10. チュートリアル
というわけで筆箱のところまで引っ張ってもらいました。まぁここまでの流れ通り涼香は「どれがいい?」って聞くんだけど、全体的に見ないとわかんないし。そういうわけでそのコーナー全体を見回す。てか、クラスの女子どんな筆箱持っていたんだっけ。
あ、そうだ。
これは確実に個人的な偏見かもなんだけど。男子は少し大きめでいろいろ入る筆箱を1つしかもっていないのに対して、女子は小さいのと大きいので分けていれている人が多い気がする。片方はシャーペンとか用、もう一方はカラーペンとか用って感じで。
これを考えると俺も二つ買っとくべきなのだろうか。そう思って一番近くにあった筆箱の値札をみる。大体1500円くらい。二つ買っても3000円強くらいか…。仮に二つ使わなくても片方は家で使えばいいしね…
よし。二つ買おう。
ということで、筆箱は二つ買うことにした。1つ目はもっともシンプルで布でできたポーチタイプのやつ。チャックで開け閉めができて、中にも1つポケットがあるので、中に本のしおりや付せん、メモ帳なども入りそうだ。色は灰色基調としていて英語もなんか書いてある。なかなか可愛らしいデザインだと思う。
そして二つ目。こちらもさきほどと同じようにシンプルな感じのやつ。形だけは。ただし、デザインは某キャラクターが描かれている。キャラクターといっても中学生が持っていても自然なくらい世界でも有名なワンちゃんである。ちなみにネズミーではありませんよ?
まぁともかく両方ともかわいさを基準にして選んでみました。ただ、そこまで目立つのも嫌だったからシンプルでかわいいやつ。両方とも灰色が基調となっているのは個人的に灰色の生地が好きだったからなんだけど。
とまぁこんな風に選びおわってそれらをかごに入れると動きの早い我が妹は「これで終わり?」と確認。首を縦にふると満足したようにして先程筆箱も入れたことで少し重くなった買い物かごをレジに運んでくれた。ちょっとびっくりけど何も言わずに着いていくことにした。
「あれ?筆箱って二つも買うの?」
かごの中身を見たのか涼香が問う。まぁ確かに普通はそう思うかもだけど、小五の女の子って筆箱二つ持ってないもんだっけ。なんかこういうのをし始めるのは小学生高学年からのイメージがあっただけあってこの質問は意外だったけど
「中学生になると結構みんな二つくらい持ってるもんだよ?」
って答えておく。
それに対して涼香は少し羨ましそうに
「そうなんだ。灰色基本にしてる色。かわいいね。ほーちゃんみたいなかわいらしさがあるよ!」
と少し意味がわからないコメントをしたけど
「ありがと」って返した。
そんな風に涼香による文具のチョイスに対するコメントを聞きながら並んでいるとあっという間に俺たちの番。少し重ためのかごを涼香が持ってレジに持っていく。涼香がカウンターに買い物かごを置いたらレジのお姉さんが会計を始めてくれた。
中に入っているものはシャーペンや筆箱の他、蛍光ペン、ハサミ、付箋にボールペンなどなどあくまでも自分の好みで選んだつもりだけど結構女子っぽい、つまり穂乃華は萩斗だってバレないような感じの筆箱とその中身である。推定7000円から8000円かかるであろう。だが、それでも財布は割と残ることになるのは驚きである。あとは消しゴムを買う程度なのでおこづかいも結構残りそう…あれ?そういえば、、
萩斗だってバレないように…か。完全に忘れてたかもしれない。いや、意識していたのかもしれないけど。でも、自分で気づいて動いていたか、というと、そんなことない。なんで今思い出したんだろ。けど、、
「7430円ちょうどになります。」
そのとき。店員さんが代金を提示した。
「あ、はい。」
気をもどした俺は急いで財布を取り出して十円玉まできっかりと支払う。店員さんは笑顔で「ありがとうございました。また来てくださいねー」と言ってくれたので、「ありがとうございましたー」って小声で返して近くにある椅子に座った。
そして、その椅子に座りながら思い出したことと、ここに来てからのことを考えて誰かに、、具体的には涼香に俺のことが気付かれるような行動をとっていたか、振り替える。また、買ったものに俺だってことがバレるようなものを買っているか確かめた。
