第一幕 揺れる思い Ⅱ
「目覚めたみたいだね、身体は大丈夫かい?」
何か紙袋のような物を持ったクレスが部屋に入ってくる。
買い物か何かをしてきたのだろうか。
「……とりあえず大丈夫。身体中痛いけれど。」
クレスにどう対応して良いのか分からず、聞かれた事に対しての返事をする。
「良かったよ。」
何事も無かったかのように私に対応するクレス。
「シーリス、蝋燭の光は問題ないよな?」
私が頷くのを確認して、クレスはベッドの脇にあるカンテラの蝋燭に火を灯した。
部屋の中に淡い光が広がる。
その淡い光を見つめながら気が付いた。クレスが私の名前を呼んだ事に。
「あ、……私の名前。」
「ああ、いつまでも君じゃ悪いだろう?それとも、名前を呼ばれるのは嫌だったか?」
クレスはもうひとつあるベッドの上に紙袋を置くと、私の傍にある小さな椅子に腰をかける。
「……別に、……どっちでも良い。」
私はなんだか恥ずかしくて、クレスの顔を見る事が出来ずに俯く。
「それなら良いんのだけれど、ああ、それよりお腹空いているだろう。」
クレスは、私の前に腕を差し出す。
何の躊躇もなく腕を差し出すクレスに、私はびっくりしながら喉の渇きに耐えられず、ふらふらと自分の口を彼の腕に近付ける。
……何も考えられない。
気が付くと私は、クレスの腕に牙を突き立てていた。
クレスの血液が私の口の中に広がり、乾いた喉を潤していく。
何とも言えない昂揚感。
けれど、この時間をあまり長く続ける訳にはいかない。長く続ければ続けるほど、クレスの身体に負担をかけるのだから。
ある程度満たされたところで、クレスの腕から口を離す。
「もう良いのか?」
「うん、私が吸いたいだけ吸ったらクレス、貴方……死んじゃうわよ。」
私は舌なめずりをしながら、クレスを見つめる。
「それは困るな。」
クレスは笑いながら、立ち上がり紙袋を漁り出す。
私はクレスを見つめる。
この人は一体何を考えているのだろう?
私はてっきり、クレスに問い詰められると思っていた。
私なら間違いなくそうする。
分からない。
クレスは紙袋から何かの瓶を取り出し、私に手渡す。
手渡されたのは濃い赤色の液体が入った瓶。
「……何、これ?」
「何って、葡萄酒だ。これなら飲めるのだろう?」
「うん、ありがとう。……クレス、わざわざこれを買って来てくれたの?」
私は瓶を両手で持ちながら、クレスを見る。
クレスは頭を掻きながら、私からわずかに視線を外す。
「……別に、それだけが目的だったわけじゃないさ。」
なんだかとても嬉しい気持でいっぱいになる。
「飲むか?」
「せっかくだけれど、後にする。……それより、クレス。」
「何?」
「貴方、……私に何も聞かないの?」
気が付くと口にしていた。クレスに対する罪悪感からだろうか?
「何の事だ?」
「知らばくれないで!!……ゲーデに聞いたのでしょう?貴方の正体の事を。」
声を荒げる私、自分でも何故このような態度をとってしまうのか分からない。
クレスの表情が一瞬強張る。




