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仄かに私を隠したのは誰?  作者: 狛烏賊
わたしのハジマリ
3/11

2. 弱い自分とやさしい親友

 

ーーーそこには俺の想像した以上の光景が広がっていた。


 流石にここまではされるわけがないと思っていた。俺自身彼に対して危害を加えたことは一度ともない。だから信じていた。


 彼も人間の心を持っているはずだ。そう思い、あのこともすべて自分でなにかしらのミスを犯してしまい、あんなことが起こったのだと信じていた。


 でもこれは揺るぎない証拠となった。なぜなら…


 ーなぜなら目の前に俺の靴が有った。それは今も水道の水による滝に濡らされている。わざわざ誰かがみんなにも目につくようにかここの水道に持ってきて、そこに置き水道の蛇口をあけて放っておいたらしい。


 もう完全にびしょびしょになっているところからして、ずいぶん長い間ここに置かれてたようだ。


 流石にこれは人為的だろう。どう考えてもこれが自然にたまたま起きた。そんなことは到底できない。


「これは、、、流石にひどすぎる、」


 雪原もそう言う。これが自分のだったという旨を彼に伝えた。彼は俺の態度からそれを察していたかのように頷いた。


 そして俺は後ろにある昇降口に戻り、靴を履き替えた。足が冷たく冷えていくのがわかった。まるでからだの芯までもが凍るっていくのかのような気分になる。


「ごめん。今日先に帰るね。」

「あっ……うん。」


 雪原にそう告げ、俺はポツポツと歩き出した。雪原は付いてこなかった。彼は俺を一人にしておいてほしいという気持ちをわかってくれたらしい。このようなことがあったとき彼はこうした方がいいということを知っていた。


 歩きながら必死に涙腺が壊れないように力をいれる。俺は泣き虫だった。なにかあるとすぐに泣いてしまう。そしてそんな情けない自分が嫌だった。


 そのとき目の前にこっちを見ながら大声で笑っている人物が目に入ってきた。その人物はまるで俺を馬鹿にしているかのように笑っていた。その目は明らかに俺に向けられていた。


 もし、ここで泣いてしまっては彼の思う壺だと。そんなの分かっている、分かっているけど、涙がたくさんこぼれてきた。


 そしてそんな情けない自分を見られるのが嫌で次の瞬間、俺は思いっきり帰路に向かって走り出していた。途中先生に見つかり、事情聴取を受けそうになったがうまく逃げ多くの人が使う道とは逆の道に入っていった。


 実は先程から少しずつ雨が降り始めていたのだが、それは俺の黒く染まりつつある心を表すかのように強く、激しくなっていった。体育着には雨だけでなく己の涙も染み付いていった。そして次の瞬間には逃げるかのように思いっきり走り出し、もはや記憶には残らなかった。


  ※


 どれほど走ったのかもう覚えていない。場所的に言わせてみれば10分程度たった辺りだろう。気がついたら涙はもう引っ込んでいた。


 ただ悔しかった。悲しかった。情けなかった。


 俺は彼になにもやっていない。もしこの主張が間違っているにしても、ここまでやられる筋合いはあるのか。そして、こんなに些細なことですぐに泣いてしまう自分にも怒りを覚える。


 でもそれがいつも通りなのだ。どんなに気を付けても直らない。それでも自分が情けなく、そして悔しい。


 そもそもなぜこんな目に逢わなければいけないのか。やっぱり真面目すぎたのがいけないのか。それで目をつけられたのか。


 ーーいや違う。


 そういえば俺は一度部活中に全く走らない彼を見て一度注意をしてしまったことがある。それで恨みを買ったのか。


 この彼は前からずっとこんな性格で万引きもしたことある上に、自分に都合の悪いことがあるとすぐに暴力をふるようなやつだった。そんな人間に注意しても、無駄なのに。俺は馬鹿だ。


 もしくは彼に対する最近の俺の態度が悪かった可能性だってある。


 真相はわからないが、結局なにかしらの原因などが俺にあるのだ。このようなことがあったとき多くの人は「萩斗は悪くない」や「お前も確かに悪かったけど相手も悪い」という。