結論からすると買ってきたものから萩斗だってわかるようなものは全くなかった。というか思った以上に所謂女の子らしさがあることに気づく。なんでこんなに女の子らしさがあるのだろう、と少し自分の気を疑うが女の子が行くような店で買ったんだから当たり前だよね、と割りきる。問題は涼香が俺だって気づいているか、だ。
一人称は自分でも意識しているってことに気付いてなかったが、しっかりと意識して話していたために、俺、っていう一人称はこの間ずっと、、多分使ってない。
他にも特に涼香が気付きそうな言動はしてない、と思うんだけど。なにか不安が残る。うーん、、そのとき。
「……ちゃん、ほーちゃん、おーい!」
「え、あ、ど、どうしたの?」
「どうしたの、ってほーちゃんさっきから呼んでも反応しないんだもん。なんか考えてたの?」
「あ、うん。ごめんね…」
涼香が声をかけてもとの世界に戻してくれた。まぁとにかく今のところはこの秘密についてしっかりと覚えとかないと、ということだけ頭に叩き込んでさっきの調子に戻ろうそうしよう。
そう思って顔をあげるとすずが覗きこんで目を合わせた。
「謝んなくていーよ!ほーちゃんも昨日こっち来たばっかだったしね!疲れちゃった?」
え、そんな設定あるんですか?聞いてないんですけど。どういうことなのかちょっとよくわからないけどここでいろいろ突っ込んでたら話が続きません。とりあえず適当に話して消しゴム買いに行こー、と思って。
「いや、大丈夫だよ!結構元気だよ!」
「それはよかった!ほーちゃん店出たらすぐにベンチ座っちゃったから少し心配してたんだー。」
「そっか、ごめんね。ちょっと歩き回ったから疲れちゃっただけだから、すぐ消しゴム買って、かえろー!」
っていってみたんだけど涼香は手を引っ張ろうとせずにむしろ、
「いや、いいよ!てか、もう少し座ってて。どっちにしろこの辺で座ってもらう予定だったし、、」
と言って俺の後ろに回った。
「えっ!?すず、なに?」
「いいから、いいから、」
そう言うだけでこちらの質問に答えてくれない。そう思ったら今度は髪の毛をさわられる感覚があった。気になって上に顔を動かすと「動かないで!」って涼香に言われてしまったので大人しくすずがいいっていうまで待つことにした。
少しでも涼香のやっていることを把握しようと、目を動かしてみると、すずは今日俺が買ったのでなく、恐らくすずのものであろう櫛を使って髪を結っていることがわかった。
そしてそれが始まってから約2分たってようやく「いいよー!」と声をかけられた。ずっと首を動かしてなかったので首を少し横にふると涼香に「ちょっと髪をさわってみて!」って言われた。
言われた通り、髪をさわってみるとはじめはさっきと同じようなポニーテールじゃないか、と思ったけど髪ゴムが違うことに気づいた。
「あっ!」
「えへへ!どうー?」
そう言って涼香は俺に鏡を見せてくれた。
「わぁ、、かわいい、、」
思わずそう呟いてしまった。涼香はイタズラっぽく笑っている。かわいい、って言ったのはあくまでも自画自賛でないということを是非信じてほしい。あくまでもヘアアクセの方がかわいいだけだ。うん。そうなのである。
そのヘアアクセとはなにかというと、髪ゴムに白色っぽい毛のふわふわがついているわかる人ならわかるであろうアレだ。
ふわふわをさわってみるとやっぱりやわらかくて気持ちいい。それに個人的にこのデザインは結構好みだったってだけあって嬉しいといえば嬉しいのだ。
「これ、、どうしたの?」
せっかく着けてくれたのになにも言わないのもよくないと思い聞いてみた。
「ほーちゃんにプレゼントだよ!ほーちゃんに似合うかなって思って買ってきちゃった!それにしてもほーちゃんの髪細いよねー。すずもらしいんだけど。髪細いとちょっと結びづらいから時間かかっちゃったけどどうしても今着けてほしくて!よかった!」
そう言われてもう一度髪を撫でると確かに涼香みたいに細い髪だったけど、自分で結んだときより遥かにきれいに結ばれていた。
「ありがとう!」
「あはは、喜んでくれてよかった!じゃあ一緒に消しゴムとか買いに行こ!こっちだよ」
そう笑いかけたあと涼香は嬉しそうに少し先に行って手招いた。「待って」と小走りで追いかけ、すぐに追い付いたら二人で歩き出した。さっきまでと違って涼香は最初から俺のスピードに合わせてくれたようでこのとき、涼香に合わせて歩く必要はなかった。
