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VRMMOにまつわるお話  作者: 猿野譲二
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第二話

 ユート、ユイの二人が樹上に避難して、そろそろニ十分が経過しようかと言うところ。

 イノシシは二人を樹上に追いやった時点で満足してどこかへ行ってしまったのだが、代わりに三頭のオオカミが集まってきて二人の真下をグルグル回り始めた。降りた途端に戦闘になるというのは考えるまでもない。二人はやむなくインターネットの力を借りることとなった。

 完全に外部と接続をシャットアウトするのはまずいということなのか、バーチャリアはゲームプレイ中も事前に登録した端末を遠隔操作、情報交換ができ、内臓のブラウザを動かすこともできる。各所の掲示板、攻略wikiを見て、この状態を打開する術を探し求める。


 一通りネット上の情報を見て分かったのは、近接戦闘装備を選んだ二人が馬鹿だった、と言うことだった。いくらアバターのそこそこ強靭な肉体を手に入れたとしても、中身がインドアゲーマーでは、野獣に肉弾戦を挑むなど土台無理な話。

ブレイブブレイドオンライン全体の傾向としても近接戦闘型の装備はほぼ絶滅状態にあり、海外では略称のBBOをもじって『Bullet Bow Only』などと揶揄されているらしかった。

「掲示板での救助要請はどう?」

「こんな感じ」

ユイがホロウィンドウをずらしてユートにも見やすいようにする。

事情を説明して助言を乞うたところ、『なんで下調べもしてねーんだカス』的な返答から『勉強と思って一度食われとけ。古参はみんな通った道だ』というアドバイスまで。安全に事態を打開する手法は見当たらないようだった。

挙句『目をつぶって耳をふさいだ方が良いな』『地面に寝転がった方が良い。すぐに楽にしてもらえる』『木の高さによっちゃ頭から落ちるのがお勧め』などと「楽な死に方」についての議論が発生する始末。事情を知らない人が見たら自殺掲示板と勘違いしそうだ。


 ……が、


『 0889 : フル名無しゲーマー 20XX/03/17 (水) 12:52 ID:fharehjkji

初期装備だとインベントリの中にライトがある。近くに人がいるようならそっちに向けてSOSのモールスを送ってみると良い。古参は大体理解してくれる』

 という書き込みがされた。

「だそうよ。モールスって知ってる?」

「SOSだけなら」

 システムウィンドウ→リュックと進んで、『魔力灯』と書かれたアイテムをオブジェクト化させる。レトロなデザインだが、見た目は完全に懐中電灯。

スイッチらしきつまみをいじると、ボッとガスに火が付くような音がして点灯した。別のつまみで光量調節。ろうそくのような小さな明かりから太陽のような目のくらむ光まで。

『 0890 : 誰か助けて 20XX/03/17 (水) 12:55 ID:rjljl2jgla

  ご助言感謝いたしますm(__)m。           』

 とユイに返答させてから、早速SOS送信を試みる。

「……近くっつったって、一番近いのあの人たちだけど通じるかな」

 とりあえず光量中程度で試してみる。機敏にオンオフができる代物ではないので、発光部の前で手をパタパタと動かす。

 なかなか通じる様子がないので光を大きくしていくと、70%あたりで反応があった。

 返されたのは「了解」を示すモールスだが、二人にそんなものを理解できるわけもない。ただ応答してもらえたのは分かったので、見えるわけもないだろうにペコペコと頭を下げて謝意を示す。


 直後、バスッバン! という半ば重なった二音が叩きつけられた。


 見下ろすと、オオカミが一頭後ろ足を失くして悶えていた。

 バスッバンバスッバンと音は続き、更に二頭がダメージエフェクトに胸部を貫かれて息絶える。

 足に加えて仲間まで失ってしまった最後のオオカミは、四度目の音と同時に絶命した。






 少し時間をさかのぼって。

 兄妹が悲鳴を上げている場所から東に離れた地点、外見年齢40ほどの大柄な男性アバターを使うカズノリは、友人の銃の試し撃ちに、スポッターとして付き合っていた。

 単眼鏡の視界に映るイノシシが、友人が発射した銃弾に頭部を撃ち抜かれて四散した。足を止めていたとはいえ、イノシシまでの距離は400mをくだらない。アバターの捜査に関するアシストがほぼないBBOでこの距離の初弾命中はかなりの腕前。

