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第一幕 揺れる思い Ⅴ

 ふと先ほどの主人の言葉が頭に浮かぶ。もし神さまなんてものがいれば……。


 確かに神さまなんてものがいれば、とうの昔に人間は滅ぼされているのかもしれない。


 今から百年前、俺が生まれる前の話だ。

 世界中で大きな争いがあった。

 世に言う八大国の争いだ。


 各大陸で勢力を伸ばした八大国が勢力拡大の為に各地で激戦を繰り広げた。

 その時、各国の切り札として使われたのが式術の力だった。

 争いは二十年も続けられた。


 しかし、式術の力は人間が扱うには余りにも強大過ぎた。

 結局、二十年近くの歳月が過ぎ、勝ち負けが決まらない内に戦いは幕を閉じた。


 この戦いで世界中の人口はおよそ四分の三まで減少したといわれており、どの国もこれ以上戦いを続ける事が出来なかったのだ。

 こうして多くの人間の命と多くの式具が失われ、戦いは終結した。


 元々、古代の遺産である式具は製造方法など一切が不明の超古代科学であり、現在の人間が作り出せるものではないため、限られた数しか存在しない。


 だからこそ多くの式具が失われた事により、式術の力を持った式術師は激減した。

 それが、戦いを収める抑止力になった事は言うまでもない。


 しかし、権力者達はそれで戦いを諦めたわけではない。

 その証拠に、今でも世界中で人工の式具製造の研究が行われている。

 そう、この世界はいつバランスを崩してもおかしくない絶妙なバランスの上で仮初の平和を享受しているに過ぎない。


 人間とはなんて傲慢な存在なのだろう。


 もし仮に神さまなんて者が本当にいたら、俺達のような人間は滅ぼされていても仕方ない。

 溜息を吐くと、シーリスが待っているであろう宿に足を向ける。



 俺はまだこの時、気が付いていなかった。俺の姿を追う二つの視線に。



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