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VIT15。これは持久力である。一般エルフの持久力だ。そして同時にHPの数値でもある。
「うわああぁぁぁああん!!」
「ひぐっ、ふぐっ!あああ!」
キリングベアーはボスであり、怒り状態はSTRを上げて、INTとDEFを下げる。
そして、一般人のHPでSTR高めのボスに威力が上がった。
要するに、怒ったクマに一般人がやられると、ほぼ一撃死オーバーキルという事です。
「使いたかったよぉぉおお!」
涙で外套がぐしゃぐしゃになっちゃった。装備から外す。
「この悲しみは、濃縮ポーション《特》を作って忘れよう」
もう既に普通のポーション11本、ハチミツ入ポーション(濃縮)10本、ハチミツ入ヒーリングエッセンス7本、素材としてハチミツ入ポーション(濃縮)6本が出来ている。薬草は別れた分しか残ってない。
作成と合成、同時に発動させてスキップ。
ボフンッ!
スキップ失敗により、劣化ポーションになりました。
鑑定
劣化ポーション(ランクD)
劣化したポーション。ポーションと名乗るのもおこがましいHP1%回復というポーションの面汚し。(効果1回、インターバル1時間)
「ウワァァァン!!」
心が折れて考えなしに町に繰り出した。
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しばらく土煙を上げて走っていたら、見たことが無い所に居た。東区みたいだけど、南東に自分の店があるから難なく戻れそう。
階段に腰掛け、すすり泣く。本当に使いたかったな。
ふと、誰かに顔をのぞき込まれた。
「あら、カワイイ子。どうしたの?怖いモンスターでも見たの?」
「ヒッグ、ヒグッ、ち、ぢがいまず」
「とにかく可愛い顔が台無しだからウチの店にいらっしゃい?」
ぼーっとしたままその人について行った。
長い艶のある黒髪、雪のように白い肌の綺麗な人だった。作り物めいた美しさと服が落ち着く雰囲気を纏った、見てるだけで安心する人だった。
「ココが私の店、《アラクネの糸》よ」
明るい緑の看板にカラフルな屋根。見る人を楽しませる店だった。
「おねーさん、機嫌いいから洋服1着プレゼントしちゃうわ。だから泣き止んで、ね?どんなのがいいかしら?」
「ぐすっ、HPかDEFに補正が付くの」
「それだとコレがオススメね、更衣室で着替えてみてね♪」
更衣室に入れられて渡されたのは黄緑色のローブっぽい服だ。上から下に色が濃くなっていき、ところどころにある黄色い点が草原に咲く花のようだ。でも少し裾が短く、逆に胴部分の長さが短くて太ももが見える。袖も長くて手がギリギリ出ない。おねーさんに言ってもそういうデザインよと言われた。恥ずかしいけど、1回は着ないとおねーさんの顔に泥を塗ることになる。
「ど、どうですか?やっぱり変ですよね、すぐ着替えます」
「それを着替えるなんてとんでもない。そこまで似合うなんて才能よ。とてもカワイイわよ」
「そんな事言われても………」
男なんだから嬉しくない。
凄い恥ずかしい、今すぐ火が出そうだ。
「それにそこら辺にある装備より頭一つ出てるものよ?間違いなく役に立つわ」
鑑定
森の安らぎ(ローブ)(ランクC)
着衣条件、STR10以上、VIT15以上、レベル50以下
HP:+(VIT値分)
DEF:+(DEF×1/2)
丹精込めて作られたローブ。森に居ると気配察知や気配薄化が補正される。また、HPが30%以下の時、1度だけHPを回復させる(HP+20)。
すごすぎるよ。効果がすごすぎるよ。HPが初期値でも30になるよ?序盤はせいぜい+5ぐらいだよね?
