プリミティブアース
「オレは、確か事故にあったんだよな。」
「どこか別の場所だと思っていたが、一体どうしてこうなってんだ。」
「見渡す限りマグマの海と岩石の大陸ばかりだ。」
「地獄なら俺以外の人間がいてもおかしくないはずだが。」
ふと昨日の授業で何気なく目を当てていた45億年前の地球のイラストが眼に浮かぶ。
「この海と空と、まるでそっくりだ。もしかして今オレは原始地球にいるのか?何十億年前にタイムスリップしたのか?」
「一日中探したが自分以外の誰かにはまだ会っていない。薄々感じてはいたが、たった一人で永遠にこの場所で生きていくことになるのかもしれない...」
次第に暗くなってきた。太陽が沈んでゆき、雲海が光を受けて輝き始める。遂には太陽が点になって断末魔のように光を放つ。
ドン!ドロロロダダン!
今日は何月だろう。ここにきて6ヶ月ほどの長い月日が経つ。
時々雷が落ちたり火山の噴火が起きるだけで、あとは果てし無く降り注ぐ雨の音。やはり永遠にこのままらしい。最初は太陽を追って上空で暮らしていたがあまりにも虚しく次第に追うのをやめた。崖から飛び降りたり、舌を噛み切ったりと様々なことは試したが、まるで死ぬ気配がない。それどころか、傷ひとつつかない。
寂しい雨の中、一人で水蒸気を出す黒い大地の上に座り込んだ。足元には煮えたぎるマグマの海が誘うように揺れる。
赤く妖しい光。
「.....」
手をマグマの中に入れ、少しだけすくってみた。すぐに冷えて岩になってしまう。今度は急いですくって、しきり顔に当てて飲み込んだ。
「あはあはははっははっ!」
特にこれといって味もしなければ、熱くもない。なんだかよくわからない温かいものをガバガバと飲んだ。
早くも彼は心を保つことができなくなってしまっていた。
マグマの中に頭を突っ込み、飲めるだけ飲んだ。遂にはマグマに全身を入れていた。
すかさずマグマの中へと潜る。岩盤を越えると潜りは瞬く間に速くなり周りはより一層白くなってゆく。
数時間後、ハジメは潜るのをやめた。目で見えるものなどもう何もない。耳をすませると、深く心地の良い流れの音だけが聞こえてくる。地表から6000km以上離れた地球の中心部である。
力尽きたように小さくなると、数億年もの永い眠りに落ちていくのであった。