第四幕 決意 Ⅳ
強い衝撃におそわれる。
身体が自分の物では無いように軽い。
右の拳を握ったり開いたりを繰り返す。
……思い通りに動きはするが、完全に感覚がない。
そして気がつく、右の拳どころか右半身全体に感覚がないことを。
背筋に冷たいものを感じる。
左の拳に犠牲華の時と同じように文字のような痣が出来ており、違和感を感じるが、感覚はまだ残っている。
このまま領域華を同化させれば、次は左半身の感覚を持っていかれるのかもしれない。
考えるのは後だ。
神威を抜刀する。
白い炎を纏った刀身。
「え〜と、貴方は誰?もしかして、お兄様?それとも…。」
アリエスの言葉が終わる前に、俺は体勢を低く屈め、神威の刀身を少し下げるとアリエスに向かって駆け出す。
「違うわね。」
アリエスの声のトーンが急に下がる。
自分の身体ではないように早く動く。
アリエスが右手を前に掲げる。
神威の切っ先がアリエスに触れそうになった途端、辺りに金属音が鳴り響き、見えない何かに遮られる。
次の瞬間、とてつもない力に俺の身体は弾き飛ばされる。
俺の身体は後方の木々にぶつかりながらようやく止まる。
全身に痛みは感じるが、まだ戦える。
隠遁華を取り込んだおかげだろうか。
アリエスはふわりと宙を浮かびながら近づいてくると、俺の近くで着地する。
「お兄さん、まだまだだね。ちょっとびっくりはしたけれど、私のお兄様には程遠い。」
アリエスが再度右手を掲げると、俺の身体は急激な重みを感じ、地面にめり込む。
身体全体が軋む。
激痛が全身に走る。
「お兄さんには、あまりひどいことをしたくなかったのだけれど、とりあえず、体中の骨は折らせてもらうわ。」
アリエスは嬉しそうに笑っている。
俺の苦痛の叫び声があたりに響く。
「生きてさえいればそれで良いから手加減はしないわ♪それにしても貴方、お兄様の声に本当によく似ているわね。なんだかゾクゾクする。」
「そこまでにして頂けますか?」
聞きなれた声と共に俺の身体は、急激な重みから解放される。
痛みでぼやけた視界が妖魔化した紫苑の姿を捉える。
「……何しに来たの? 目障りなお姉さん。」
アリエスは急に不機嫌そうになる。
「クレスさん、大丈夫ですか?すぐにお助けします。」
紫苑は俺の方を見て笑顔を浮かべると、頭の上に載せている般若の面を手にし、顔に付ける。
般若の面を付けた紫苑は、彼女の物とは思えない奇声を上げ、ひどい猫背の姿勢になる。
「呪いの般若面。そんなものを持っていたのね。非力な存在は大変ね、自らを犠牲にしなければ、力を得ることができないのだから。」
アリエスは紫苑の方を向く。




