「ジャックと豆の木」前編
-CAST-
ジャック――新井山拓史
お母さん――篠原未央
老人――マスター
巨人――国崎聖悟
巨人の妻――高宮麗奈
金の鶏――斎藤宏樹
ハープ――本城那津
ナレーター――天の(ry
「やっりい、俺役なしー♪じゃあなー、みんな頑張れよ!」
「あ、俺もですね。すいません、休憩頂きます。」
「え、何これ。今から何が始まるの?」
「あれ、拓史、久しぶりー。劇だよ、劇。今回はお前が主役だって。」
「聞いてないし、面倒くさ…。ていうか、本編で出番なかった俺が出ていいの?」
「出番のこと言うなら、オジサンだってどっこいどっこいよ?うわー劇なんてン十年ぶりだなあ。」
「いいじゃん、マスターさん、だっけ?その髭とか『老人』役ぴったり。」
「そう?じゃー頑張っちゃおうかな!」
「それはいいんだけどさ…ちょっと俺たちの役、無理矢理すぎない?ナツちゃんなんてとうとう無機物じゃない。ねえ、ナツちゃん?」
「………。」
「…ナツちゃん?」
「ん?…ああ、なんでもない。さ、行こうか。」
*********
どうも、こんにちは。
本日も当劇場にお越しくださいまして、以下同文。
今回は新たなキャラクター二人も交えまして、童話劇『ジャックと豆の木』を始めさせていただきます。
むかしむかし。
ジャックという名前の男の子が母親と二人で暮らしていました。
ジャックは家に一頭だけいるウシの乳をしぼって、それを街に売りに行くことで家の生計を立てていましたが、その雌牛も老いて乳を出さなくなりました。
「こうなったら仕方ないわね。ジャック、ウシを街に行って売ってきなさい。」
「はいはい、分かったよ母さん。」
母親にそう言われ、ジャックは雌牛を引いて歩き出しました。
すると道中、髭の老人にばったりと出くわしたので、
ジャックは歩みを止めて、やたら不審な老人を見ました。
「ちょっと、不審ってなによ、不審ってー!」
そういうところですよ、ご老人。
字面だけ見てればオカマにしか見えませんから、貴方。
せっかくの初登場です、ちゃんとキメてくださいよ…
ジャックもいきなり現れた不審者に、呆れ顔を作ります。
しかし、しばらくして道を塞ぐ老人に話しかけました。
「―何の用なの、おじいさん。」
「そうそう。少年、そのウシを売りに行くの?」
「そうだよ。高値で売れると思ってね。」
「高値?」
老人はぴくりと眉を上げ、いぶかしげにウシを覗きます。
それはそうでしょう。このようなくたびれたウシにどうして高値が……って、あれ?
こんなこと、台本に書いてありましたっけ?
「見たところ、老いた雌牛にしか見えないけど…」
「そうだね。こいつ自身に価値はないよ。…でも実はさ、こいつ昔、ダイヤモンドを飲んだんだ。」
「!?な、なんだって!?」
びっくりして目ん玉をひんむく老人。
いやいやいや!
そんなオイシイ付加ストーリーはないはずですよ!?
「で、でも…それならダイヤモンドそのものを…」
「そりゃ、ダイヤモンドを取り出してそのまま売った方がいいにきまってるよ。でも僕たちにはウシを解体する道具や技術がないからさ、仕方なくこいつを売りに行くってワケ。」
若干食い気味におじいさんの発言を遮り、話を続けるジャック。
その発言には全く淀みありません。
まるで最初から用意された台詞のように……
…!ジャック、貴方、まさか…
「おじいさん、よかったらこいつ、買わない?」
ジャックは、少年らしからぬ笑みを浮かべ、おじいさんに商談をもちかけました。
おじいさんはウシとジャックを見比べ、ううむ、と唸ります。
ペ、ペテンです…!
ペテン師ジャックがここにいますよ、皆さん!
のっけからこんなダークヒーローでいいんですか!?
子どもが泣いて親が怒り狂いますよ、このジャックは!
