第四幕 決意 Ⅱ
満たされた気持ちになる。
クレスの首に牙を突き立てる私。
今までに感じたことのない幸福感に包まれていた。
……もう、私には、クレスを殺すことはできないかもしれない。
そう感じた。
リエル様をずっと待ち続けて、三百年という長い年月を生きてきた。
その思いは、本当だし、今でもリエル様は私の憧れだ。
でも、クレスと一緒にいると安心できる。自分の心が満たされるのが分かる。
私は、クレスの事を好きになってしまったのだろう。
どこかで気が付いていたのかもしれない。
でも、その気持ちを認めたくなかっただけなのだと思う。
お姉様はこんな私を許してくれるだろうか?
※
息が上がる。
腕が上がらない。
でも、こんなところで諦めるわけにはいかない。
私は、長刀を構えながら口を開く。
「鬼火さん、あの銀色の人型がアリエスの化身ですか?」
「ああ。やはりアリエスはまだ力は戻っていないな。本来の力であれば、一体でも俺たちが適うような相手ではないぜ。」
「それなら、鬼火さんの読み通りですね。」
私は、長刀で銀色の人型を薙ぎ払いながら、口を開く。
切っても切っても再生する銀色の人型。
本当にきりがないが、時間稼ぎにはなるだろう。
何とか、七体すべてを切り捨てる。
切り捨てた銀色の人型は、地面で蠢いている。
「もう少し時間を稼ぐ必要がある。頑張れるか?」
長刀から鬼火さんの声が聞こえる。
私は薙刀を構えながら、大きく頷く。
次の瞬間、七体の銀色の人型は、突然動きを止めると一斉に地面に溶け込んでいく。
想定外の出来事に私が驚いていると、鬼火さんが呟く。
「まだ、時間が早すぎる。」
……嫌な予感がする。
「紫苑、俺たちはまんまとアリエスに嵌められたのかもしれない。」
鬼火さんの舌打ちが聞こえる。
「クレスさん達の援護に行きましょう。」
私はそう口にすると、駆け出す。
「おい、紫苑、待て、落ち着け。相手はアリエスだぞ。ここから先は本当に命の保証はできないぜ。それでも良いのか?」
私は足を止めずに頷く。
「私にとってクレスさんは、それぐらい大事な人です。それに、私には般若の面があります。ひと時であれば、アリエスを抑えられるかもしれません。」
「般若の面って、お前、何を言っているのか分かっているのか? 完璧な妖魔じゃないお前がアレを使えばどうなるかぐらい想像つくだろう。」
「最初にアリエスに襲われたあの時、私がもっとしっかりしていれば、もしかしたらこんな事にはならなかったかもしれません。あの時はシーリスさんに助けてもらいました。だから今度は私の番です。」
鬼火さんの溜息が聞こえる。
「ごめんなさい。鬼火さんまで巻き込んでしまって、でも力を貸して貰えませんか?」
「ったく、遥に本当によく似てきたな。あいつも言い出したら聞かない奴だったよ。俺の心は決まってる。お前の意思に従うだけだ。お前は俺の恩人の瑶の唯一の忘れ形見だからな。」
「ありがとうこざいます。」
「だがな、これだけは約束しろ。生きて帰るぞ。」
「はい。」
クレスさん、どうか無事でいて下さい。