とはいえ、ここまで長い時間買い物で歩いたのは久しぶりだし、昨日ここに来たのは嘘とは言えども一昨日からいろいろあっただけあって、とても歩きながら喋れるほどの元気は残っていなかった。
涼香はこの様子に関してその理由についてなんて思ったかはわからないけど、疲れていることは察したのか俺に話しかけずに黙々と歩いてくれた。
このとき俺たちは今日一日のなかでは珍しく手を繋いでなかった。なぜかはわからないけど。とにかくそういうこと。だからこのとき涼香にしてみればその文房具売り場に案内してるようなものだったのだろうが、こちらからしてみればこのイ○ンはよく来ていたので普通にそこに向けて歩いていればよかった。
それが災いして事件は起こった。
「すずー?ここだよn…、、あれ?」
涼香が、、いや俺が、かな?とにかく迷子になってしまったのだ。右を向いても左を向いてもそこに涼香の姿はありやせん。
さっきも言ったように手を繋いでいなかったのもあって涼香が消えたのがいつなのかもわからない。とりあえずもとの方に引き返すもののやっぱり涼香はいない。というかいるわけがない。
「どうしよう……」
もちろん、涼香がいないところで家に帰ることはできるし、そういった面においては最悪どうにかなるだろう。でも、。涼香はスマホを持っていない。あの涼香のことだ。俺のことをきっと探しているし、、、
結局、一先ず回った店を一つずつ探し回ることにした。あと、涼香が行きそうな洋服の店とかも。それでも涼香はいない。見つからない。ため息を深く吐きながらスマホを取りだし画面を見てみるけど、LINEがくるはずもなく。ため息をもう一度吐きながら長い髪を前に持ってきて弄る。
「どこに行っちゃったんだろう…?」
とは言っても呟いても見つからない。近くにあった椅子に無意識に座る。すずが行きそうな場所、すずがいそうな場所、すずが待っていそうな場所、、、、
「ひゃっ!!」
突然冷たい風が背中に吹き付けた気がして、思わず身をくねらす。幸い回りに人はいないがそんな風に風を吹き付けそうなものもない。
「ど、どうしたんだろ…?まぁでも今は涼香のこと。うーん、、」
少し、、というかかなり気になるけど気を紛らすためにも涼香について考える。さっきなにか思い付いた気がしたのだ。なにかが胸に引っ掛かっている。ふわふわした髪ゴムときれいな髪を手に弄りながら思い出そうと努力する。そのとき、髪に手をやる左手に冷たい風邪を感じた。それは背中に対しても同じで、すーっと吹き抜ける。
ハッとして振り替える。が、それに驚く時間も与えられないままに声が聞こえた。
「あるじゃないか?一ヶ所だけ。」
「誰!?」
後ろを向いても前を見ても誰もいない。けど、この声は私の聞いたことがあるものだった。
「誰!?とは失敬な。今朝、君の夢に出てきた、、」
「黒幕…」
「よくわかってるじゃないか。」
「何でここにいるの?」
いないのに脳に反射し続ける声に問いかける。相変わらず周りに人はいないため、話しても大丈夫だった。
「普通はこんなことしないんだけどね。まあ初日だから困ることもあるだろうし、補足にね、」
「来なくていいよ。」
「まぁまぁそんなことおっしゃらず。私の話を聞きたまえ。」
そういって奴は話始めようとする。しかし今はそれどころじゃないし、こんな奴に構いたくなかった。
「今はそれどころじゃない。涼香とはぐれているんだ。邪魔しないで帰ってくれない?」
そういって追い払う…、、そもそもどこにいるのか知らないけど…、、そうしようと思い、歩き出そうとした。しかし奴の次の言葉が俺をとどまらせることになった。
「それだよ。その話だよ。君が今探していて、大切なもの。そのために必要な最低条件を再確認しに来たんだよ。」
「えっ!?すずの場所がわかるの!?」
すぐに俺はもとの位置に付いた。
「半分正解だが、半分は誤りだ。私は君がルールをわすれてそうだからきた。もう、これ以降は真っ昼間にこんなところ来ないかさ。私だってなにかと忙しいんでね。」
「は、はぁ。」
「ともかく、だ。本題に入ろう。私もさっさと家に帰りたいんだ。」
「ちよっ、家あんの?」
話を遮ったのはもちろん俺の声。でも、みんなも思わないかな。こんな奴から家に帰りたいって言葉を聞いたらこうなるよね?
