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第十三話:それぞれの転換期

ちょっとあれな部分あり。マジでちょっとね(笑)

「あ、あんたかぁ。通り魔に刺されたっちゅう若者は」

「へ?」

同じ入院患者のお爺さんにそう声を掛けられたのは、俺が目を覚ましてから三日後のことだった。朝御飯を食べ、傷の痛みもなく手持ち無沙汰をもてあまし院内を徘徊していたのだ。

「俺?」

「いかにも」

腰を屈めた小柄なお爺さんだった。目は柔和に微笑んでいるが、どこか抜け目のなさを感じさせた。

「まぁ、そうらしいっすね」

通り魔に刺されたという実感のない俺は、そう言うしかない。するとお爺さんは興味深そうに俺を繁々と見てきた。奥二重の目が輝いて見えるのは俺の気のせいだろうか。

「ジュースでも飲まんかね?君に興味があるんじゃが」

「?」

俺に?興味?通り魔に狙われる人間に、ってことか?

「俺が通り魔に襲われた瞬間を聞きたいなら無駄ですよ?瞬間のこと、覚えてないんで」

それだけ言って、俺は病室に戻ろうとした。その俺の背に、お爺さんの声がかかる。

「お前さんの病室の前に、何回か同じ少年が来ていたことがあるよ」

「!?」

その言葉に、足が止まる。何で俺の病室を知っているのか、同じ少年とは誰なのか、そんな疑問は浮かばなかった。

「ふむ、」

お爺さんに歩み寄る。

「爺さん、何か知ってるのか!俺が刺されたことで、何かっ……!!」

切羽詰まった俺が矢継ぎ早に話しても、お爺さんは好好爺とした姿勢を崩さない。

「いや、主が刺されたことについては何も知らんよ。ただ、その少年は決して病室には入らんくてね。主とどういった関係か気になっただけじゃ」

「少年…?」

何だろう。頭がチクチクする。何か、大事なことを忘れているような。

「可愛らしい子じゃったよ。いつもおどおどした感じでね。主の病室の前に行っては、中に入るか否か迷って、結局入らんで哀しげに俯いて去っていくだけじゃった」

チクチク、チクチク。針で頭を刺されているような、感じ。ー蘇芳君に会えて、良かった………。

「っ!?」

何だ?今、誰かの声が聞こえた。誰、だ?

「……あさ、ぎ?」

ポロッ、と戦慄く(わななく)自分の口から、出たその単語。「浅葱!!」

思わずその名を叫ぶ。当然のように響いた声に入院患者も看護師も振り返る。だが俺にはそれどころじゃない。

「爺さん、あんた浅葱のこと知ってるのか!?」

相手がご老体ということも忘れて、俺はお爺さんに掴み掛かろうとした。だが、

「っ、」

通り魔に刺されたという傷のあたりに激痛が走り、片膝を付く。

「意気がるのも良いが、まだ完治はしとらんじゃろう?無理はいかんよ」

「っ、あんた一体、」

「まだ少し早かったようだな。……また顔を見せるから、今は傷の治療に専念するが良かろう」

爺さんは俺を置いて立ち去ろうとする。

「ま、てっ……!!」

浅葱の泣き顔が頭に浮かぶ。今も何処かで一人、泣いているかも知れない。俺の思い込みかも知れないが、俺を待っているかも知れない。だから目の前の爺さんが浅葱の何かを知っているのなら、何としても聞きたかった。なのに、

「蘇芳さん、何してるんですか!!」

担当の看護師さんが俺に気付いて駆け寄って来る。

「くそっ、」

俺は心中で親友の名を叫んだ。




「!」

蘇芳君に呼ばれた気がして、僕は顔を跳ね上げた。その拍子に、蘇芳君が入院している病院が目に入って、僕は胸の痛みにまた顔を伏せる。蘇芳君に会いたい。でも、会えば僕は居心地の良さに身動きが取れなくなりそうで怖い。それだけは駄目だ。ひとところに届まることは、今の僕にとっては死を意味する。それに何より、蘇芳君にこれ以上は迷惑を掛けたくないから。そう、思うのに。足は動いてくれない。会いたいという気持ちはますます強くなる。でも、どちらにしても会うことはできない。もう、この街を離れるべきだ。そう、頭では分かっているのに。

