第二幕 妖人の少女 Ⅲ
私達がヤテ村に滞在して四日目。
暗がりの部屋の中、ベッドに転がり薄暗い天井を見上げる。
だいぶ体力が戻ってきた。
この三日間、クレスは甲斐甲斐しく私の面倒を見てくれたおかげだろう。
クレスに優しくされる度に、心が痛むと同時に何処か満たされる気持になる。
もし、あの方だったら、クレスのように優しくしてくれるのだろうか?
考えるまでもない、答えは簡単だ。あの方は誰にでも優しいのだから。
それでも、あの方は最期まで私の事を一人の女性として見てくれる事は無かった。
あの方にとって最愛の人はお姉様只一人なのだから。
お姉様は、報われぬ想いを抱く私の気持ちに気が付き、あの方を私に託してくれた。
本当は誰よりあの方と一緒にいたかったはずなのに……。
溜息を吐く、……この世界アマフィスに神と呼ばれる存在がいなくなってから、おおよそ三百年。
神がいないこの世界は少しずつ終焉に向かっている。
あと数十年の内に新しき神を創造しなければ、間違いなくこの世界は終わる。
神人であるクレスが現れたのは、その兆し。
クレスが現れたという事は、アリエスも目覚めている可能性が高い。
クレスの故郷の人々を石化させたのは間違いなくアリエスの眷属なのだから。
アリエスを制し、クレスを殺し、あの方を取り戻さなければならない。
私はあの方に逢うために三百年待ち続けてきたのだから。
今度こそあの方の全てが欲しい。例えわずかの時間でも。
これは完全に私のわがまま。だから他の十ニの大剣に悟られる訳にはいかない。必ずしも賛同を得られるのか分からないからだ。
首を振る。
……起き上がる。身体の調子が良い。
少し出かけよう。
ローブを羽織る。
やりたい事があるし、少し気になる事もある。
クレスが外出中の今がチャンスだ。
私は宿を出た。
村の大通りを歩く。
私は辺りを注意深く観察しながら歩を進める。
私が気になる事、それはこの村に良く分からない気配を感じる事。
他者に悟られないようにだいぶ気配を抑えているようだが、この距離なら索敵が苦手な私でも気配を捉える事が出来る。
間気でもなく、妖気でもない。
間気と妖気が混ざった感じ。
今まで感じた事がない不思議な気配。
敵?
ちょっと試してみよう。
私は歩を止め、今まで抑えていた妖気を不思議な気配の主に向かって殺気を込めて放出する。
不思議な気配の持ち主に動きはない。
敵、というわけではないのか?それとも妖気を察知する能力が無いほど人間に近い存在なのか?
どうしよう?
こちらから仕掛けるべき?
……止めておこう。
私の殺気を感じても動きがないという事は、妖魔であっても人間であっても大した存在ではないだろう。問題になるとは思えない。
私は妖気を抑える。今ここで本格的に戦えば、下手をするとアリエスの手の者達に私の居場所を気付かれる恐れがある。
アリエスには私の居場所を悟られたくは無い。
今のままで、戦えば必ず殺される。
まだ、死ぬわけにはいかない。
私は何事も無かったように、歩を進める。