「ヘッドショットだ。凄いじゃないか」

「銃が良いんですよ。レーザーみたいな弾道です」

 友人は退屈そうにそう言った。謙遜ではなく、実際にそう思っているのだろう。

 彼女の名前はトーカ。黒い髪にぱっちりとした黒い瞳、顔立ちがかなり幼げな、中学生程度と見える容姿のアバターを使っている。以前口を滑らせたところによると、リアルの年齢もそのぐらいらしい。

 そんなトーカが地面に伏せて構えているのは、全長1.2mにもなるボルトアクションライフル。カズノリが所有する銃だが、彼女にも試しに使ってみてもらっている。

ストック形状はAICSのサムホール型に酷似し、対応弾薬はリアルだと.300ウィンチェスターマグナムに当たるだろう高威力の代物。多少値は張るが、彼女が評したように直線的な弾道は遠距離狙撃にもってこい。

 もっともその優れた弾道特性も、百分の一度のブレすら生じさせない精密な身体操作があってこそ活かされる。狙撃の肝はいかに体を静めるかの一点のみ。

 カズノリがかつて上官に怒鳴られながら死ぬ気で体得した神業に、この少女は趣味娯楽レベルの労力で達していた。教える側としては嬉しいような悲しいような。

 少女はそんなカズノリの心境など知る由もなく、同類の死に驚いて逃走しようとしたイノシシ二頭を四発で仕留めた後、

「この銃重すぎますよ」

 と文句を言った。

「重いし長いしボルトアクションだから遅いし、趣味に合いません」

 ボロクソだった。

 リアルでさんざん世話になった銃とほぼ同一の形状であるから、教え子にもぜひ愛用してもらいたかったのだが、気に入ってもらえなかったようだ。

 彼女の趣味は、200m以内の動的な戦闘に向いている取り回しがよくて速く撃てる銃。カズノリが預かっているレバーアクションライフルのような。

「ところでカズノリさん」

 トーカは話題を切り替えた。

「なんだ?」

「まだコメントもらえてないですけど、この服どう思いますか?」

 と言ってトーカは立ち上がり、両手を広げて見せる。

 下半身はミリタリーブーツにホットパンツ、上半身はチューブトップの上にベストを着ている。各関節にはサポーターをつけていたが、カズノリの感覚からすると手足の防御が足りない。

「身軽が好きなのはわかるが、さすがに露出が多すぎじゃないか?」

「……まぁ、そうですよね」

 よほど機嫌を損ねたらしい。

ため息をついたトーカは、ボルトアクションをカズノリに突っ返し、自分のレバーアクションをぶんどった。

「何で怒ってるんだ?」

「怒ってません」

「いや怒ってるよ」

「怒ってません!」

 ダメだ、こうなってしまった女性に話を聞いてもらうのは無理だ。40年を少し超えた人生経験がカズノリに助言する。

 肩を怒らせてのしのしと歩いていくトーカの後ろを、カズノリは少し小さくなりながらついていく。

 と、しばらく歩いたところで、

「……あれ、なんです?」

 足を止めたトーカが指さしたのは、150mほど北東にポツンと生えている、樹高5mほどの広葉樹。こんもりと茂った葉の中で、魔力灯の明かりが点滅していた。

 よく見ればその点滅には規則性がある。

「SOSだな」

「オオカミが三頭根元をうろついてますね。追い詰められたんでしょうか?」

「だろうな」

「なるほど」

 まだ機嫌が直っていないトーカは大きく音を立ててレバーを動かし、その場に座ってオオカミを狙う。

「おいおいこの距離は……」

「このぐらい外しませんよ」

「いやそこは疑ってないけど、初心者っぽいし加減しないとビビられ――」

 カズノリの言葉を最後まで聞かず、トーカは攻撃を始めてしまった。

立て続けに三発、一頭につき一発ずつを速やかにたたき込む。少し間をあけて、一発目で急所を外してしまった一頭にとどめを刺した。


 十秒もかからなかった。


 救援を求めていたはずの樹上の二人組が、トーカに対して激しく怯えていたことは言うまでもない。


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