第二幕 襲撃 Ⅲ
私は目の前に立つシーリスを睨みつける。
……せっかく見つけたのに。
何故邪魔ばかりするの。
全く何から何まであの忌々しい女とそっくり。
……憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、殺してやる。
決めた。まずはこの忌々しい女を先に始末してやる。
私は右手を掲げると目の前に漆黒の球体が姿を現す。
「万象は等しく終わりを迎える。定められた運命は変わらず、祈りもけして届く事は無い。全てに終わりを告げる神の意志。『虚無の終末』。」
私が作り出した漆黒の球体は、ふわりと宙に浮かぶと無数の小さな球体に分解して宙に広がる。
引力と斥力を同時に発生する事で触れたものを無に帰す力を生み出す。私の能力の根源の一つ。
私が手を前に翳すと、七つに分かれた漆黒の球体は、急に速度を上げてシーリスを囲む。
シーリスの纏っている深紅の髑髏は、私が作り出した漆黒の球体に触れた部分から消滅していく。
シーリスの顔色が変わる。
その表情を見て、私の気持ちは高揚する。
「あはっ♪そう、その表情、もっともっと苦しめば良いのよ。殺して、殺して、殺しつくしてあげる。うふふふ。」
図体の馬鹿でかい髑髏は格好の的だ。
次から次へと消滅していく深紅の髑髏。
「ほら、ほら、もっと、もっと楽しませて。」
漆黒の球体から逃げ回るシーリスの姿は、私の心を満たしていく。
気分が高揚する。
逃げる事しか出来ないシーリスの姿を見るのが楽しくて仕方が無い。
私が楽しみながらシーリスの逃げ纏う姿を見ていると、突然彼女の動きが止まる。彼女は顔を上げ、臆する事無く私に真っ直ぐ視線をぶつける。
シーリスのその視線、その表情が、あの女、忌々しいイリスの姿を彷彿させる。
次の瞬間、私の心に言葉では表現できない怒りがこみ上げてくる。
私からお兄様を奪ったあの忌々しいイリス。
心の中に抑えられない破壊衝動が生まれてくる。
忌々しい。あの時と同じように、いやそれ以上に無様に殺してやる。
「貴方だけは、私の命にかけてここで止める。」
シーリスは、叫ぶように声を上げると、左手に自ら噛みつき、左腕を掲げる。それに連動するようにシーリスを覆う右腕を失った深紅の髑髏がゆっくりと左腕を掲げる。次の瞬間、髑髏の左手に髑髏と同じくらいの巨大の深紅の鎌が出現する。
この光景は見た事がある。私は、大きな怒りと共に警戒をする。
イリスの奥の手と全く一緒だ。祖力、祖力解放だけではなく奥の手まで一緒だとは。本当にあの女を思い出させる。激しい怒りが込み上げてくるが、一度冷静になる必要がある。
あの大鎌から繰り出される斬撃がイリスと同じものだと考えると、円状に存在するあらゆる万物の一切を切り捨てる最強の一撃。有効範囲は記憶が確かであれば、直径七、八百メートルほどだっただろうか?
この一線から逃れる手段はない。だからこそこの力があるイリスは七帝の一人に数えられていたのだ。
ゆったりとした動作で大鎌を構える深紅の髑髏。
くる。私は咄嗟に両手を掲げる。
いくら私でもこれをまともに受けたら只では済まない。
次の瞬間、凄まじい速さで大鎌が振り抜かれる。
「……万象の一切を狩りつくせ。
『血の断頭台』。」
音速を超える速さで辺りに広がる深紅の衝撃波。
「万象は等しく終わりを迎える。定められた運命は変わらず、祈りもけして届く事は無い。全てに終わりを告げる神の意志。『虚無の防壁』。」
私は、自分の前方に力の限り斥力を発生させる。
私の前の空間が歪む。
深紅の衝撃波と斥力が作り出した空間がぶつかる。
私の掲げた両手が巨大な力を受けて震えだす。
巨大な力だ。
しかし、イリスより遥かに弱い。この程度なら問題なく防げる。
私は左眼に力を込める。
激しい光と共に、一瞬、全ての音が無くなる。
…………。




