第一幕 揺れる思い Ⅲ
「やっぱり、何かあるんだな?」
私は答える事が出来ない。
そんな私を見ていたクレスは表情を緩める。
「良い、……言い難いなら、言わなくても良い。」
「……どうして?」
私はクレスを見つめる。
「どうしてと言われてもなぁ、あえて言うなら、幻想華を手に入れる事以外には詮索はしないと約束したからかな。……それに俺はシーリスを、なんだ、その、信じているから。」
クレスは真っ直ぐ私を見る。
私の胸が高鳴り、そして苦しくなる。
「少し出かけてくる。」
クレスは立ちあがると、部屋の隅にある荷物を抱える。
「どこに行くの。」
私がベッドから降りようとするのを手で制するクレス。
「もう少し休んでいた方が良い。薬の材料を売って路銀を稼ぎに行くだけだ。夕方までには戻ってくる。」
クレスは、私にそう告げると部屋を出て行った。
再び部屋に静寂な時が流れる。
クレスから渡された瓶を見る。
確かに私は葡萄酒が好きだ。
この濃い紅の色が血を彷彿させるからだろう。
クレスのちょっとした好意が嬉しかった。
胸が高鳴る。
クレスは、私を信じると言った。
こんな私を。
胸が痛い、罪悪感に苛まれる。
首を大きく横に振る。
覚悟はしていたはずだ。
もう一度、あの方に逢うためには、……クレスを犠牲にするしか方法がないのだ。
……そう、殺すしかない。
頭が痛い。身体中に激痛が走る。
葡萄酒を机に置く。
身体をベッドに投げだし、キルトを抱きしめる。
落ち着いて考えるべきだ。
私がクレスに惹かれているのは、クレスにあの方の面影を見ているからに他ならない。
だったら、答えは簡単ではないか。
クレスという存在を死に追いやれば、あの方に逢えるのだから。
そう、簡単な事だ。それなのに、なんでこんなに苦しいの?
考えれば考えるほど分からなくなる。
もう嫌だ。
嫌だ。
嫌だ。
おかしくなりそう。
私は、考える事を放棄した。