「でも、こんな良いもの貰えませんよ」
「大丈夫よ、案外儲かっているから。伊達にβから服屋やってないわ。鎧には防御力負けるけど軽いから人気あるのよ?」
「でも・・・」
「なら、いつか何かで返してちょうだい?プレイヤーは助け合いよ。その時は泣かずにね?」
「は、はい」
花が周りに幻視出来るほどニッコリと微笑む彼女を直視出来ずにレジの方を見る。と、何か人形が置かれてる。
「あの人形なんですか?」
「あれは袋さんっていうプレイヤーさんよ。マスコットキャラみたいって話で盛り上がったから作ってみたの」
袋さん?何処かで見たような?なんかカワイイ。
「あげるわ。大事にしてね」
「いや、これ以上は」
「私が貰って欲しいの。袋さんが好きな人が増えたら嬉しいもの」
「………ありがとうございます。そういえば、名前もまだ聞いてないですけど良ければフレンドになって貰えませんか?」
「ええ、勿論いいわよ」
彼女はシーフィアさんだ。
出会ってよかった、ささくれだった心が癒された。
「またね」
「また」
別れた後、にやにやが止まらなかった。少し恥ずかしいが、いい装備が貰えたから機嫌がいい。思わず口笛を吹いてしまう。
「〜♪」
「あ、いた!是非ウチのギルドに!」
「きゅ、弓姫様、オレのギルドに!」
「てめぇ!俺が誘おうと思ってたのに」
………いつものフードがある外套じゃないからバレてしまった。
ダッシュで逃げる!三十六系逃げるが勝ち!
一瞬で消えた僕は店で黙々と濃縮ポーション(特)を作ることにした。袋さん人形は小物入れの上に置くことにした。カワイイ。
ポンポン出来る。なんかシーフィアさんに会ってから調子がいい。シーフィアさんは僕の幸運の女神だったのか。
そして失敗した以外の濃縮ポーション《特》が出来た。とてもいい。もう凄い。
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「ふー、外の空気でも吸ってって暗ぁい!?」
ニューパラには夜の時間がある。リアルと連動して午後9時~午前4時の少し短い時間暗くて、モンスターも強化されたり、行動パターンが変わったりする。
要するに今、リアルで9時以降になっているんだ!9時になってもやってるなんてバレたらやばいよ!
WARNING!
後1分で連続12時間起動になります。強制終了されるとデータは残りません。急いでホームでログアウトして下さい。
まるで読んだかのようなタイミングで警告音が鳴り響く。AGLをフルに活用してホームのベッドに寝っ転がる。ログアウト!
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目が覚めると何故か自分の家にいた。そして目の前には、
「御使い〜?12時まで半日ゲーム三昧とかいいご身分ね〜。お母さん思わず笑っちゃうわ〜、うふ、うふふふふ」
「ご、ごめんなさいぃ」
この後に般若とか見えそうなオーラで笑ってるのが天野天気、嫁入りで名前がおかしくなったけど、僕のお母さんです。
「み・つ・か・い?なにか失礼な事考えなかった?」
「イイエ、ナニモ、カンガエテナイデスヨ」
普段は優しくて頼りになるお母さんだけど、怒ると超怖い。
何故か思考が読まれるから。
「はっはっは!御使いはハマったか!やっぱり人数分買ってせいか「あなた、お小遣いカット二週間伸ばしますよ?」ごめんなさい!」
今怒られたのが天野翼、僕のお父さん。おっちょこちょいで、お調子者で、子供っぽい、というかまんま子供って感じの人。
「遊ぶなとは言わないけど普段は長くて4時間にしなさい。あと長時間遊ぶイベントがあるなら一言言うかメモして置くこと。わかったわね?」
「はい、でも今日みたいにアラーム聞き逃すかも・・・」
「聞き逃したらやってた時間分お母さんと2人っきりでオハナシしましょう?」
「もう通知聞き逃さないよ!?」
お母さんは肉体は傷つけないけど、精神が疲労で顔が真っ青になる。無理だよそんなの。
「明日学校で緋色君にお礼言いなさいよ?貴方をおぶって連れて来てくれたわよ?」
「あーうん分かった」
いつの間にか家にいるからビックリしたけど、そういうことね。
「さっさとトイレ行ってご飯食べて寝なさい」
「はーい」
流石に12時間も飲まず食わずはきつい。深夜だけどガッツリ食べた。そして夢を見ないくらいぐっすり眠った。