「おいお前」

「え?」

誰かに呼ばれて振り返った瞬間、自分の顔が強張るのを感じた。何故ならそこにいたのは、

「……久しぶりだな、浅葱」

「!」

中学生の時に同じ学校の生徒であり、度々蘇芳君と喧嘩をしていた、

「よ、吉川く、」

体が恐怖に固くなる。足を這い回る指の感触がありありと蘇ってきて、僕は吐き気に襲われる。

「相変わらずほっそいなぁ」

吉川君は下卑た笑みを浮かべて僕の腕を掴んで来た。お酒でも飲んでいるのか、酒臭い息が顔面にかかる。

「な、何でこんな時間に、」

「あぁ、俺学校行ってないから。プー太郎してます」

そしてゲラゲラと天に向かって笑う。

「は、放して……っ」

「んなつれないこと言うなよ。久しぶりに会ったんだー少し遊ぼうぜ」

僕の腕を掴んでいない方の手で、群衆の目前で僕の足に触れてきた。

「やだ、止めろっ!」

思わず叫び、吉川君の腕を振り払った。もう中学生の頃の僕とは違うことを知らしめなければ。そう思ったから。

「へぇ、中学んときは泣いてるだけだったのに、反抗的になったもんだな。力もついたみたいだし」

でも吉川君は怯むことなく、

「っ!!」

いきなり僕の前を握ってきた。痛みに前屈みになる僕の耳元に囁かれる。

「あの日みたいに俺と良いことしようぜ?」

「嫌だっ、」

じろじろと通りすがりの人達が僕達を不躾に見るけど、誰も僕を助けてくれそうにない。

「な、良いだろ?」

ぞわっと背中に悪寒が走り抜け、足元が覚束無くなる。

「嫌だって言ってるじゃないかっ……!!」

「照れるなよ、俺たちの仲じゃん」

腰に手が回ってきた。振りほどこうとしても、体に力が入らない。焦りと恐怖に支配された頭で、蘇芳君がいる病院を見上げる。助けて、と心の中で助けを呼ぶ。

「止めろよ」

だが助けは、蘇芳君によってではなく、見知らぬ人によって入った。

「い、いででででっ!」

涙の浮いた目で見れば、吉川君が制服を着た男子高校生によって腕を捻り上げられていた。眼鏡の下の冷めた瞳が、僕に逃げろと伝えている。

「あ、あの」

「早く行きなよ。また襲われるよ」

僕はは、はいっと頷き、高校生さんに礼をして、駆け出した。とにかく今は吉川君から離れる。それしか頭になかった。




「行った、かな」

珠洲村朔(すずむらさく)は、小さくなる背中を最後まで追わずに酒臭い同い年くらいの私服姿の少年を解放した。

「っ、てめぇ何しやがる!!」

少年の怒声に通りすがりが顔を向けてくる。だが朔はそんな注視には目もくれずに、立ち去ろうとする。

「おいお前、人の話を聞いてるのかよ!!」

吉川が朔の肩をぐいっと掴んで来た。朔の顔には一切の色がない。温度のない瞳で吉川を見上げ、

「死にたいなら冥土の土産に聞いてやる」

とはっきりした口調で言い切った。吉川がギクッ、とひきつるほど朔は不気味だった。細身の体から危ない何かが立ち上っているかのように思え、吉川はそれ以上突っ掛かる気にはなれなかった。

「……必要がないなら失礼する」

「………はい」

丁寧な返事で朔を見送る吉川だった。




歩きながら、朔は思う。

(あれが浅葱空良か。人相もあの方からの情報と一致する……)

まさか出会いが変態からの救助になるとは。因果な巡り合わせに、朔はその整った顔に微かな苦笑を浮かべた。





ね、ちょっとでしたよね?(笑)

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