第二幕 覚醒への胎動 Ⅲ
ゲーデの深紅の血と共に奴の右腕が宙に舞う。
息が切れる。
身体が急に重くなる。
いや重くなったのではない、元に戻ったのだ。
次の瞬間、右頬に激痛が走り、身体が浮くように後方に飛ぶ。
地面に叩きつけられるように倒れ込む。
よろめきながら立ちあがり、ようやく何が起きたのか理解した。
ゲーデは右腕を犠牲にしながら、身体をひねり左腕を使い俺を殴り飛ばしたのだ。
我に返り、再び神威を構える。
式術の力が解けた途端に、右眼の痛みが嘘のように消える。
「残念だったな。まぁ、この程度の威力では例え避けずとも私を絶命させる事は不可能だが。ふむ、実戦から離れるとろくな事がないな、まさか人間などに一太刀くれてやるとは。油断したようだ。そのお陰で得る物はあったガネ。」
右手を無くして、完全に落ち着きを取り戻したゲーデは影を器用に使い再び火を付けた葉巻を口に咥える。気が付くと奴の右腕の血が止まっている。
「ようやく君の正体を理解出来たよ。君の腕輪、それは隠遁華だな。どおりで君に直接触れるまで正体が分からなかったはずだ。シーリス、君がこの人間にこだわる理由はこれだったのだな。」
ゲーデが俺の方を向く。
隠遁華、俺の正体、何の事を言っているのか全然分からないが、再び体勢を低く屈め、神威の刀身を少し下げる。
「まだ、戦う気カネ?止めておいた方が君のためだと思うが。……それより少し話しをしようじゃないか?」
ゲーデの漆黒の目が俺を見つめる。
「……お前と話す事は何もない。」
俺は、神威を構えながらゲーデを睨みつける。
「図に乗るなよ、愚かな人間。今のままでは、貴様の勝ち目はゼロだ。まだ死にたくないだろう。」
ゲ―デが殺気を放つ。
背中に冷や汗が流れるのが分かる。
思わず、一歩下がる。
「ふむ、驚かせすぎたか。……とりあえず自分の状況は分かっただろう?素直に質問に答えてもらおうか?まず、そうだな、名前は何というのカネ?」
ゲーデは余裕の笑みを浮かべる。
「……クレスだ。」
悔しいが、正攻法では勝ち目は無い事は自分が一番良く分かっていた。今は、奴の言う事を聞き、チャンスを窺うしかない。
「……クレスか、なぁ、クレス、君は自分の宿命をどう思うカネ?」
「……宿命?何の事だ?」
「何って、しらばくれるなよ。神人としての宿命の事だよ。」
「……神人?」
「……お前、もしかして何も知らないのカネ?」
「……だから、何の事だ?」
「ひゃひゃひゃ、そうか、そうか、何も知らないのか。」
ゲーデは不愉快な笑い声を上げると、シーリスの方に一瞬だけ視線を移し真面目な表情をする。
「一体……何を考えている?」
ゲーデは呟く。




