第四幕 遭遇 Ⅱ
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
若い町娘らしき女性が私達を見て笑顔になる。
「この子に似逢う物が欲しいのだけれど、何かあるかな?」
「え?」
私は驚く。只、見るだけだと思っていたのに。
「贈り物ですか?それでしたらこれなんて如何でしょう?」
町娘風の女性は、とても綺麗な輝きを放つ銀細工の指輪をクレスと私に見せる。
「これも良いけれど、他の物ないかな?この子は銀が苦手なんだ。銀細工でない物が良いんだが。」
あの本の成果だろうか?クレスは吸血鬼の弱点が銀である事を学んでいた。やはり、クレスは私の事を理解しようとしてくれているのだ。
「……銀が苦手ですか。それじゃ、これなんてどうですか?」
銀が苦手という事に少し違和感を感じたのか、町娘風の女性は少し不思議そうな顔をして別の物を取り出す。
青い三日月の形の宝石がついた髪飾り。
「……綺麗。」
私は思わず口にする。
「気にいったようだね。これいくらだい?」
「百二十フィスになります。」
「……買ってくれるの?」
私はクレスの方を見る。
「ああ、シーリスのネックレスには遠く及ばないが、良いか?」
「うん、嬉しい。」
私がそう言うと、クレスは町娘風の女性にお金を渡す。
「お包み致しましょうか?」
「どうする?」
「わざわざ包んでもらわなくても良いわ。」
「畏まりました。」
町娘風の女性から青い三日月の形の宝石がついた髪飾りを受け取る。
透き通るような綺麗な青色。
「ねえ、クレスつけて。」
私はクレスに髪飾りを渡す。
「俺がつけるのか?」
クレスは、苦戦しながら私の髪に髪飾りをつけてくれる。
「ありがとう。……似合う?」
私はその場をくるりと回る。
「ああ、良く似合っている。」
クレスは頭を掻きながら、私の事を褒めてくれる。
私達は女性にお礼を言うと、人の流れにのって広場に向かった。
村の広場では、先ほどの司祭が神に祈りを行い、その後大勢の人間の前で講話をおこなっている。
妖魔である私がこんなに多くの人間達に紛れて、人間達が見ている光景を、世界を見ている事に違和感を持つ。
あの方は、人間と妖魔が共に暮らせる世界を創ろうとしていた。もし仮にそんな世界が実現していたなら、今私が見ている景色が当たり前のように存在する世界が実現したのだろうか?
気が付くと司祭の講話が終わり、場を盛り上げる音楽と共に周りの人間達は飲み食いをおこなったり、踊り騒いだり、各々が祭りという一夜を楽しみ始める。
年頃の男女は、意中の相手にダンスを申し込み、念願が叶った者達はペアを組んでダンスに興じている。
私達は場の雰囲気に流されるように、どちらからともなくお互いの手をとる。
「クレス、踊れるの?」
私の問いかけに、クレスは苦笑いを浮かべながら答える。
「あまり得意な方ではないな。」
「それじゃ、私がリードしてあげるわ。」
クレスはバツが悪いような表情で頷く。
私達も周りの人間達と同じようにダンスに興じようとした次の瞬間、突然世界は色を失った。
重苦しい空気。
周りの人間達は全ての時が止まったかのように微動だにしない。それどころか私達二人以外、全ての者が生命の無い抜け殻のようになっている。
この感覚、間違いない。
領域を支配する神の欠片、領域華の力。
簡単に言ってしまえば、選者の聖域と同じ世界を作り出す能力。
領域華の守護者である、第九の大剣、東方の亡霊の称号を持つ鬼女の遥?
私達は頷き合うと、お互いの手を離し、戦闘態勢に入る。
領域華の発動範囲は、円状に約五百メートル。
そんなに遠くにはいないはず。辺りを警戒しながら、周りを見つめる。
クレスが刀を構えるのが分かる。
背景と化した人間達の姿や建物が徐々に消え始め、私達以外何も無くなった空間に私より少しだけ背丈の高い少女が姿を現す。
この少女だ。私が感じていた不思議な気配の正体は。
遥ではない。一体誰?
「我は紅の眷属を統べし者。紅の力を持ちて万象の全てを我が物とせん。『深紅の死神』。」
私は親指を噛むと深紅の大鎌を具現化させた。




