第一幕 揺れる思い Ⅰ
目を覚ます。
薄暗く見慣れない風景が視界に広がる。
小さい部屋のベッドに寝かされている私。
どこだろう?ここは?一体……何があったの?
身体中が痛い。
その痛みが、私の記憶を呼び戻す。
そうだ、ゲーデと戦ってそれから……。
我に返り、顔を両手で覆う。
……台無しだ。
あの時、薄れゆく意識の中、クレスとゲーデの会話がわずかだが、聞こえていた。
全部が聞こえていたわけじゃないけれど、会話の内容はおおよそ理解できている。
クレスは、自分が何者なのか疑問を持ち始めているだろう。
起き上がる。
カーテンが引かれて、薄暗い部屋。
どこかの宿屋だろうか?
カーテンの隙間から、微かに日の光が漏れている。
まだ日が昇っている時間らしい。
吸血鬼の私を気遣って、部屋に光が入らないようにしてくれたのだろうか?
クレスの姿が無い。
どこかに出かけているのだろうか?
……まさか、逃げたりはしていないだろうか?
急に不安になり、辺りを見回す。
部屋の隅に、クレスの荷物を見つけ安堵する。
……さすがに、荷物を置いて逃げ出すはずはないだろう。
大きく息を吐く。
そもそも、逃げ出すつもりなら倒れた私を助ける必要がないだろう、少し落ち着こう。自分に言い聞かせる。
身体が自分の物とは思えないくらい重い。
急に頭が冴えてくる。
犠牲華の力をクレスに渡しておいて良かった。
改めて思う。
犠牲華。
嘗て神と呼ばれた存在が自らの分身である神人の暴走を防ぐためにこの世界に残した力、神の欠片の一つであり、私が保持する神の欠片。
だからあの時、クレスに言った事は全て嘘だ。
呪いなどではないし、クレスがどこに逃げても分かるなんて事もない。
それでも、犠牲華の力を渡したのは間違いではなかった。あの方の器であるクレスの身体を守る事が出来た。彼が私に大きな不信感を抱いた事は確実だけれど。
身体中に激痛が走る。
気付くと、身体中の傷の手当てがされている。
薬師であると言っていたクレスの仕業だろう。
苦笑する。
吸血鬼である私の身体は、人間と違って外傷であれば、手当てをしなくても回復は可能なのだから。
……ああ、喉が渇いた。
私に不信感を抱いているであろうクレスはもう簡単には血を吸わせてくれないだろう。
……自業自得だ。
私は、クレスという存在を殺そうとしているのだから、どんな理由があってもそれが紛れもない真実なのだから。
あの方が言い残した事が本当なら、クレスは神の欠片を取り込むほど、あの方に近づいていくはずなのだ。
そう、私はそうやってクレスという存在をこの世から消し去ろうとしているのだ。
だから、クレスを逃がすわけにはいかない。
私は、本当にクレスを殺すことができるのだろうか?
簡単な事のはずなのに、本当にできるのか迷い始めている。
良く分からない気持ちが自分の中にある。
静寂な時が流れる。
その静寂な時は、扉が開く音で終わりを告げる。




