第一幕 深紅の令嬢 Ⅳ
自分の苛立ちを抑えられない。
私の事、吸血鬼の生態を少しでも知っていれば私の弱点の一つ、銀で作られる事があるフォークやナイフを私が持っていない事に疑問なんて持たないだろう。
……彼が、クレスが私の事を知らないのは仕方が無い事。
彼はあの方ではないのだから。
それは理解しているつもりだった。
それが分かっていながら、苛立っている原因。
答えは簡単だ。
私は、クレスにあの方の面影を見ているのだ。
クレスは驚くほどあの方に良く似ていた。
青い髪と透き通るような青い瞳。温和な表情、背格好はもちろん、性格も良く似ている。半分敵のような私に自らの血を分けてくれるような優しい性格。私に腕を差し出したクレスの姿があの方に重なった。
あの方は誰に対しても優しかった。
それが最強とも言える力を持ったあの方の唯一の弱点だった。
「……クレスは、あの方ではない。」
私は一人で呟くと突然頭が冴え渡る。そう、クレスはあの方ではないのだ。
犠牲華が消失したことで、クレスが神人であることが確定した。
必要なのはこれからこの世界に散らばっている神の欠片をどうやって集めるかだ。
神の欠片を集めれば、集めるほどクレスはあの方に近づいていく。
……そう、クレスにどう思われても構わないのだ。彼はあの方を復活させるための依り代に過ぎないのだから。
私は、静かに笑みを浮かべた。
「ふふふ、クレス、貴方には死んでもらうわ。私の為に。」