第一幕 死皇帝ゲーテ Ⅳ
刀を抜刀すると炎を宿した刀身が姿を現す。
神威。これが俺の持つ刀の名前。
無論、只の刀ではなく式術の力を増幅させる特殊な力を持つ術具だ。
自分の力では、せいぜい拳ほどの大きさの炎しか作り出す事の出来ない俺は、この神威を使い、自らが持つ式術の力を増幅させて戦う。
これが、俺の奥の手。
体勢を低く屈め、神威の刀身を少し下げるとゲーデに向かって駆け出す。
「ほぉ、式術か、只の人間ではないか。しかし、そんな小さな炎では、私には勝てんよ。」
ゲーデは、余裕の表情を崩さない。
俺は構わず、炎を纏う神威を袈裟掛けに振り下ろす。
なぜか、ゲーデは避けない。
構うものか、神威を握る手に力を込める。
ゲーデの右肩に、神威の刃が食い込む。
まるで手ごたえがない。妖魔を斬るとはこういう感じなのか。
ゲーデの身体に炎の斬撃が食い込む、奴は後方に倒れ込むと全身が黒くなり、地面に溶け込む。
あまりにも呆気ない結果に思わず呆然とするが、ゲーデの何事も無かったかのような声に現実に引き戻される事になる。
「……ふむ、只の炎ではないようだな、身代わりを使っておいて正解だったな。」
後方の地面から、這い出るようにゲーデの姿が現れる。
俺はすぐに声がする方向を向く。
「驚いたカネ?ふむ、退屈凌ぎに少しだけ説明してやろう、貴様がさっき切り捨てたものは私の影だ。そうだな、簡単に言うと、貴様達の式術と同じような力だ。我々は貴様達と違って、力を行使するために媒介は一切必要としない、つまり命などを使わずとも、簡単に力を行使できるという事だ。この力を私達は祖力と呼んでいる。私の祖力は【影の支配者】。影の具現化、そこにいるシーリスの【深紅の従属】に良く似た力だ。まぁ、影と血の違いはあるガネ。……それにしても、貴様は何者だ?私の影は只の斬撃や炎では、切り捨てたり焦がしたりは出来ないはずだが……。ますます興味深いな。」
ゲーデは何かを考え込む。
ゲーデが何を考えこんでいるのか俺には知る由もないが、一つだけ分かった事がある。奴には神威の斬撃は有効だという事だ。
俺はシーリスの飛ばされた方に目をやる。
シーリスはうつろな表情を浮かべてはいるものの、ふらふらとしながら立ち上がっていた。
良かった。とりあえず無事のようだ。
「……早く逃げろ。」
精一杯の声で叫ぶと、再び体勢を低く屈めるとゲーデに向かって駆け出す。
「全く馬鹿の一つ覚えのように、突っ込む事しか出来んのカネ。愚かだな。所詮は只の人間ということか。」
「奏でよ、死者の旋律を。唄え、漆黒の鎮魂歌。すべからく生命を奪い取る死者の行進。『死者の葬送行進曲』。」
ゲーデは大きく両手を広げる。奴の影が人の形から不定形に、そして無数の触手のような形に変化し、地面から這い出す。
次の瞬間、複数の鞭で打ち据えられるような激痛が身体中を襲う。
目で追うのも不可能な程、素早いゲーデの影の動きに反応が追い付かず、一方的に打ち据えられる。
激しい激痛に立っていられなくなり、うつ伏せに倒れ込む。
意識が遠のいていく。




