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 0・ 始まり!

 

 あ! ほほが緩むのを止められない。

 

 ありふれた白い皿に、ポツリと乗せられた、ただ焼いただけの、厚切りの、お肉。

 飾り切りされた、彩り豊かな野菜が添えられているでもなく、きれいな模様を描くように、ソースがかけられているでもなく、

『まぁ、食べてみれば』

 とでも言いたげな、愛想のない、ひと皿です。

 しかし、何ともいえない、独特で豊潤な香りが立ち昇って来るのです。

 このような香りのする香辛料を知りません。かすかに甘く、芳ばしい、炒った木の実のような香りです。肉自体の香りなのでしょうか? それとも何か、特別な技法で、香り付けをしているのでしょうか? 考えていても仕方ありません。さっそく、ナイフを入れて、ひと切れ、口にして噛みしめると、あまりの美味しさに言葉がありません。気が付けば空になった皿を、じっと見つめていました。

 ふと、我に返ると、正面に座るマリが、テーブルに肘をつき、広げた手の平に顎を乗せて、幼子(おさなご)を慈(いつく)しむような笑顔を、私に向けているではありませんか。

 マリのくせに生意気です。 

 私は手を伸ばし、マリの頬を摘まみ上げて問いかけます。

「マリ! これは何?」

「あ゛ばばば」

 マリの頬はとても柔らかく、触り心地が良いうえに、痛がる顔が可笑しすぎて、もっと摘まんでいたいのですが、このままでは何を言っているのか、サッパリ分かりませんので、まぁ、手を離してあげましょう。

「これは何ですか?」

「お肉! ふすん!」

 むっきー! 当たり前の事を聞くなとばかりに、鼻を鳴らして答えるではありませんか。

 マリのくせに!

「いいですか! 私は、何故、お肉が、こんなにも、美味しく、なったのか、それが、知りたいの、です!」

「お肉と、お塩?」

 小首をかしげて答える、マリの愛らしい仕草に、笑みがこぼれそうになりますが、甘やかす訳にはいきません。

「マリ!」

 マリを睨みつけてやりました。

「お肉と、お塩が、ちがうの!」

 マリは椅子から腰を浮かせ、テーブルをパタパタ両手で叩いて猛抗議です。

「ぷんすか!」

 頬をふくらませて、怒っているつもりなのでしょうが、可愛すぎます。

「お肉とお塩が違うだけ?」

 私がいぶかしげに尋ねたのにもかかわらず、マリは腕を組んで、満足そうにうなづいて答えます。

「うむ!」 

 何だか偉そうだ!

 まぁ良いでしょう。実際に作るところを見れば分かる事です。

「マリ、質問を替えます。この料理の材料はまだありますか?」

「ある。もう、いち枚やく?」

 マリの問い掛けに、私は、間髪入れずに答えます。

「三枚! です!」

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