 しかし、原因はきっと俺にある。だから俺が悪い。それにこんな些細なことでも泣いてしまう。そんな俺も悪い。


ーーいつもそう思う。


 そしてまた大きな涙の粒が落ちてきた。自分が悪いのに、すぐに泣いてしまう。そんな自分が本当に情けなく、嫌だ。


 そのとき…。道の脇からから鼻唄が聞こえてきた。


 急いで自らの目からあふれでる涙を拭い、涙を止めようとする。もともと誰にも会いたくなくて、こんな情けない自分を誰にも見られたくなくて、この、ほとんどの人が使わない道で帰ってきてるのだ。


 もし知らないひとならまだいい、でもこの声の感じだと……


 そのとき、道の脇から人が出てきた。その鼻唄を歌っていた人物は俺の予想した通り、柚菜だった。


 向こうもすぐにこちらに気付き、驚いたかのように歌うのをやめ、声をかけてくる。


「萩ちゃんと朝も帰りも一緒になるなんて久しぶりだね。ってかいるの知ってたら歌なんて歌ってなかっ…。やっぱりなにかあったの?」


 彼女は言葉を途切らせて、少しこちらを心配そうにする。それはそうかもしれない。


 今は物凄く強い雨が降っている。そして、その中傘を指さずに歩いていたのだから。さすがに雨の中なので涙が出ていることに気付いたかどうかはわからないが、とにかくなにかあったと考えるのが普通な気もする。


「萩ちゃん泣いてるし、傘指してないし、、。どうしたの?まぁ誰が萩ちゃんを泣かせたのかは大体想定がつくけどさ。」


 泣いていたことは気付かれていたらしい。


 ともかく、そんなこと言って柚菜は俺を自分の傘に無理矢理いれる。いわゆる相合い傘みたいな状態だ。柚菜の傘は当然ながら俺のより小さく、一般的な女子中学生よりも小柄な二人でもお互いの肩の辺りが濡れてしまう。いや、俺は男子だけど身長154くらいだからね。


 そして、この事態に恥ずかしく感じた俺は急いで柚菜の傘からでて涙をもう一度拭い、笑顔を作ろうとする。しかし、どうしても笑顔を作れず、ひきつった顔になる。


「萩ちゃん、傘差さないと風邪ひくよ。」


 そうしてもう一度自分の傘に俺をいれようとしている柚菜を横目にエナメルに折り畳み傘をいれておいたのを思い出す。急いで取り出して傘を開く。これで少なくとも柚菜に傘に入れられることはない。


 そうすると柚菜はこんなことをいう。


「別に気にしないでいいのに…。あ、萩ちゃん恥ずかしいんだ!恥ずかしくて私のかさに入ろうとしなかったんでしょ?あはは、萩ちゃんはやっぱりかわいいね」


「うるさい。逆にこの年になってまで同じ傘に入って帰るのを恥ずかしがらない幼馴染みっている?いないでしょ?」


「私は別に構わないけど?」


「うぅぅ…」


 反論が思い付かない。そして思わず笑ってしまう。彼女とこんなふうにどうしようもない話をしているといつもおかしくなって、笑ってしまう。すると…

 

「でも、よかった。萩ちゃんが笑ってくれて。」


 こんな風に言った。


 こんなバカバカしい話のなかでこんなことをいわれて、思わず拍子抜けしてしまう。「なんでそんな風にいってくれるの?」。そう聞こうとした時彼女は言う。


「萩ちゃんは悪くない。それなのにいつも自分のことも責めている。どうせ今日のことも自分のせいだとか思っていたんでしょ?」


 図星である。だからこそなにも言い返せなかった。でも、これは本当に自分が悪いのだ。だから、、


 そもそももし本当に俺がなにもしていないのなら、こんな目に遭うことはない。きっとなにかしら俺が彼のいやがるようなことを、悪いことをしたのだ。


 そんな俺の思いを知っているかのように彼女はこう続ける。


「萩ちゃんは責任感が強すぎるんだよ。私は知ってるよ。萩ちゃんがこんな風に泣いている時、萩ちゃんは悪いことはしていたとしても、萩ちゃんだけが悪いということはない、ってこと。」


「そんなことない。」


 そう言おうとした。しかし、彼女に言葉を遮られた。


「萩ちゃんはそう言うけど本当に萩ちゃんは悪くないもん。私の前なら泣いていいんだよ。嫌なことがあったら愚痴ってくれていいんだよ。どんな些細なことでも私は聞くから。なんでかって聞いてくるかもしれない。それでも…」


