第四幕 遭遇 Ⅳ
「ちょ、ちょっと待って下さい。別に戦いたい訳では……。」
紫苑が慌てていると。鬼火から叫ぶような声が聞こえる。
「馬鹿、ぼさっとするな紫苑、避けろ。」
紫苑は頷くと、身軽い身のこなしでシーリスの斬撃を避けて、後方に飛びシーリスとの距離をとる。
「とりあえず、妖魔化しろ。このままだと殺されるぞ。」
鬼火は、強い光りを放って形状を大きな薙刀に変える。
紫苑は、大きな溜息を吐いて、鬼火が形状を変化させた薙刀を手にする。
「もう、どうしてこうなっちゃうんですか。」
紫苑は不機嫌そうに瞳を閉じる。
紫苑の周りに空気が集まる。その圧縮した空気を身に纏う彼女。
次の瞬間、額に二本の小さい角を生やし、見るからに険しい形相の般若の面を右の頭に乗せた彼女が姿を現す。
「紫苑、分かっているな、領域華の領域内ならお前に分があるが、妖魔としての力では、お前は足元にも及ばない。まともに勝負をするな、殺されるぞ。目的を忘れるなよ。」
「もう、誰のせいだと思っているんですか。……あの、シーリスさん、鬼火さんがひどい事を言ってすみません。只私は、クレスさんを、シーリスさんがどうするつもりなのかお聞きしたかっただけなんです。」
紫苑は、薙刀を下ろし、シーリスと距離をとる。
シーリスは無言で、深紅の大鎌を構え紫苑に向かって駆け始める。
「……仕方ありません。私はクレスさんを守るために戦います。」
紫苑は、シーリスに向かって薙刀を構える。
「領域華。その力を持って、この世界の支配を解放しなさい。炎陣。」
紫苑がそう呟くと、黄玉のブローチが淡い黄色の光に変化する。その光は地面に文字のような図柄を描きながら広がり、陣のような物を形成していく。
次の瞬間、紫苑の周りに彼女の背丈より大きい炎が集まり出す。
シーリスは、紫苑目がけて躊躇する事なく炎の中に突っ込んでゆく。
紫苑は、驚きながら薙刀でシーリスの放った大鎌での斬撃を受けとめようとするが、受け止めきれず吹き飛ばされる。
紫苑の身体は、激しい勢いで後方に飛んだ。
ふらふらと立ち上がる紫苑。
「ちっ、どういう事だ?炎が苦手なお前が何故俺達に近付ける。」
薙刀に姿を変えた鬼火の悔しそうな声が聞こえる。
「いつまでも、私が弱点を克服していないと思っていたのかしら?」
シーリスは見下すようにそう言うと、再び深紅の大鎌を構える。
「貴方達が人間じゃなくて良かった。人間だったら殺せないもの。さあ、楽には殺さない。じっくり後悔させてから殺してあげるわ。」
「お、おい、やべえぞ。紫苑、ここは一回引け。虎の子の領域華の炎陣が通じないとなれば、俺達には万に一つ勝ち目は無い。なぶり殺されるぞ。」
紫苑は鬼火の言う事を無視するように、もう一度薙刀を構える。
「駄目です!シーリスさんの本心を聞くまでは引けません。クレスさんは私が守るんです。」
次から次に起きる現象に思わず呆然していた俺だが、ようやく思考が現実に追いついてきた。
何が起きているのかはとりあえず置いておいて、二人を止めなければ。
俺は二人の争いを止めようと、二人の間に割って入ろうとしたその時、突然立っていられない程、世界が大きく揺れる。
次の瞬間、胸の辺りに鋭い痛みが走る。
一瞬、何が起きたか分からなかったが、直ぐに激痛と共に自分の胸に金色の細剣が突き刺さっている事に気が付いた。
突然空間が避け、その中から一人の十歳に満たないであろう女の子が姿を現す。
黄金の長い髪に黄金の瞳、生気を感じない程青白い肌。
銀の冠を頭に被り、黒いベルベットと白いレースを身に纏っている。
その女の子と目が合う。
何故かゾッとするほどの寒気を感じる。
「あはっ♪せっかく十ニの大剣同士が殺し合いをしてくれそうなのに邪魔しないでくれるかな。お兄さん。」
黄金の髪の女の子は、無邪気な笑みを浮かべる。
段々と視界が朦朧としてくる。
遠くで、シーリスと紫苑が俺の名前を叫んでいるのが分かる。
地面に倒れ込む。
地面に、血の海が広がる。
意識が何かに沈んでいく。
死という言葉が脳裏に浮かぶ。
まだ、死ねない。
まだ、何も出来ていない。
そう考えながら、視界から光が消えた。




