第三幕 壊れゆく意思 Ⅲ
俺は少しだけ考えてから、口を開く。
「とりあえず、その神の欠片を取り込めば、シーリスを助けられるのかもしれないんだよね? 取り込む方法を教えてくれないか?」
「クレスさん、あまり驚かないんですね。」
紫苑が不思議そうに俺に尋ねる。
「驚いていないわけではないよ。ただ、あまりにも話が唐突過ぎて実感が湧かないだけだと思う。」
「そうですよね。でも、本当の事なんです。」
「……それに、何故か納得しているんだ。何故納得しているのかは説明できないけれど。」
「そうなんですね。……クレスさん、貴方に神の欠片を同化させる方法は、私が知っています。でも……。」
紫苑は今にも泣きそうな表情を浮かべる。
「先程も言いましたが、神の欠片を取り込む度にクレスさん、貴方は、人間からかけ離れていきます。それは、クレスさんが神人であるリエル様に近づいていくということ。つまり段々と五感が無くなっていき、最後にはクレスさんの自我は完全に消滅し、リエル様という別の存在になるという事です。」
力には必ず代償が必要ということか。
確かに右手の甲に痣を付けられて以来、右手に違和感を感じる事があった。
唐突もない話だが、たいして違和感も感じずに、受け入れている自分に驚く。
そう、まるですべてを知っていたかのように受け入れている。
自分の中のリエルという存在がそうさせるのだろうか?
「これで、分かっただろう?姫様の本当の狙いはお前じゃなくお前の中のリエルという存在なんだよ。お前じゃない。」
今まで黙って俺たちのやりとりを聞いていた鬼火が身体を揺らす。
「鬼火さん、何でそんな言い方するんですか!!」
紫苑は感情的に声を上げる。
「紫苑、お前はこの坊主の存在がこのまま消えても良いのか?」
「それは…。」
紫苑は下を向く。
「そうだろう? 坊主、姫様の事は残念だが、俺達と一緒にこい。俺達には、お前の自我をそのままにしておく方法に心当たりがある。」
鬼火はさらに言葉を続ける。
「神と呼ばれる存在を失ったこの世界は、徐々に滅びに近づいている。」
「滅び?」
俺は鬼火の想定外の言葉に反応する。
「そうだ。何の力も持っていない人間には感じられないかもしれないが、確実にこの世界には終わりが近づいている。それを食い止めるのが、紫苑達、十二の大剣に課された本当の役割だ。」
鬼火は、そう言うと紫苑の周りを旋回し始める。
「坊主、紫苑はなぁ、ずっとお前を探していたんだ。リエルではない、お前の事をだ。俺たちもお前の事を神人だとは思っていなかったがな。だから、紫苑と一緒にいた方がお前の為だ。俺達がお前と世界の両方を救ってやる。」
紫苑が顔を上げる。彼女は、覚悟を決めたような表情を浮かべている。
「本当はこんなことを言いたくはありませんが、鬼火さんの言っていることはたぶん真実です。クレスさん、それでも貴方はシーリスさんを助けに行きますか?」




