第四幕 遭遇 Ⅰ
村の大通りに群がる人の数に驚きながら、司祭とその一行の行進を見つめる。
ヤテ村に滞在して七日目の夜。私とクレスの二人は、アマフィス祭を観光客に紛れながら見物していた。
今朝は、大変だった。
とりあえず私が寝ぼけてクレスのベットに潜り込んだということで説明はできたが、しばらくはお互いの間に変な遠慮と距離感が出来てしまった。
私は常に寝ながらも周りをある程度は認識できるのだが、あの晩は全くできていなかった。
それほど、無防備に安心していたのだろう。
多くの松明に照らされた大通りを胸を張って歩く司祭とその従者達が視界に入る。
どうやらこの村の統治主であるアウサス公国から高名な司祭を招く所からこの祭りは始まるらしい。
思わず笑ってしまう。
高名な司祭らしいが、私から見れば極普通の人間にしか見えない。
それにしても人間とは面白いもので、自分達の手で神の片割れであるあの方を殺してしまったのに、何の疑問も持つ事なく神という存在を信じている。
神なんてものは、もうこの世界にはいないのに。
この三百年、私は人間というものについて考えてきた。
彼らは、良くも悪くも信心深いのだと思う。
人間には、私達のような優れた身体能力も祖力という力も無い。但し、それだからこそ彼らは一つの物を信じて、皆でその信じた物のために協力する事が出来る。基本的に自分の力のみで生きて行く事が根底にある私達妖魔との根本的な違いがそこにあるのだと思う。
アリエスはその人間の習性とも言える特徴を巧みに利用したのだろう。
つまり、人間だけが悪いのではないのだ。そう考えられるようになるほど三百年もの長い時が私を冷静にさせたのだと思う。
……人間が好きでない事は変わらないのだけれど。
「シーリス、広場に移動しよう。」
クレスの声で現実に戻る。
気が付くと、司祭とその一行の姿は大通りには無く、多くの人が広場に向けて移動を始めている。
私は頷くと、歩き出したクレスの後を追う。
この後、広場にて司祭の神への祈りがあり、その祈りが終わると、一晩中飲み食いをしながら、踊り明かすらしい。
なんとも平和ボケした人間達。
今この世界で何が起きているのかも知らないのだろう。
私はそんな事を考えながら、歩を進める。
大通りには多くの露店が並んでいる。
一つのアクセサリーなどの小物が売っている露店が目に入る。
そして思い出す。
売ってしまったあのペンダントの事を。
あれは、遥か昔、お姉様に頂いた物。
「貴方の瞳の色と同じで、ぴったりだと思ったの。」
お姉様の優しい声が懐かしく感じる。
ごめんなさい、お姉様。
お姉様に頂いたあのペンダント手放してしまいました。お姉様は、困ったら手放しても良いと言ってくれてはいたけれど、あまり良い判断だとは思えなかった。それでも今の私にまとまったお金を作る方法はあれしかなかったし、自分だけが重荷になる事は耐えられなかった。……だから、ごめんなさい。
私がそんな事を考えていると、クレスが突然立ち止まる。
「シーリスどうした?何かある?」
クレスは私の視線の先にある露店に視線を移すと笑顔になる。
「気になるなら行ってみようか。」
「いや、そういう事では無くて……。」
私が話し終わる前に、クレスは私の手を握り、私を引っ張るように露店の方に連れて行く。
繋がれた手が視界に入る。クレスの手の温度を感じ、胸が高鳴る。
クレスは意識していないようだけれど……。




