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第一幕 揺れる思い Ⅳ

 やはりそうだった。

 シーリスは何かを隠している。

 

 問い詰めたい気持ちが無かったわけではないが、シーリスを信じたい気持ちが勝ったのだ。

 

 そう考える自分に驚く。

 暫く一緒にいた事で、情が移ったのかもしれない。


 俺達が今いるのは、世界三大湖に数得られるネリア湖畔にある小さな漁村ヤテ村。

 漁場として有名なネリア湖畔にある村だけあって、露店には見た事がない魚がたくさん並んでいる。

 

 小さな漁村だが、驚くほど多くの人が行き交い活気に溢れている。

 それにしても、こんな小さな村にいったいなぜこれほどの人がいるのだろう?不思議な事もあるものだ。そんな事をぼんやりと考えながら、村の表通りを目当ての物を探して歩いて行く。

 

 そう言えば、宿をとる時も中々空いている宿が無く苦労した。宿屋の主人の話だと、近々祭りがあり、この時期だけは観光客やそれを目当てにした行商人などがこの村を訪れるらしい。この人の多さ、活気はそのせいかもしれない。

 暫く歩き続けようやく薬屋の看板を立てた露店を見つける。


「おや、お兄さん、何か入用かい?」


 初老の眼鏡をかけた薬屋の主人は愛想笑いを浮かべる。


「そうじゃないんだ。薬の材料を買って欲しいのだが。」


 俺は、麻で出来た袋を開くと、様々な植物を広げる。


「何だい、同業者かね?どれどれ。」


 主人は眼鏡に手を当てると薬の材料を一つずつ確かめながら秤に乗せてゆく。


「ほう、紫花地丁シカジチョウとは珍しい。それと金銀花スイカズラ蒲公英タンポポ芍薬シャクヤク甘草カンゾウだね。中々良い物だ。そうだなぁ四百四十四フィスでどうだい?」

「四百六十フィスぐらいにならないか?これからたくさん人が来るのだろう?人が増えれば、薬の需要も上がると思うのだが、材料を増やしとくのは良い事なんじゃないか?」

「お兄さん、中々商売上手いねぇ、分かったよ。それじゃ四百六十フィスで手を打とう。」

「ありがとう。それでお願いするよ。」


 主人は愛想笑いを浮かべる。

 主人に薬の材料を渡し、貨幣を受け取る。


 ちなみに1フィスでパン1個ぐらいの貨幣価値だから、まあまあな相場で売れた事になる。

 いつもより少し高めに売れた、やはり良いタイミングだったようだ。

 それにしても、これだけ人が集まる祭りも珍しい。


「ところで凄い人だが、何の祭りがあるんだい?」


 気になり主人に声をかける。


「おや、おや、お兄さん、アマフィス祭、目当てに来たんじゃないんだね。」


 薬の材料を棚にしまいながら、主人が口を開く。


「アマフィス祭?」


 アマフィスと言えば、この世界の名前だが……、そんな祭りを聞いた事が無い。


「そう、アマフィス祭、知らないかい?この大陸では結構有名な祭りなのだけれどね。」

「ああ、俺はこの大陸の人間ではないんだよ。訳があって旅をしている途中でね。」

「そうだったかい、どおりで紫花地丁なんて珍しい物を持っているわけだ。それじゃ知らなくても仕方ないね。アマフィス祭、別名豊漁祈願祭と呼ばれる祭りでね、この村は見た通り何にもない小さい魚村だけれど、この時期だけは活気が溢れるんだよ。」

「そういう事か。」

「お兄さん、ところでこの世界が何でアマフィスと呼ばれるか知っているかい?」

「何でだろうな?今まで考えた事も無かった。」

「実はアマフィスというのはこの世界を創造した神さまの名前らしいよ。この村ではその神さまに日頃のネリア湖からの恩恵に感謝の意を示し、二年に一回この時期に神さまに豊漁祈願を願う祭りを行うんだよ。」

「神さまねぇ。」


 俺は荷物を背負う。


「まぁ、迷信だろうよ。もし本当に神さまなんて者がいるなら、この世の中はもうちょっとましなはずだからね。」

「確かに。」

「あ、そうだ。お兄さん、祭りは一週間後の夜だ。せっかくの機会だ。見ていったらどうだい?」

「考えておくよ。」


 主人に礼を言って店を後にする。



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