三
「アウィンがいいって言うなら、これでいいんじゃない? とても似合ってるよ、アウィン可愛い」
「あ、ありがとう……えっと、パトリシアさん」
「さんはいらない。パトリシアでも他の呼び方でもいいけど、堅苦しいのはいいよ」
「私も、呼び捨てでいいわ。これからは一緒に暮らしていくんだし、改まった口調もいらない」
ブリジットもパトリシアも、好きな愛称で呼んで、とニコッと笑ってくれた。
私は気恥ずかしくて、下を向いた。
前の人生で、こんな風に笑いかけてくれた同年代の女の子はいなかったから。
ーーーー嬉しい。
誰かに笑いかけてもらえることが、こんなにも嬉しいものだったなんて、知らなかった。
「じゃあ、次は髪ね」
ブリジットは私を化粧台の前に座らせ、ヘアブラシで髪を梳かしてくれた。
「結ってもいいし、綺麗な色をしているからそのままでもいいわね。どんな風にしたい?」
髪を梳かしてくれるブリジットの手つきは、どこまでも優しい。
鏡の前で少し悩み、そのままでいいと伝えた。
丁寧に梳かしてくれたお陰で、明るい空色の髪はさらさら艶々だ。
「このままもいいけれど、少し寂しいから……これなんてどうかしら?」
ブリジットは髪と同じ空色の髪飾りをつけてくれた。
大きめの花飾りに付いた硝子玉に、同色の飾り蓋が提げられたデザインの髪飾りだ。
「!……可愛い」
「やっと笑った」
「え?」
「会った時から、全然笑わないんだもの」
せっかく美人なのに、と笑うブリジット。
「さぁ、終わったわ」
「ありがとう……リ、リジー」
その美しい黄玉の瞳を瞬かせたのは一瞬で、ブリジットはすぐ笑い返してくれた。
「むぅ」
「え?」
「何むくれてるのよ。トリシャ」
「リジーだけずるい。私もアウィンに名前呼んでもらいたい」
「えっと……」
パトリシア。パトリシア…………。
「……パルト。パルトって、呼んでもいい?」
「うん!」
パトリシアは一瞬で顔を明るくして、嬉しそうにはにかんだ。
私も嬉しくなって……いつの間にか、三人で笑っていた。