青い車
もう1時を過ぎた頃だ。赤信号の点滅が頬を照らす。聞こえるのは反響する靴の音だけ。この街に一人しかいないような心持ちだ。
ーバコオォォオォォォオ,,,キリキリリリ
遠くから猛スピードで走る車の音が聞こえてきた。
どんどん大きくなる。車はただならぬ気配を発しながら細い路地に潜り込むと、とうとうこの道に飛び込んできた。
思わず振り向く。あろうことか、車はすぐ後ろまできていた。逃れようと必死になった。だが、車はものすごい力で私をガードレールに叩き付けた。。。
キャスター「深夜〇〇市〇〇町にて車が歩行者を跳ねる事故がありました。この事故で 野上 一さん(22)が亡くなりました。車に乗っていた容疑者と思われる男性もすでに死亡しており、警察は事件の経緯などを…」
唐突な力で跳ね飛ばされ、すぐにまいってしまった。意識が遠のいてゆく。
「この感覚はなんだろう。落ちているのか?
そうだ。無限に落ちている。白い世界を落ちている。前も後ろも見えず、狭い隙間を高速で進んでいる。
「それにしても長いな。5分も経ってるじゃんか。やっぱ死んだのかな。おれ…」
「で、そんなのをやっていたのが小一時間前の話だ。」
足元はマグマの海で、空はあいにくなご様子で雷まで落ちている。
地表が見えてきて初めて降り立った時は「これが地獄ってものか!?大変だ!まずい!」と思ったが以外にも熱さは感じず、体調などもむしろ今までよりもすこぶる良い。特に腹も減らないし。まるで何かに包まれて「保護」されているみたいだ。マグマの上を歩けるし中に入っていくことも出来る。そして空を移動してかなりの上空までも行ける。
初めてマグマの中に入った時や雲の中で雷に打たれた時はかなり焦ったが、どうにか慣れてきた。
それからしばらく泳いだり飛び回ったりしたが、相変わらずどこまでも曇り空が続くから、いっそ雲を越える事にした。
荒れ狂う雲の中をさーっと移動していると、急にあたりは開けて夜空には満遍なく散りばめられた星々が瞬いていた。
「は!・・・」
その美しさに思わず声が出た。そしてこんなところで独り言を言ってしまい、我に返る。
しばらく夜空を見つめていたが、何気なく下方に目をやると雲の上に小さな自分の影がポツリと落ちていた。そして後ろから強烈な光に照らされていることに気づく。
振り返るとそこには未だかつて見たことのないほど大きな月が恐ろしく白く輝いていた。
普段はあまり見ることのないクレーターや表面の質感。
「ここは地球なのか・・・」
げんし
1話:青い車
終