一人だけ別ゲー・モブ転生
最近、電波を受信するアンテナの調子がとても悪い。
なにか刺激が欲しい所。
おっといけない。
こんな拙作でも、楽しんで読んで頂けるなら、それは作者としてとても嬉しい事です。
この世界は乙女ゲーム?世界である。
ヨーロッパの中世時代風、剣と魔法と魔物がはびこるファンタジー世界である。
なぜそう判断したか?
色々あるよ。ガサツそうな男でさえ、花言葉とか石言葉とか誕生石とかの知識が、常識として浸透してるのには本気で驚いた。
そこらにいる男女の立ち姿で、自分の首を撫でてたり腰に手を当ててたり。メガネの人なんか、暇があればそこらじゅうでクイクイクイクイ。
一番の判断材料は、男女共に顔や体つきの線が細すぎる事。
それと年齢不詳中年の数の多さ。街行く人々の大抵がモデル体型で美形まみれとか、苦笑するしか無い。
貴族様の子女達が、貴族様向け学園へ入学し、貴族様達が色恋沙汰で切った張ったの婚約者争奪戦を行う、大変に殺伐としたバイオレンスな場所が世界の中心である。
その学園内で巻き起こる、子女達の醜聞を様々な所から聞いて、あれこれ騒ぎ立てるのが平民最大の娯楽となっている世界。
子供用の絵本も恋愛物ばかりで、世界の本のベストセラーも学園恋愛にまつわる物とか言う、なかなかに狂った世界。
そんな世界に前世おっさんだった俺は、その学園とは全く関係の無い王都の平民の男児として、気が付いたら転生していた。
乙女ゲーファンタジー世界は驚きの連続である。
世界の共通言語が日本語だし、平民はひらがな・カタカナだけ覚えられれば上等とか言う世界で、勉強せずとも日本語が堪能な俺は神童扱いだし。
平民向けの寺子屋みたいな学習塾へ通わされたら、歴史が日本にかなり近かったり。
中世時代をモチーフにしているからか、俺のほとんどうろ覚えで適当な医療知識の方が進んでいると言うヤバさだし。
話は少しずれるが、凄かったぞー。店の看板とか。
大通りは王都の顔だから滅多に無いが、ひとつ通りがずれるだけで、変な看板がゴロゴロしていたから。
大体が漢字の誤変換。
お貴族様から頂いたとか言って。
“栄光”を“曳航”だの、“至高”を“思考”や“歯垢”だの、“蔵出し”を“鞍出汁”だの。
外国人に間違った言葉を教えて遊ぶ子供のようで、見ていて恥ずかしくなってくる。
漢字の意味まで一緒に指摘していたらお礼を貰えるようになって、気が付いたら漢字店名アドバイザーとか言う仕事にまで発展していて、子供の小遣い稼ぎのレベルを越えていたのには苦笑するしかなかった。
稼げたのは、あくまでも過去形だな。
俺や俺の稼ぎを見て便乗した、どっかの貴族の三男坊達とかの荒稼ぎによって、儲かる時期は終わった。
学力面で神童と持て囃されはしたが、この世界ではそこそこに普及している魔法を俺はほとんど使えないし、容姿はこの王都では十人並みで典型的なモブで地味ある。
食文化は英国面から異常なほどの影響を受けていて、あの星を見るパイも存在する。
……ああ、米。もちもちふっくらに炊いた米が食いたい。パエリアは伝わってきているが、そうじゃない。和食で出る米が食いたい。
俺の現在は、いわゆる冒険者ギルドの事務員をしている。
チート無し転生だし、前世は営業職してたし。魔物と戦うなんて怖いこと、するなんて論外だ。
漢字は書けるし敬語だって出来る。普段はギルドカウンター奥で事務をするが、VIPご来店時の歓待役として重宝されている。
その職場では近頃、妙な噂が流れていた。
曰く、ペラッペラでギッザギザな平面人間がこの王都に現れたらしい。訳分からん。
つい最近流れてきた凄腕の独り者で、南ばかり向いて滑るように動く癖して、動きはカクカク。
時折動きを止めて、ピッ!ピッ!と奇妙な音を鳴らしたかと思うと、様々な珍現象を撒き散らす。
背中を見せながら誰かへ話しかけたりするが、周囲に何人いても、誰に話しかけたのかが伝わる。
無断でヒトの家へ押し入ってくる。しかし、あちこち家の中を歩き回ったりピッピしたり家のヒトと話すだけ。訳分からん。
昼も夜もなく、宿に泊まらず動き続ける。
妙な言葉を使う。全く聞き取れない言語なのに、意味まで理解できる不条理な存在。
カクカクと足踏みしかしないのに、文字を書くそぶりも見せず文字を書く。訳分からん。
ひらがなだけ使うので、恐らく平民だろう。
……何度も言う。訳分からん。
その噂があちらこちらに浸透し、知らぬ者は無いと言ってしまえるほどとなった、ある日。
俺はノイローゼで倒れたとか言う受付の代役をしていた。
そして時間はおやつ時、ギルドとしては、事務作業最盛期。
客がほとんど来ないこの時間の内に、増えない書類を今の内に、処理できるだけ処理してしまおうと気合いが入る時間。
「いま いいか?」
奴が来た。ペラくてカクカクした背中を見せながら。
来たと同時にそれはもう、深く理解した。
前世の、しかも恐ろしく古い部分から、瞬時に引っ張り出された記憶。
噂を聞いても、そりゃあ訳が分からないと思うわ。
なんで乙女ゲームっぽい世界に、初代の竜を探す“ゆうしゃ”が居るんだよ。
そりゃあカクカクするわ。最初も最初、リメイクじゃない奴ならな。
しかもずっとセリフもボボボだしな。メッセージボードが出ない代わりに、ボボボでも理解できる不思議なナニカが働いているのだろう。
「きいているのか?」
おっと、不味い不味い。物思いに耽りすぎた。
「失礼しました。ご用件を伺います」
……なんとか取り繕い、ゆうしゃとのやり取りは済んだ。
用件は魔物素材の売却。買取金額を提示して、承諾を貰うときに「はい」と言われて笑いそうになったのは、必死にこらえた。
やはり“はい”か“いいえ”で返事が必要なら、それで答えるらしい。
しかも名前が“ゆうてい”だと教えてくれたが、100%笑わせに来てて、絶対に卑怯だと思う。
1の姿をしていて、なんで2の有名なパスワードから取ってるんだよ。
あー、いや。一応思い出しているよ?“ゆうてい”が特定のとても凄い人物名だってのは。
少しの興味もあり、この後の予定を訊いたのだが。
「おうし゛ょうた゛ し゛ゅもんをききにいく。」
だそうだ。それについ、思わず反応してしまった。
「間違えないよう、気を付けて下さいね」
「そうた゛な またくるよ。」
俺がつい反応してしまったのに気付かず、ギルドから出るゆうていさん。
その後ろ姿は相変わらず、カクカク足踏みしながらヌルヌルとスライド移動をしていた。
翌日以降、ゆうていさんの目撃情報がぱったりと途絶えた。
最後の目撃情報は、聞いていた通りに王城。
王様と話をして、それから姿が消えたそうだ。
それから何日経っても、ゆうていさんは世界のどこにも現れなかったと言う。
なぜ現れないかは、多分俺だけが知っている。
じゅもんが ちがいます
……1は違うとか言わないで、違ったままスタートだったかな?
2は違うなら違うと大体言われたけど。
もう古すぎて覚えてないや……。
違ったままスタートが正解だったなら、姫救出済みのデータになってエンディングを迎えてしまったと、そう思って下さい。




