に負荷がかかるということ。
このまま放っておくと紫苑は死んでしまうかもしれない。
アリエスは吐血しながら立ち上がると、ふわりと宙に浮く。そのまま紫苑の方を向く。
まずい。
アリエスは紫苑に止めを刺す気だ…。
左手は完全に動かない。
激痛がはしる。
骨を何本か折られているのだろう。
かろうじて動く感覚のない右手で、懐にしまっておいた領域華を取り出す。
……覚悟を決めていた。
シーリスを助けると決めたあの時に。
俺は残りの力を振り絞る。
「領域華よ。時は満ちた。己の本来の役目を果たし給え。」
隠遁華の時より強い衝撃に襲われる。
不意に意識が遠のく。
目が覚める。
目の前に広がるのは、真っ暗な世界。
その真っ暗な世界で座り込む自分。
なんだかよく分からないものが身体にまとわりつく。
自分の意識が底なしの沼に沈んでいく感覚。
自分が消えていく感覚。
涙が流れる。
悲しいのか?
何が?
先ほどまで考えていた事が分からなくなる。
自分から溶けて流れ落ちていく何か。
とても大切なものだったはずだが思い出せない。
無くさないように必死に掬おうとするが、手の僅かな隙間からこぼれ落ちていく。
?
俺は誰だ?
何をしていたのだろう?
そんな当たり前の事すら思い出せない。
気がつくと、真っ暗な世界でただ座り込んでいる。
やがて考えることをやめてしまう。




