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第三幕 壊れゆく意思 Ⅷ

「良いか?坊主、この森を抜けた奥の洞窟に姫様は捕まっている。ここからはお前と俺達は別行動だ。手筈通りに上手くやれよ。」


 鬼火さんの言葉にクレスさんは大きく頷く。


「分かっていると思うが、くれぐれもアリエスには正面から立ち向かうなよ。奴に見つかったら逃げることだけを考えろ。奴はまだ完全には力を取り戻していない。それに姫様との戦いで力をだいぶ消耗している。今なら逃げることだけに集中すれば、逃げ切れるかもしれない。どうしても逃げ切れそうになければ、渡した領域華と隠遁華を一つずつ教えたとおりの手順で解放しろ。ただし、あくまで奥の手だ。神の欠片の力を開放し同化する度にお前はリエルに近づいていく。最悪お前の意思が消えてなくなる可能性がある事を忘れるな。」


 鬼火さんは昨晩から何度も同じことを言っている。

 それだけ今回の作戦は危ないのだろう。

 私とクレスさんは大きくうなずく。


「それでは、くれぐれも気をつけてくださいね。」


 私はクレスさんを見つめる。


「ありがとう。君達も危ないと思ったら俺に構わず逃げてくれ。それじゃ行ってくる。」


 クレスさんは、刀に手を添えると、ゆっくり歩きだす。


「クレスさん、またあとで逢いましょうね。」


 私がクレスさんに声をかけると、クレスさんは軽く笑いながら頷く。





「行ったな。」


 鬼火さんは身体を揺らす。


「はい。」


 私は目を閉じて、息を深く吸い込む。

 クレスさんがどうか無事で帰ってきてくれますように。


「おい、紫苑。本当に良かったのか?」

「何がですか?」

「お前、あの坊主を好きなんじゃないのか?」

「……え、あ、あの、……その。」

「あわてるな。どこからどう見ても丸分かりだ。お前は本当に分かりやすい奴だな。」


 鬼火さんは笑いをこらえるような声をしている。

 私はからかわれたのかと思い、鬼火さんを睨む。

 でも、鬼火さんは急に真面目な声になり、私を諭すように言葉を続ける。


「でもな、分かっているのか?あいつは、神人の器だぞ。どんなに望んでもお前があいつを手に入れることはできない。」


 鬼火さんは、私があえて考えないようにしていた核心を突いてくる。

 確かに鬼火さんの言う通りかもしれない。


 でも、それでも、私は……。

 私は、深く息を吐くと、笑顔で口を開く。


「……いいんですよ。私は。クレスさんのお役に立てればそれで良いんです。それに私はあきらめていませんよ。クレスさんをアリエスにも、リエル様にもちろんシーリスさんにだって渡す気はありません。鬼火さんが教えてくれたクレスさんがクレスさんのままで、この世界を救う方法に賭けてみます。」


 鬼火さんは少し沈黙したあと、声を上げて笑い出す。


「おい、おい、十二の大剣とは思えない言葉だな。……でも、俺は、好きだぜ。そういうの。だったら、まず精一杯暴れてやろうぜ。」


 鬼火さんは、強い光りを放って大きな薙刀に姿を変える。

 私は、その大きな薙刀を手に取りながら、思い出す。



 あの時、途方に暮れて座り込んでいた私に手を差し伸べてくれたクレスさんを。


 私は、あの手にどれだけ助けられたか?


 あの手を掴んだ時、私の世界は色鮮やかになった。この世界は、暖かいものだとクレスさんは私に教えてくれた。


 今度は、私の番。


 私はできるだけの妖気をあたりに放出する。



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