一方、話を遮られた本人はその瞬間大きなため息が聞こえた気がしたがすぐにこう続いた。
「これ以上邪魔しないでくれ。次変なツッコミしたらなにも言わずに帰るからな?」
「ごめんなさい。続きをお願いします。」
「よろしい。そもそも、だ。君はすでに気づいてるはずなんだ。先程から君の胸になにか引っ掛かっているんだろう?そして、その正体に気付いてるはずだから、特に私がいうことはないんだ。」
「じゃあどうして……」
「ルールを確かめるためだ。」
「ここに来たのか…?」そう聞こうとしたが言い切る前にそう告げられた。
「言っただろう。君の正体は、三つの手がかりによって人にばれる。そして3人にばれたり、君が正体を教えたりしたら、、」
「死に値するなにかが…」
「君を襲う。そして、その三つの手がかりが掴まれた、あるいは正体がばれた瞬間きみに強い痛みが走るんだ。もうわかるだろう?」
「わかるって……」
「君は気づいているんだろう?正直になれ。」
「そんなこと言われても……」
気付いている、気付いている、なにを……?
痛み…といえば確かに今日、2回ほど不自然な痛みを感じたが……
あっ……
そのとき、さっきからあった胸の突っかかりがほどけた気がした。今日何度か背けてきた記憶もある。そんな現実が目の前に迫った。
「ようやく気づいたか。」
「もしかして涼香は…?」
すでにヒントを三つ掴んでいる…?
「そういうことだ。」
短いような長いような不思議な間が続いた。その静粛を奴は静かに破った。
「そもそも家族にのみ一人だけ話してもいいというのはこれから続くゲームを私が楽しむために君たちに提供するチュートリアルだ。こうして君はこれから過ごすんだ。」
「でも、この情報でどうやって涼香を探せと、、」
「そこから先は君が考えたまえ。わたしはあくまでもチュートリアルの案内をしに来たのみだ。これでもうわかるだろう?」
「くっ、、」
結局肝心なことは聞き出せない仕舞いか…?そういえば肝心なこと、といえばこのゲーム?に関して、なぜ俺がこんなはめになったのか、いろいろなぞがある。それはなぜか、、それを聞こうとしたとき。逃げるかのように笑い声が聞こえた。
「はーはっは!君がどれだけ私を楽しませてくれるか、楽しみにしてるよ。」
「ま、待て。逃げるなんて卑怯だよ!」
「逃げるわけでない。私が伝えられるのはこれだけだし、何度もいうが君を助けに来た訳じゃない。まぁ、、それにしても、、」
少し間ができた。かと思ったらもうすでに奴は消えていた。それを示すかのように辺りに親子連れがやってきて、賑やかなショッピングモールに戻ってきた気がした。
「あ、そうだ。涼香…」
少し考えが飛んでいたが、涼香についてだ。奴の話によると涼香はすでに俺の正体に気づきかれているのだろうか。でも、仮に気付いているとして、俺と涼香が落ち合えるようなところって…、
涼香がゲーム売り場とかにいるとは思えないし……
あ、あった。
もし涼香が俺の正体に気付いているなら。ここにいるかもしれない。でも同時に、ばれていたとして俺は、なぜだか、なんだかわからないけど心配になった。具体的にいうと、さっきみたいな、普段みたいな、兄妹(姉妹)に戻れるか、心配だった。
でも、、
俺は涼香がいるであろう、そこに向けて走り出した。
中途半端になりますが『仄かに私を隠したのは誰』は無期限の充電期間に入ります。代わりに近日中に新作を十分にストックを用意した上で投稿する予定なのでお楽しみに