「そうだなあ、そのウシはすごく欲しいんだが…あいにく今、現金は持ってなくてね…」
「ああそう、じゃあいいや。バイバイおじいさん。」
「いや、待て待て!何も交換するものがないとは言ってないだろう!ほら、これをやろう!」
「……何これ。豆?」
ジャックは差しだされた袋の中身を見て、首をかしげます。
老人から渡されたものは、何処からどう見ても何のへんてつもない豆にしか見えません。
ジャックは顔をあげ、再度老人に問いかけます。
「なんだよ、こんなもの、ダイヤモンドと交換できるわけないだろ。」
「いいから話を聞きなさい。これはな、ただの豆じゃないんだ。―幸運を呼ぶ魔法の豆なんだよ。」
「魔法の、豆?」
老人は語ります。
曰く、これは不思議な力を持つ豆で、持つものは幸福になれるだとか。
ダイヤモンドとは比べ物にならないくらい貴重なものだとか。
「…セ●ズ?」
…それは言ってはダメですよ、ジャック。
しかも違いますし。確かにダイヤモンドよりは貴重でしょうが。
「だからさ、この豆とそのウシを交換してくれないかい?」
「…まあいいよ。交換しよう。」
「本当かい!?ありがとう!」
喜び勇む老人。
ジャックは老人の言うことに承諾し、雌牛と豆の袋を交換しました。
こうしてジャックは豆の袋を得て帰路についたわけですが……
「ま、もしこれが偽物でも、今度は僕がこの『魔法の豆』を高値で売ればいい話だし。」
嘘は得意なんだよね、と笑うジャック。
…なんか嫌だ。怖いこの子。
すいません、私もうやめたいんですけど、この仕事。
ダメですか?
…あ、ダメですか。
そうですか……はあ。
――
「何ですって!?ジャック、あんたウシとこのちっぽけな豆を交換したって言うの!?」
「そうだよ、母さん。…そう怒鳴らなくてもいいじゃないか。」
「怒鳴るわよ!あんた、馬鹿じゃないの!?こんな物と交換するなんて!」
「無駄遣いは母さんの方じゃないか。この間も高い化粧品こっそり買ったの、知ってるよ。」
「おだまり!必需品だから仕方ないじゃないの!」
小さな家の中で、激しい言葉の応酬が飛び交います。
それがまあ、醜い。
特にお母さんの方は鬼婆みたいな顔で叫んでいます。
「うるさい!誰が鬼婆よ!」
「事実だよ、母さん。」
「ジャックは黙りなさい!それにしても何よ、この豆!何の腹の足しにもならないじゃない!」
「え、でもそれ、魔法の豆らしいよ?」
「は?魔法の豆?」
「そうだよ。持ってたら幸せになれるんだって。きっと食べたら満腹になれるよ。」
けろりとそんな無責任なことを言うジャック。
…だからそういう魔法の豆じゃないって言って……
…!ジャック、貴方、まさか…(2回目)
「そ、そうなの?でもそんなおとぎ話みたいなことあるわけ…」
「分からないよ?母さん、食べてみなよ。いいことあるんじゃない?」
「…フン、じゃあ騙されたつもりで食べてみようかしらね。」
そう言って、お母さんは豆をつまみ上げ、口へと運びます。
だ、だめです!
お母さん、それは食べてはダメなタイプの豆です!!
このままでは…お母さんはっ…ああ!!
お母さんが口を開け、誰もが息を飲んだ瞬間。
その時です。
一陣の風がびゅう、と室内に巻きおこり、お母さんの手から豆が零れおちました。
豆はそのまま、開いていた窓の外に落ち、地面に転がりました。
するとどうでしょう。
豆から芽がにょきにょきと伸び、あっという間に巨大な豆の木が生えたではありませんか!
豆の木は雲をも突き抜け、てっぺんが見えないほど高い木になりました。
お母さんもジャックも、ぽかんと口を開けてその様子を見ていました。
「…あ、やっぱり魔法の豆だったんだ。」
ジャックがぼそりと呟きます。
対照的に、お母さんはさっと顔色を変えました。
「…っ!ね、ねえ…もしかして私、あれを口にしてたら…」
「まさか。でもまあ何かが起こるかなあ、とは思ってたよ。」
「……!!」
ジャックの非情なひとことに、絶句するお母さん。
酷すぎます。
実の母になんてことをするのでしょう、この息子は。
しかも『魔法の豆』について知っていたはずですからね、彼は。
…人間性を疑うレベルですよ、これは。
…しかし、本当によかった。
あやうくスプラッタを見る羽目になるところでしたよ…
あの豆、遺伝子組み換えで作った、『本物の魔法の豆(化学)』でしたからね。
スタッフ、ありがとうございました。
もう強風機しまってくれていいですよ。
「じゃあ母さん。ちょっとこの豆の木に登ってみるよ。上に何があるのか気になるしね。」
「……え、ええ…行ってらっしゃい。」
ジャックは未だショックから抜け出せない母親を置いて、さっさと外に出て豆の木に登ることにしました。
非情です。最低です。
なんでしょう、このジャックは。
悪逆非道を地でいっているようなもんじゃないですか。
ねえ、やっぱり彼をここに出してはまずかったのではないでしょうか…
これじゃ、多分国崎くんの方がましですよ…ヒーローとしては。
「…何か言った?」
いいえ…何も。
……はあ。
次につづく。