 ここから先、彼女は続けなかった。でも、言いたいことはわかった気がした。


 考えてみれば彼女とはいつも一緒にいた。まるで姉弟のようでなにがあっても彼女には相談にのってもらったりしていた。嬉しいときは二人で喜んで、悲しいことがあったら一緒にしょげていた。いつも彼女にはなにかしてもらっていたのだ。だから、彼女は話してほしいと言ったのだろう。でも、、、


 だからこそ今回は彼女には心配をかけたくない。そう思った。


「大丈夫だよ!」


 できるだけ元気な調子でそう伝えた。彼女はこれに関して、なにも言わなかった。


 これに対して彼女がどう思ったのかわからない。だが、彼女は大きく息を吐き、「わかった」とだけ呟いたのが聞こえた。すると、彼女は言う。


「そういえば私達が小3のときさ、こんな感じで大雨が降っていた日覚えてる?藻華の家から帰るとき私が傘を忘れちゃったときの話。」


 いきなり話題を180度変えられたのでさすがに驚いてしまう。でも、すぐにこのことはよく覚えているだ。 


 あの日柚菜と俺は藻華のいえに遊びにいっていたのだけれでも、行きは青々と晴れていたのにも関わらず帰りにすごく強い雨が降ってきた、まるで今日のような日だった。


「覚えてるよ。あの日は今日と逆で俺の傘に柚菜を入れたんだよね!」


 俺は天気予報を見ていたため雨が降ることを知っていたから傘を持っていったのだ。


「あのときは、萩ちゃんも全く恥ずかしがらなかったのにね」


「あのときは小学生だったからだよ」


「そして、帰り道にダンボールには言った子猫を見つけて、その猫を家に持って帰ったらもとのところに置いてこいって、言われて、結局藻華ん家の飼い猫になったんだよね。ほら、あんな風な猫だった。」


 そういった柚菜が指を指したさきにはここら辺に住み着いている猫が丸くなって車の下で眠っていた。


「あれはなんかちょっと違う気がするけど…」


 すると、柚菜が猫に近づいてツンツンと猫をつつく。この猫は確かに人懐っこくて優しい猫だが、さすがにこれはまずくないのか。

 

 そう思ったとき、猫がごろんと寝返りをうち、驚いた柚菜が一歩引く。それでも猫は何事もなかったかのようにすやすや寝たままだ。


 その様子を見て、二人は目を合わせて大きな声で笑い出した。あまりにもおかしかったからだ。


 柚菜と一緒にいると、気が楽になるし話すのが楽しい。彼女といるといつも笑っていられるのだ。ずっと一緒にいた幼馴染みだから…っていうのもあるかもしれない。しかし、彼女にはみんなを笑顔にする魅力があった。


 さっきまであった複雑な気持ちも彼女といると自然に消えてしまう。きっと家に戻ったらまたあんな風に嫌な気持ちに戻るだろう。でも、、、


 今だけは自分のしたことの責任を無視してこの時間を楽しんでもいいのではないか。自分が他人に対して嫌がることをしたのではないかという考えを捨ててもいいのではないかと。


 こんなとき、俺はそう思えるのであった。


  ※



 そのあとも他愛のない昔話やクラスの話が続いた。


 その度に二人は笑い、またその時間はとても楽しかった。そして会ってから15分ほど歩いたところで二人の家の辺りに着き、二人は分かれる。


「じゃあね!」


 そう声をかけて俺は自らの家に走ろうとする。あと家までは十メートルちょっと。もはやゲームをする気は更々なくなっていたが、こういう日は帰ったらすぐに寝たい。


 そのときーーー


「萩ちゃん!!」


 彼女は俺を呼び止めるかのように、俺の名前を叫ぶ。俺はそれに振り向くしかなかった。俺がなにかを言おうと口を開けようとしたとき…


「なにがあったのか私は大体わかった。萩ちゃんの気持ちも少しわかる。でも、、、私にはなにがあったか言ってくれていいんだよ。というか、私や藻華には素直に話してほしい。私達は萩ちゃんの味方だから!」


