「ヘンゼルとグレーテル」前編
-CAST-
ヘンゼル――水谷信二
グレーテル――高宮麗奈
お母さん――乾 圭太朗
お父さん――国崎聖悟
小鳥――本城那津
魔女――斎藤宏樹
ナレーター――天のこ(ry
「へーこれはまた、意外な配役。」
「やっと休憩だわー。じゃあね、那津。私客席行ってくるから。」
「…ねえ、私も休憩でよくない?何この小鳥って。無理矢理ひねり出した感が半端なくするんだけど。」
「いいからさっさと羽根つけろよ。似合うぞ(笑)」
「うぜぇ、死ね聖悟。」
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はい、本日も本劇場にお越しくださいましてありがとうございます。
幕があがりまして、物語の始まり始まりです。
むかしむかし。深い森の奥、木こりの家族が住んでいました。
お父さん、お母さん、男の子、女の子の四人家族です。
男の子の名前はヘンゼル、女の子の名前はグレーテルと言いました。
木こりの家はとても貧乏で、最近では食べるのにも困るようになってきました。
ある夜、夫婦は子どもたちが寝静まった頃、密かに話しあいます。
「あなた、このままじゃ生活していけませんよ。」
「こまったことだ…もう、一家飢え死にするしか…。」
「なら、子どもたちを森に捨ててきましょう。食いぶちが減れば私たちはなんとか生きていけるわ。」
「でも、そんな…!子どもを捨てるなんて…」
「あら、ここ最近じゃ結構普通のことみたいよ?売り飛ばされないだけマシよ。」
「(ひでぇ母親…)でも、私は自分の子どもを…」
「なら、貴方が逝きます?「明朝に出発しよう。作り置きのパンはあったかな。」
「そうね。」
夫婦はそう決断すると、明日の準備をしてさっさと寝ました。
ここで夫婦の力関係が分かりますね。非常に分かりやすい。
さて、その話を聞いて顔面蒼白になったのは、こっそり話を聞いていたヘンゼルです。
ヘンゼルは空腹のお腹をさすり、ぽつりと呟きました。
「どうすっかなー捨てられちまうよ、俺ら。」
……軽い。
がんめんそうはく、の意味が分かってますか、貴方は。
あと、そんなチャラいヘンゼルはいません。
ポケットから手、出しなさい。
「なー、グレーテル。」
「…そうね。でも私、死にたくないわ…!」
対するグレーテルは、死の恐怖に震えています。
ほら、これが普通の反応ですよ。
親に捨てられる段になって泣かない子どもはいませんよ。
「でもさ、このままでいてもどうせ死ぬだろ。食いもんないし。それだったら家出た方がいいんじゃね?」
「そうだけど…私はお家にいたいもの。」
「じゃあさ、俺にいいアイディアがある。外に出て白い小石を…「早く寝なさい」
おっと、ここで突然、どこからともなくお母さんが登場しましたよ。
寝たはずじゃなかったんですか、お母さん。
結局、ヘンゼルは母親に首根っこをつかまれて部屋に突っ込まれました。
もちろん、家の扉には鍵がかかったままです。母強し、ですね。
ちなみにグレーテルはもうおしまいだ、とずっと端で震えていました。
翌朝。
一家はそろって森に出かけました。
だいぶ奥まで進んだ、と思えば夫婦は子どもたちに振り返りました。
「じゃあ、お父さんたちは仕事に行ってくるからな。迎えに来るまで、いい子で待ってろよ。」
「じゃあね。」
お父さんは申し訳なさそうに、お母さんは輝かんばかりの笑顔でそう言います。
―しかし、本当に何なんでしょうね、この母親。
親としても人間としてもどうかしてるとしか……
…あ、す、すいません。
いえ、ほんの冗談です、はい。
だから睨まないでくれますか、心が砕けます。
「…わかった、じゃあ待ってる。」
彼らの目的を知っているヘンゼルはそう言うしかありません。
こうしてヘンゼルはグレーテルとともに森の中に取り残されました。
――夜が更けてきました。
辺りが暗くなり、森の中は不気味に静まっています。
しかし、待てども待てども彼らの両親は迎えにはやってきません。
グレーテルは泣きだし、ヘンゼルも渋い顔をしていました。
「…うう…おうちに帰りたいわ…」
「泣くなよ、グレーテル。」
「でも、こんな暗い森の中、置き去りにされてしまったのよ!帰り道も分からないし…」
「大丈夫だって。俺、歩いてきた道にパンくずをまいてきたから、たどっていけば帰れるはずだぜ。」
「ホント!?……って、あれ?」
グレーテルは歓喜の表情で道端に目を向けましたが、そこにはパンくずなんてありません。
何故だろうと目を向けると、なんと、小鳥がパンを食べてるではありませんか!
