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すれ違い  作者: 上智幸長
6/7

新たな証言

「ピピッピピッピピッピピッ」


目覚まし時計が静寂な部屋の中に

音高く、一定のリズムで鳴り始めた。


別に自分から止めようとは思わなかった。


1分経てばどうせ自ら止まるからだ。


今日は武島の葬式だった。


残っている謎はあるが今日、この日、武島の死を認めなければならない。


ああ、武島に会いたい。

会ってもう一度だけ話がしたい。


音高い目覚ましの音など耳にもくれず、上智は思った。





上智は歩いて葬式が行われる、式場に向かうことにした。


深い理由はない。


距離は結構あるが、そうした。

いや、そうしたかったのだ。


自動車で時間を掛けずに移動をしてもいいのだが、

ゆっくり時間を掛けて行きたかった。


その方が時間を大切に、過ごせそうな気がした。


独りで歩く並木道


その街道から外れた細道

そこを行くと、大きな国道に出る。


その国道沿いにしばらく歩くと、


葬式場が見えてくる。


途中、イチョウの葉を手で弄んでいると、野良猫が足に身体をこすりつけてきた。


しばらくの間、その猫が喜びそうな事をしてやると猫はふと何かを思い出したようにゆっくりと上智とは反対の方向に、進んで行った。


それから音楽を聞き始め、再び歩を再開させた。






駐車場にはもう、

何台かの車が止まっていた。


自分の家の車を探すが、

まだ、

そこには止まっていなかった。


上智は少しためらったが、

思いきって中に入ることにした。


足を踏み入れるとそこはまるで別世界だった。


悲しげな音楽が流れ、

身内や、親しかった人などは全員泣いていた。


空気が重く歪んでいた。


ふと上智の目からも涙がつたって床に落ちた。


あぁ、ふと何度目の涙だろう?

と思った。


武島だけに一体いくら涙をこぼしたんだろう?


そんな問いかけを頭に思い浮かべても、

勿論答えなど返ってくるはずもなかった。



来ていたクラスメートの中にはテニス部はテニス部で

固まっている場所があった。


上智は涙をぬぐいその場所に駆け足で向かった。


近づいてみると泣いていた先輩が

多かったのが、

分かった。


未だに、声をあげて泣く先輩、

ぐっと涙をこらえる先輩、


武島は本当に皆に好かれていたというのが改めて分かった気がした。


勿論、テニス部一年も全員いた。


やはり、皆泣いていた。


いや、違う。


立花だけはぐっと涙をこらえていた。


立花のプライドなのだろう。


泣かない理由を僕は勝手にそう決めつけた。


お坊さんが来る前に、もう上智達はこらえきれなくなり、

テニス部一年は葬式場を後にした。


決して武島を嫌ってた訳ではない。


皆、耐えきれ無かったのだ。


武島の死を、

死を認めることを先延ばしにしたかったのだ。



それからいくら歩いただろうか?


僕らは意識のモウロウとした中、ひたすら自分の行くべき場所に向かって行った。


誰、1人針路を変えない。


無言で、誰かが口を開くのを待っていた。

でも、誰も口を開かなかった。








結局、僕らが行き着いたのは僕らの慣れ親しんだ場所。


皆で汗水流して素振りをした、

6人で、

部活を行ったテニスコートだった。


顧問の許可無しに、

勝手にテニスコートを使用したら怒られるのは皆承知していたはずだ。


でも、誰一人として、ためらう事無くラケットのグリップを握り、

テニスプレイヤーとして、コートに立った。









解散したのはそれから2時間が過ぎた頃だった。


その2時間、誰もが口を開かなかった訳ではない。


だが、誰かが口を開いて言葉を発すれば、他の誰かが事務処理の様な

対応をし、結局話が弾む事など無かった。


まだ、家に帰るには早すぎたので、

上智は立花に、もう一度あの

光創公園に行かないか?と誘った


だが、立花は塾があるからと、誘いを断った。









「幸長、俺、聞いてたんだ。

実は、あの日あの時間帯、

武島が誰かと口論をしていた所を。

犯人扱いされたくなくて黙ってたけど、幸長が独自で、捜査しているって聞いて、少しは役に立てたらと思って。」


上智が、そう聞いたのは自転車置き場から自分のチャリを引っ張り出そうとした時だった。


その時耳は、「聴く」作業をサボっていたので、最初に聴いた時は「ふーん」

と受け流した程度だったが、その言葉が脳に入ってくると、「えっ!」

という反応に変わった。


声の主を確かめるよりも先に、

やっぱり武島は自殺なんかじゃ無い。

殺されたんだ。

自分の推理が、正しかった事に安堵した。


脳内の整理がつくと、次にようやく目で声の主を確認する事ができた。


ちょっとマヌケそうな顔。


それでも、部活のウインドブレーカーを着れば、テニス部だと分かる風格はそれとなしに出ていた。


川口だった。


「ちょっと待て、お前、その口論どこで、聞いたんだ?」


「何処って...公園の入口で...

暗くて誰かは分からなかったけど。」


川口は曖昧に答えた。


その曖昧な返事に僕は容赦しなかった。


「いいから、お前時間あるか?」


「ゴメン...今から、ちょっと用事が」


僕はその用事については詮索しなかった。


塾とハッキリ分かるものならハッキリ塾があると言えばいいし、

そこの用事をぼやかすという事はあまり、詮索されたくない事なんだろうと思ったからだ。


「なら、せめて、話だけ」


僕は仕方なしに一歩譲った。


「ああ、少しの間ならいいけど」


川口のその返事に僕は小さくガッツポーズをした。


事件の真相に一歩近づける。


絶対に、犯人を暴いてやる。


絶対に!。






















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