 そう寂しそうに声をかけてきた。


 いつも一緒にいた幼馴染みは普段のような笑顔ではなく、どこか寂しそうで、なんだかつまらないというかそんな感じの悲しそうな顔を浮かべていた。


 それに対してなんと返すべきか俺にはわからなかった。でも、


 「ありがとう」


 そう、まるで呟くように返した。それは本心だった。また、そうすることしかできなかったのだ。


 そして、家の方を向いて歩き出そうとする。


 なんだか、申し訳のない気持ちで一杯だった。少なくとも彼女は今の俺の状態を心配してくれていた。


 そしてそんな彼女にいつも恩を返せない自分自身もとても情けなくて、悔しかった。


 そんな中で俺はなにもまだ感謝の気持ちを伝えられていない。


 そうだ。彼女にしっかり感謝の気持ちを伝えなければならない。いつも恩返しできていないからこそしっかりと感謝しないとならないのだ。そう思った。


 彼女の方を向き直り彼女の方に戻る。


「ありがとう。でも、今は大丈夫。」


 そう、今度ははっきりとした声で伝えた。本来はなにがあったのか話すべきなのかもしれない。でも、それはできなかった。理由はわからない。でもできなかった。


 ならば、と。とりあえず感謝の気持ちだけでも伝えようと。


 彼女もその気持ちはわかってくれたのかもしれない。


 そして、なぜか


「ありがとう」


 そう言ってくれた。そのときには彼女にはいつも通りの笑顔が戻っていた。


 やっぱり俺達はどう転んでも幼馴染みで親友なんだ。


 そう感じた。


  ※


 そのあと二人は互いにじゃあねと手を振って分かれる。藻華を含めた俺達は普段こんな風にして分かれるのが習慣になっていた。


 で、家までの残り十数メートル歩くのだが、さっきまでの帰路は柚菜と一緒に話しながら帰ってきたので進む時間も早かったのだが、柚菜と分かれると再び自己嫌悪に陥ってしまい家につくまでが長く感じられる。


 それに、なんか頭が重たい。さっきまではほとんど感じなかった頭の痛みが出てきて、時が過ぎるごとにそれは増す。


 そんなこんなでなんとか家にたどり着き、家に入る。ただいまと言うのもそこそこに温かいであろう風呂に向かう。


 母さんに体がビショビショだがどうしたのかと聞かれる。でも、応答できるほどの余裕がない俺は無視せざるを得ない。本当に体調が悪いのだ。


 僅ながらに働く判断力を総動員させ、とりあえず風呂に入ったら熱を測り、歯磨きをして、即座に寝る、という一連の流れを決めた。


 その傍ら柚菜の言う通り傘を指し忘れていたから風邪を引いたのかと思う。


 我が家の風呂場は二階にあるため途中で危うく転けそうになるがなんとか耐えた。


 ともかく、なんとか第一関門を突破し、風呂から出た後、下に下りると妹の涼香がこんな風に尋ねてきた。


「母さんが、靴ビチョビチョだけど明日の部活どうするのかって聞いてるけど、、、その感じだとシンプルに無理そうだね。」


 我が妹よ、とりあえず察しの良さは褒めてやる。


 でも今はそんなことはどうでもいい。急いで体温計を取って測ったところ38.2の表示だった。


 それを見たすずは急いで母さんを呼んでいる。それを横目にさっさと歯を磨き始める。今の俺にお腹が空いているとか考える余裕などない。 


 また、さっきより体調が悪くなっている気もする。吐き気はなく、どちらかと頭痛がひどい。さっきまでの嫌な気持ちをも吹き飛ばすくらいにひどい。


 歯磨きを終わらせると、リビングにいた母さんが冷えピタと氷枕を持ってきてこちらに渡し、さっさと寝るように言うが、それを聞き終える前に二階にある自分の部屋にいく。そしてベッドのなかに入り、速やかに寝っ転がる。


 布団のひんやりした感じと、氷枕の冷えピタの冷たさで少し楽になってくる。そういえば解熱剤を飲んでなかった。でも、今は寝よう。解熱剤は明日も熱があれば飲めばいい。


 そう思ったあるタイミング、頭の熱さと重みが一気に増した。それは頭をガンと殴るかのように強い痛みで、少しずつ強くなっていく。


 そして全身にまで燃えていくかのような痛みが走り始め、体が溶けるかのような感覚に襲われていた。


 もはや、うめき声すら出ないその痛みは、ある時まるで某高校生探偵が某組織の監視中に薬を飲まされたときのごとく、骨までを溶かすような感覚になる。そして、そのなかで…


 俺は意識を失った…

今回は柚菜と萩斗の関係と事件の始まりがテーマになっています。本当はもっと短くまとめようとしたのですが、少し長くなってしまいました。

また、サブタイトルは、柚菜との友情をメインとするか事件の始まりを強調するか迷いましたが、柚菜との友情を優先させることにしました。でも、今後次第ではサブタイトルの変更もありえますのでご了承ください

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