「―こいつ!パンを食べやがった!」
ヘンゼルが絶叫し、グレーテルも声をあげて泣きました。
その間、平然とパンを頬張る小鳥。
無心です。我関せず、といった感じですね。
なんだ、鳥役、結構板についてるじゃないですか。
あ、死ねとか暴言はやめましょう。鳥は話してはいけませんよ?
「くそ、この鳥っ!」
いきなり帰り道が分からなくなった兄妹。
ヘンゼルは苛立ち交じりに足を振り上げ、その原因を蹴り――
「――いて!?」
いえ、蹴ろうとしたらどこからともなく石が飛んできました。
頭にクリティカルヒットです。
相当痛かったようで、ヘンゼルはその場にうずくまりました。
……あれ?
これ小道具じゃありませんね?本物の石じゃないですか。これは痛いはずです。
一体、どこから飛んで……ああ。
スタッフー、お父さんは出番、最後しかないので彼をどっかに監禁しといてください。
ったく、蹴るのはフリだけだって言ったはずですのに、ねえ。
「お、お兄ちゃん、大丈夫?」
「ってーー!くっそ聖悟の野郎、後で必ず仕返ししてやるっ!」
ヘンゼルがそうやって涙をにじませていますと、
グレーテルは本当に心配そうなカオをして、ふわりと彼の頭を撫でました。
「……平気?こぶ、できてない?」
「え?…あ、ああ。」
「本当?よかったわ。」
にっこりと笑うグレーテル。まるで天使のようなほほ笑みです。
思わずヘンゼルは(ついでに様子をうかがっていた小鳥も)見とれてしましました。
「ほら、怪我が大丈夫なら、立って。」
「いや、…もうちっと撫でてくれたら、治る、かも。」
「まあ。」
くすりとまた笑みをこぼすグレーテルに、ヘンゼルはもうメロメロです。
なんだか雰囲気がピンク色になってます。
って、おい!
こら!ヘンゼル、グレーテルやめなさい!このままいくと近親そーかんですよ!
インモラルなことは教育上よくないです!
というか、早く話を進めてください!
「………。」
すると、しばらく彼らの様子を見ていた小鳥がいきなりバサバサと翼をはためかせました。
どうやら、何かを伝えようとしているみたいです。
ヘンゼルもグレーテルも顔をあげて、小鳥を見ました。
小鳥は小さな羽根を動かして飛び立ち、しばらく飛んだ後、木の枝にとまりました。
首を傾けて二人をじっと見つめます。
「え?ついて来い…ってことかしら?」
グレーテルが呟くと、小鳥はこくりと頷きました。
「そう…みたいだな?」
ヘンゼルも半信半疑のまま小鳥に近づきます。
小鳥はまたそこから飛び立ち、数メートル先の枝にとまりました。
そして同じように二人を待つかのごとく羽根を休めています。
「…行ってみっか?」
「そうだね。」
元々どこにも行くあてのない二人です。
小鳥の示す先に何があるのか興味もわき、ついて行くことにしました。
小鳥に導かれるまま、ヘンゼルとグレーテルは森の奥へと進みました。
次につづく