第二幕 異なる存在 Ⅴ
目を覚ます。
我に返り、頭を抱える。
自己嫌悪に陥る。
何故、あのような嫉妬心を前面に押し出してしまったのだろう?
クレスはあの方ではないのだ。
本当に長い間、一人でいた。
寂しくて、寂しくて、そんな時突然あの方の面影を持つクレスが突然現れた。そんな彼に縋りたくなったのだろうか?
馬鹿らしい。
本当に……自分が惨めな存在に思える。
……しっかりしなければならない。
私は自分を戒める。
これでは、先が思いやられる。
クレスの故郷の惨劇。実は犯人の検討が付いている。そして、分かっている。その犯人の本当の狙いがクレスだという事も。
大勢の人間を一斉に石化させられる程の能力を持ったものなど限られている。
それが、導き出す結論……神人の片割れであるアリエスが目覚めている可能性が高いという事だ。
クレスが探している幻想華。
人間はそう読んでおり、半ば伝説化している。
もちろんどんな病も治せるような薬などではない。
正式名称は幻想華。私が探している神の欠片の一つだ。
但し、クレスの故郷の人間の石化は、たぶん治すことができるはずだ。
私が考える通り奴らの呪いであれば。
だから、私はクレスを騙しているわけではない。彼を利用し、命を奪おうとしてはいるが。その代償として彼の故郷の人間くらいは助けても良いと思っている。
そう考え、自分を正当化する。
クレスの右腕に嵌められている腕輪に視線を移す。
幸いな事に、この腕輪、隠遁華がある限り奴らは簡単にはクレスの所在を掴む事が出来ないだろう。
ただ気にかかる。隠遁華を渡したクレスの師匠という人間。彼は間違いなくクレスの正体を知っている。
そして、この隠遁華の本来の守護者であるヴィヴィアンが関与している事は確実だ。
常に気を張り続けなければ。
また大事な物を失う事になる。
私にとっては敵だらけなのだから。
横で寝息を立てるクレスの顔を見つめる。彼の寝顔を見ていると、私の脳裏にあの方の最期の顔が思い浮かぶ。
同時に当時の無力な自分の姿が浮かび上がる。
もう、あんな惨めな思いはたくさんだ。
今度こそ、全てを手に入れる。
……そのためにお姉様は私に二度目のチャンスをくれたのだから、そのために三百年というとてつもなく長い時の牢獄を生き続けてきたのだから。
窓を開け、左手をかざす。
心地よい風と共に深紅の蝙蝠が私の左指にとまり溶け込んでいく。
「……見つからないわね。」
酒場で聞いた情報。
私と同じような妖魔が関わっているとしたら厄介だ。
クレスにとって味方であろうとなかろうと、今の私にとって好ましくない敵である可能性が高いのだから。
問題はあれだけの情報では敵を特定できない事だ。
常に索敵を行っているが、補足する事が出来ない。
溜息を吐く。戦闘能力だけではなく索敵能力まで落ちているのか。まぁ、元々索敵作業は得意ではないのだけれど。
長い間、血を絶ってきた私の力は極端に落ちている。
今は出来るだけ争い事は避けたい。私の力がある程度戻るまでは……。
私は宿屋の窓から見える街道を見つめながら、深い溜息を吐く。




