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第八話:迷いと、決断と

真由理さんと別れたあと、僕はどうしようかと惑っていた。本来ならすぐにここから離れるべきなんだ。第一、この町に来る必要は一切なかった。なのに僕は、懐かしい空気に触れたくて、蘇芳君に会いたくて。

…僕はなんてほんとに馬鹿なんだろう。だから、こんなことになっている。

「あっ、ぐ…」

「どうした、機械。故郷にいて勘が鈍ったのか?」

僕は解放を乞うように首を左右に振ろうとする。でも、頭を掴まれて固定される。

「っ」

「大好きな蘇芳上総に会いたいか」

僕は眼を見開く。どうしてこの人が、蘇芳君のことを。まさか、

「す…お、くんに何か、した…の、」

首を絞められている苦しさの下、僕はどうにか声を発する。背中がコンクリートの壁に押し付けられ、骨が軋む。

「少し話をした。お前のことを知りたいかと訊いたら、あいつ、必死な顔で頷いてたな」

「……っ!」


「ほらほら、力を使いなよ。ほんとに死んじゃうよ?」

「んっ、ぐっ……」

僕がされるがままになっている理由、それはー、

「あぁそうか。力を使ったら“奴等”に居場所がバレてしまうものねぇ」

だからだ。今僕の首を絞めている人も脅威ではある。ただ、僕がほんとに恐れているのは“滅死人(シニガミ)”。“組織”にとって不要になった構成員を処分する役目を担った人々のことだけど、その“滅死人”に命を狙われ無事だった者はいないというのが通説で、僕は数人いる中でも二人の“滅死人”に眼を付けられている。七ヶ月前に蘇芳君の前から姿を眩ませたのはそれが理由だった。蘇芳君と会って“感情”を手に入れてしまった僕は、“組織”にとってただのお荷物になった。だから“組織”は僕を処分するべく、“滅死人”を送り込んできたんだけど、まさかそれが最強二人組というのは予想外で。

「っ、」

まずい、このままじゃ、死ぬ。でも“力”を使えば、恐らく近辺に潜伏しているあの二人に感づかれる。この町であの二人と戦いたくはなかった。どこの町でも住人を巻き込むのは嫌だしダメだけど、この町だけは…蘇芳君だけは巻き込みたくない。たとえそれが、僕自身のエゴのためだとしても。

…一体、何が間違いだったんだろう。




この町に来たのがそもそもの間違いだったように思う。蘇芳君と初めて口をきいたあの放課後、不良たちの呼ぶ声を無視しなかったのが間違いだったのか。……違う。生まれてきたことがそもそもの間違いだったんだ。色んな間違いを僕は起こしたけど、でも、でもどうしても…蘇芳君と出会ったことが間違いだとは思えなかった。僕に“感情”を与えたのは蘇芳君で、“感情”を与えられたから僕は用済みの烙印を押され、逃げ回る日々を送っている。“感情”なんて与えられなかったら、僕は………まだたくさんの命を摘んでいたんだろう。笑いもせず、泣きもせず、怒りもせず、無慈悲な一撃を見舞っていたのだろう。そっちの方が良かった?こんな、こそこそ逃げ回る生活より人殺しのままが良かったのかな。



「……ま、だ…しね、ない」

僕は決断する。首を掴んでいる手に、爪をたてる。でもそれだけでは退いてはくれない。僕は右足で相手の膝小僧を蹴り付けた。出来るだけ“力”は使わない方向で行きたいけれど、

「痛くも痒くもないね」

逆に足を取られ、ぐぎりと変な方向に捻られた。火を噴くような痛みが足首を駆け抜け、僕はくぐもった悲鳴を上げた。

「はんっ」

いい加減首を絞めるだけなことに飽きたのか、僕は解放された。何の前触れもなく唐突だったから受け身も何もない。無防備にお尻から落下してしまう。僕は足首に振れた。折れてはいないが、痛い。既に患部が熱を持ち始めている。首も痛い。

「っ、は、げほっ、ごほっ…、くはっ」

地面に蹲り喘ぐ僕を、相手は仰向けに押し倒すと、胸のあたりに遠慮なく足をのせた。勢いがあり、ひうっと掠れた声が漏れた。情けなさ過ぎる。

「…いっ、痛っ…」

「今のあんたじゃ、“力”出さないと私にも勝てないよ?」


僕は相手の足を掴む。掌に意識を集中させ、頭の中でマッチを擦って火を点ける様を強くイメージする。

「おっと、」

足から立ち上る煙に気付き、足が退けられる。急いで体勢を立て直し掴んていた箇所を見れば、火傷が出来ていた。もう少し下、地肌ではなく靴下を履いている場所を掴めば良かったと僕は後悔する。

「敵の心配をするなんて余裕だなっ!」

火傷も何のその、女の子は僕に突っ込んでくる。抜き身のナイフを上段に構えて。

「っ!!」

びゅうっ、と耳元でナイフを振られ、咄嗟に避ける。だけど完璧に、とは言えなかったようで頬に鋭い痛みが走った。

「はっ、はっ、はっ」

足首が痛い。触らなくても患部が激しく熱いのが分からる。女の子は、ナイフに付着した僕の血を舐め取った。にやぁ、と恍惚とした表情を浮かべる。

「…っ、」

もう“力”を使うしかないのか。僕は、どうしたら…良い?

「“力”を使って奴等に見つかるか、私に殺されるかお前には二つしか選択肢はないのさ」

ただの肉弾戦では、こちらには分が少ないのは分かっていた。でも、蘇芳君と過ごしたこの町を“滅死人”との戦闘で滅茶苦茶にはしたくない。

「早く決めろ。殺すぞ」

ナイフの切っ先が僕の心臓のあたりに方向を定める。僕は、決めなければならない。




蘇芳君なら、どうする?





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