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神無き世界~悠久の時を生きる深紅の令嬢とかつて神さまと呼ばれた人間~  作者: 蒼 葉月
第三章 滅びの村の死の担い手
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第一幕 死皇帝ゲーテ Ⅲ

「つれないな。久しぶりの再会なのだから、もう少し余韻を楽しまないカネ?」


 ゲーデは火を付けた葉巻を口に咥える。


「ゲーデ、残念だけれど、私は貴方に用がないわ。」


 私は殺気を込めてゲーデを睨みつけるが、ゲーデは余裕な表情を崩さない。


「深紅の姫よ、残念だが、私も君には興味が無い。そこの人間を置いて行けば見逃してやるよ。私は、そこの人間の魂を食らいたいだけなのだから。お前なら、人間の一人や二人、その美貌で簡単に捕まえられるだろう。そんな人間のために死ぬのは馬鹿らしいとは思わないカネ?」


「ゲーデ、何故人間の魂なんて物が必要なのかしら?人間など捕食しなくても貴方は生きていけるでしょう。」


 ゲーデを睨みつける。


「そんな事、当たり前じゃないか。君はそんな事も分からない程、耄碌してしまったのカネ?……力を手に入れるために決まっているだろう。力を手に入れるには人間を捕食するのが一番効率が良いからな。」


 ゲーデは、残忍な笑みを浮かべる。


「くだらない理由ね。貴方……人間には手を出さないという制約を忘れた訳ではないわよね?」

「制約?馬鹿馬鹿しい、そんな事だから、奴は死んだのではないのカネ。それは君が一番良く分かっていると思っていたが。……それに理解しているのだろう、今この世界で何が起きようとしているのかぐらい、だから力が必要なのだよ。」

「分かりあえないわね、……残念だわ。」


 私の殺気があたりに放たれる。


 強がっている今の私の状況を悟られてはいけない。


 どうやってここからクレスを逃がし、私自身が逃げるかを最優先に考えなければならない。かなり危険を伴うが、逃げるだけなら手はある。だが、そのためにはまずクレスを先にここから逃がさなければならない。三百年もの長い時間を待っていたのだ、こんな所で終わらせるわけにはいかない。


「分かりあえないのならば、どうするのカネ?」


 今の私の強さを見透かしているかのようにゲーデは、余裕の笑みを浮かべる。


「することは、一つだけだと思うけど。」


 私はゲーテに向かって臨戦態勢をとる。


「ふむ、それにしてもその人間、何故そんなに存在が希薄なのカネ。この領域に引きずり込むまで、存在に気付かなかったな。実に興味深い。」


 まずい。


 ゲーデがクレスの正体に気付く前にどうにかしなければ。こいつには、昔から理解できない行動理念がある。こいつはそれを矜持と言っているのだが。


 三百年前、一時はあの方の元でゲーデと共に戦った事もあった。

 しかし、こいつは裏切った。私達だけではなくあの方の事も、私はそれが許せなかった。

 だから、……信用ならないし、クレスの正体に気付いたら、どのような行動に出るのかも予測が出来ない。

 悟られるわけにはいかない。こいつの存在はあまりにも危険だ。


 結界を無効化する事ができる神人であるクレスだけなら、選者の聖域を出られるはずだ。

 こんなことになるなら選者の聖域に引きずり込まれた時点で、クレスだけでも逃がしておけば良かった。間違いなく私の失策だ。


 私はゲーデに悟られないように、クレスに小声で語りかける。


「クレス、良く聞いて。貴方だけなら、この空間から出られるわ。来た道をそのまま戻りなさい。この場は私がどうにかするから。」


 私はそう言うと、クレスが何か言いだす前に一足飛びでゲーデに向かって駆け出す。

 力で圧倒的に劣っている今の私に出来る事は時間稼ぎくらいだ。


「ふむ……仕方が無いな。少し遊んでやるカネ。」

「うるさい。黙りなさい。」


 私は声を荒げると、自分の人差し指に噛み付いた。


「我は紅の眷属を統べし者。呪われし赤き力を持ちて万象の全てを我が物とせん。『深紅の薔薇』(ブラッディーローズ)。」


 人差し指から流れ落ちる鮮血が蜘蛛の糸のように広がり、ゲーデを締め上げる。

 締め上げられたゲーデだが余裕の笑みを崩さない。


「ふむ、【深紅ブラッド従属スレイブ】か、懐かしい。祖力エレメントすら深紅の女帝と全く同じなのだな。それにしても、……悲しいな。これが深紅の女帝と呼ばれ、多くの同胞たちが憧れたイリスの血族の末路か、こんなか細い力でこの私を縛り付けられると思っているのカネェェェ。」


 ゲーデは奇声の様な声をあげると、縛り上げている血の糸を引き裂く。そして、その血の糸を手繰り寄せるように私を引っ張ると、私の首を掴んだ。


「離しなさい、この下郎が。」


 私の甲高い声が辺りに響き渡る。

 全盛期の私なら、倒せないまでもここまで一方的にやられる事はなかっただろう。

 想像していたより遥かに力が弱っている私自身に絶望する。


「離して欲しければ力づくでやれば良いじゃないか、このか細い首、まるで少女だな。」

「その手を離してくれないか。」


 私とゲーデの視線が声のした方に一斉に向けられる。

 視線の先には刀の柄に手をかけるクレスの姿があった。信じられない光景に私の目が見開く。明らかな誤算。


「……な、何をしているの、……はや、早く逃げて。」


 首を絞められて、まともな声が出ない。


「君を見捨てて逃げられるわけないだろう。」


 クレスは刀の柄に手を掛けながら、じわり、じわりとゲーデとの間合いを詰める。


「人間如きが、この私に逆らうのカネ。ふむ、実に興味深いな。少し相手をしてやろう。」


 ゲーデはまるでボールを投げるように私を投げ捨て、クレスに対して身構える。私の身体は騒々しい破壊音とともに無数の墓標に突っ込んだ。


「シーリスっ。」


 クレスの声が聞こえる。


 意識が朦朧とする。


 全く、本当に、呆れるほどあの方に良く似ている。

 私に恐怖心を抱いているはずなのに、私のために勝ち目のない敵に向かっていく。


 信じられない大馬鹿だ。私の目論見は全て台無し。


 頭でそう考えながら、何故か満たされる自分がいる。


 クレスが私を見捨てずにいた事が嬉しいのだろうか?



 重い瞼を開ける。


 私はうつろな表情を浮かべながら、ふらふらと立ち上がり、クレスを視界に捉える。



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