第三幕 酔いしれる一夜 Ⅱ
窓を開ける。
心地よい夜風を身体に受ける。
見慣れた風景。
この村、ヤテ村に滞在して既に六日目。
私の身体の状態は完全に回復したのだけれど、クレスが誘ってくれたアマフィス祭が明日の夜から始まるため、それを見物して明後日に旅立つ予定にしている。
急ぎたいはずなのに、元気のない私を気遣って祭りに誘ってくれたクレスの気持ちが嬉しくて、この村にある変わった気配を気にしながらも、今もこの村に滞在している。
今のところ、あの妙な気配には動きが無い。
油断はできないが、とりあえず大丈夫だろう。
「……それにしても、アマフィス祭か。」
アマフィス、あの方とアリエスをこの世に創世したとされている神の名前。変な因縁を感じる私は考え過ぎなのだろうか。
神があの方とアリエスという神人を創造しなければ、私はこれほど想い悩む事は無かったかもしれない。
まぁ、それを言い出したら神なんていなければ、私なんていなければ、という風に堂々巡りにしかならないのは分かっているのだけれど。
ふと、クレスの荷物に古びた紙の端が見える。
何だろう?
気になり、良くない事だと分かりつつもクレスの荷物の中から一冊の古びた本を取り出す。
何の本?
目を通す。
私の顔に自然と笑みが浮かぶ。
本には、吸血鬼の習性について事細かに書かれてあった。
所詮、人間が作ったもので、見ていて笑ってしまうような間違いもたくさん書かれていたのだけれど。
クレスは、私の事を理解しようとしてくれているのだろうか?
静かに寝息を立てるクレスを見つめる。
私は、本当にこの人を殺せるのだろうか?
……無理かもしれない。
私は、この人に少なからず情を移している。それは確かだ。
でも、それなら私の三百年にも及ぶ想いは一体何だったのだろうか?
いや、今でもあの方とクレスのどちらかを選ばなければならないとしたら、迷わずあの方を選ぶだろう。
分かり切っている事なのに。それなのになんだろう、この気持ちは。
とても、暖かい。
大きな溜息を吐き、古びた本をクレスの荷物に再び紛れ込ませる。
クレスの顔を見る。
なぜかこの人を見ていると心が満たされる。
駄目だと思いつつも、私の身体はクレスに近づいていく。
私はクレスを起こさないように、彼が眠っているベッドに潜り込む。
そしてクレスの背中に顔を寄せる。彼の私より高い体温を感じる。
しばらくこうしていたいと思う気持ちを抑えて、ベッドから出ようとした時、急にクレスが寝返りを打ち、私を抱きしめる。
私はびっくりしながら、クレスの顔を見るが、彼は相変わらず良く寝ている。
寝ぼけているのだろうか。
私は、震える手でクレスの身体を抱きしめる。
何とも言えない幸福感に包まれる。
とても安心する。
私は駄目だと思いながら、その快楽に身を任せてしまう。
孤独に生き続けた三百年が遠い昔のように感じる。
私が欲しかったものは、この安心感と快楽だったのかもしれない。
私は、クレスから離れることが出来なかった。




