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第三幕 壊れゆく意思 Ⅳ

「一つだけ教えてくれないか?」


 俺は紫苑に問いかける。


「何でしょうか?」

幻想華げんそうかというものを知っているかい?」

「……幻想華げんそうか、あ、幻想華ミラージュジュエルの事ですか? 領域華と同じ神の欠片の一つです。その幻想華ミラージュジュエルがどうかしましたか?」


 紫苑は不思議そうな表情を浮かべる。


「俺は故郷の皆を助けるために、幻想華げんそうかを探す旅をしているんだ。その旅の途中でシーリスに出会ったんだ。」

「助けるためにとは、どういうことですか?」


 俺は、紫苑の問いかけに答えるために今までの経緯を説明する。


「石化ですか。」


 紫苑はそれだけを口にすると押し黙る。


「石化。間違いないな。犯人はアリエスの眷属の三姉妹だな。そいつらの本当の狙いは、十中八九お前だよ。小僧。」


 鬼火が炎の身体を揺らす。


 俺の瞳孔が無意識に開く。



 な、何だって?

 ……俺のせい。

 ……俺が、……俺のせいで、皆は。



 俺は自分の正体を知らされた時より大きな衝撃を受ける。


「鬼火さん、なんて事言うんですか!!」

「紫苑、お前が言い難い事を代弁してやっているだけじゃねぇか。何が悪いんだ? こいつには、自分の立場を分からせる必要がある。それが分からねえわけじゃないだろう?」


「鬼火さん、いい加減にして下さい。」


 鬼火の言葉を遮るように、紫苑は叫び声を上げる。彼女は、鬼火を睨むと顔を真っ赤にしている。


 紫苑と鬼火の間に険悪な空気が漂う。


「……二人とも止めてくれないか。」


 俺は言葉を振り絞る様に口を開く。

 紫苑と鬼火の視線が俺に向けられる。


幻想華ミラージュジュエルだっけ、それを使えば、俺の故郷の皆の石化を治す事ができるのか?」

「……あ、はい、それは大丈夫、なはずです。そうですよね? 鬼火さん?」

「ああ。問題は無いはずだぜ。だけどよ、それがどうしたんだ?」


 俺は目を閉じる。


 シーリスは、俺に嘘をついてはいない。


 俺は目を開けながら、口を開く。


「……決めた。俺はシーリスを助けに行く。」


 気付くとそう口にしていた。

 自分でも何故そう口にしたのか、分からない。

 シーリスに騙された気持が無い訳じゃない。それでも、彼女を見捨てる事が出来ない自分がいる。


「……な、てめえ、本気か? 姫様はお前という存在を殺そうとしていたんだぜ。」


 鬼火が、炎の身体を揺らす。


 紫苑は、俺を真っ直ぐ見つめると控えめに笑う。


「そうですね、それがクレスさんらしくて、良いと思います。」

「し、紫苑、正気か? お前まで、何を言っているんだ? そうだ、おい、小僧。幻想華ミラージュジュエルの場所だったら、俺達にだって分かる。俺達がお前をその場所に連れて行ってやるよ。それならお前の目的は果たせるだろう。わざわざ、罠に飛び込むなんて、馬鹿がする事だぜ。」


 俺は鬼火に視線を向けると、首を振る。


「そういう事じゃない。シーリスを見捨てたくない、助けたいんだ。」


 俺は立ちあがると、つられるように紫苑も立ち上がる。


「……私も、私も一緒に行きます。」

「おい、おい、てめぇら、本気か? 相手はあのアリエスだぞ。間違いなく殺されるだけだ。それに、紫苑、お前は分かっているだろう? 神の欠片を取り込めば、坊主の意思はなくなるかもしれないんだぞ。」

「鬼火さん、私だってわざわざ殺されに行くつもりはありません。それに、シーリスさんを助けるだけなら、クレスさんが神の欠片を取り込まなくても助ける方法はあるはずです。だから鬼火さん力を貸して下さい。」


 紫苑は、真っ直ぐ鬼火を見つめている。

 鬼火は言葉を発する事無く、只身体揺らしている。


「ちょっと、待ってくれ。シーリスを助けに行きたいのは俺の意思だ。君達を巻き込むつもりはない。」


 俺はシーリスの居場所と神の欠片との同化の方法を教えてほしいだけだ、二人を巻き込むつもりはない。


「クレスさん、クレスさんは神人なんです。この世界のため、クレスさんをアリエスに渡すわけにはいかないんです。だから、クレスさんがシーリスさんを助けに行くのであれば、私はクレスさんを守るために、一緒に行きます。」


 紫苑と俺の視線が交わる。彼女の表情からは強い意志を感じる。


「良いのか?」

「はい、私はクレスさんの役に立てるならそれで良いです。」


 紫苑は控えめに笑う。


「けっ、分かったよ。協力してやるよ。紫苑は一回言い出すと聞かないからな……。」


 黙っていた鬼火が言葉を発する。


「鬼火さん、本当ですか?」


 紫苑は、嬉しそうな表情を浮かべ、鬼火を見つめる。


「ああ、但し、危なくなったら姫様を諦めてでも逃げ切る事。それが条件だ。」


 紫苑と俺は頷く。


「ありがとう。二人とも。」


 無事にいてくれ。シーリス。すぐに助けに行く。俺は心の中でそう呟いた。


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