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「赤ずきん」前編



-CAST-


赤ずきん――乾圭太朗

オオカミ――国崎聖悟

おばあさん――篠原未央

お母さん――水谷信二

猟師さん――本城那津



ナレーター――天の声(?)









さて、そろそろ次の劇の幕があがるころなんですが…なんだか舞台裏が騒がしいようですね?


「なんなんでしょう?」


さあ?でも主役がばっちりスタンバッてるのに、他のキャストが出てこないなんていけませんね。

ちょっと覗いてきます。


…あ、そうだ。

圭太朗くん、似合ってますよその赤ずきn「さっさと行ってください。」


あ、はい……





~舞台裏~



「ちょっと聖悟!はやく気ぐるみ着てって!そろそろ始まるよ。」

「嫌だ。俺は出ねぇぞ。」

「オオカミ不在の赤ずきんなんか、ヤマもオチもねーだろうが!いいから早くしろよ!」

「ったく、何で那津が赤ずきんじゃねーんだよ!?猟師とかフツー立場逆だろ!」

「そこが不服なわけ!?」

「当たり前だろ。じゃなきゃ誰がこんな下らんお遊戯するか。」

「君って奴は…シンデレラの時と何ら変わらん展開にするつもりかっ!」


ぎゃーぎゃーと叫ぶ猟師さんとオオカミさん。

どうやらこの二人が揉めているようですね。

…リア充は相変わらずですねぇ。ちっ。



「じゃあおばあさんでもいいから。ほら未央、代わってやってくれ。」

「結果、同じことになるじゃん!?あーもう、お願いだからオオカミの服着てよ!」

「………。」



そこで、オオカミさん何を思ったか、さくさくと衣裳を着始めます。

ああ、ようやく役についてくれる気になったんですね。

私含め、全員がそう思いました。

しかし。

オオカミさんはすべての衣裳を着た後、ニヤリとわるーい笑みを作りました。

外見が完全にオオカミですからいつもより余計に獰猛に見えます。



「なら、お前が襲ってくれよ?」

「…は?」

「お前、猟師だろ?オオカミをしとめるんだろ?」

「そ、そーだけど…?」


「…那津が倒してくれよ、俺を。」



オオカミさん、気ぐるみを着て耳をつけているにも関わらず、ものすごい色気です。

思わず猟師さんが真っ赤な顔で後ずさります。

あ、おばあさんも鼻血を吹きだしてパジャマを真っ赤に染めて――って。

…ちょっと。

アンタら舞台裏で何をやってるんですか。


つーかあんまりやりすぎると年齢制限かかっちゃいますから!

ほら、やめなさいっ!

あとスタッフ!早くおばあさん正気に戻して!

換えのパジャマも持ってきてください!



「…どーでもいいけど、早くね。圭太朗が怒ってるよ。」



色々と始末に追われていますと、

今回はお休みの斎藤くんがため息交じりにこちらを覗きます。



「ああ、分かった。じゃ、よろしくな、那津。」

「(マジかよ……)」



猟師さんはいっそ出番を前に逃亡してしまうか、と頭を抱えました。


――ああ、スタッフ。

猟師さんを押さえておいてください。


出番には必ず出すように。




――




さあ、ようやくスタートですよ。

なんだか始まる前からどっと疲れた気がしますがね。



「どうなるのかしらね。」

「圭太朗の赤ずきんだからな…ってあれ?麗奈ちゃんも今回出ないんだ?」

「ええ。舞台裏にいるのも何かと思って、観客席に。」

「そっか。じゃーのんびり観てようか。」

「そうね。」



最前席を陣取った斎藤くんと麗奈さんが身守るなか、幕がするすると上がりました。

「赤ずきん」スタートです。




***********



むかしむかし。あるところに可愛らしい男の娘が…

「……殴りますよ」

…げふん、すいません。

ちょっと今朝からのどの調子がおかしくて。

えっと、可愛らしい女の子が、ですね。おりまして。

森の中、小さな家に家族で住んでいました。

女の子はお母さんに作ってもらった赤ずきんが大のお気に入りで、いつもそれをかぶっていることから、『赤ずきん』と呼ばれるようになりました。


ある朝のことです。赤ずきんはお母さんに話しかけられました。



「赤ずきん!ちょっと頼みごとがあるんだけど。」

「…うわ、女装似合いませんね、お母さん。」

「うるせぇ!お互い様だろ!」

「まあ、どーでもいいですけど。で、なんですか?」

「言っといてスル―!?」

「早く要件言って下さい。時間の無駄です。」


今日も冴えわたっている赤ずきんの毒舌。

そうです、この女の子、丁寧な物言いとは裏腹にかなりイイ性格しています。

お母さんは結構なダメージを喰らった様子でしたが、やがて引きつった笑顔を作りました。


「……おばあさんのお見舞いに行ってきてくれない?」

「おばあさん?どこか悪いんですか?あ、性格ですか?」

「なんですってー!?」


あ、おばあさん、出番まだですから、引っこんでてください。

ちょっと、スタッフ!押しこんどいて!

…これでよしっと。

はい、もういいですよ。お母さんは続けてください。


「…え、えっと…お病気らしいの。それでこの葡萄酒とパンをお見舞いに持って行ってちょうだい。」

「はい、分かりました。」

「あ!赤ずきんをちゃんとかぶって行くのよ!」

「分かってますよ、この童話のメインアイテムですから。」


こうして、赤ずきんは葡萄酒と焼き立てのパンを入れたバスケットをお母さんからもらうと、おばあさん宅へと向かいました。


あの、流れは概ねOKですが…赤ずきん、メタ発言はご遠慮願いますね。




自宅を出て、赤ずきんは森の中をてくてくと歩きます。いい天気です。

そよ風が吹き、小鳥が木にとまってぴいぴい鳴いています。

赤ずきんもいい気分で歩を進めている――と思えば。

何やら思案顔です。

どうしたのでしょう。



「…思うんですが、森の中で赤ずきんって不自然ですよね?日よけにしても麦わら帽子とかをかぶってればいいのでは…?」



あ、そーいうこと言いますか、赤ずきん!

アナタのアイデンティティでしょうに!

タイトルも変わっちゃいますよ!?



「目立つからオオカミの目にとまる羽目になる…」

「確かにな。例えば俺みたいな?」


すると、赤ずきんの若干危ない発言にかぶせるようにして、オオカミが背後に登場しました。

ああ、いいタイミングです。タイミングだけはいい男です、彼は。



「あらオオカミさん、こんにちは。」

「棒読み、無表情…全く歓迎されてねーな、俺。」

「ええ。オオカミなら動物らしく黙ったらいかがです?」

「話にならねーだろ、それじゃ…」


呆れ顔のオオカミさん。

彼には耐性がついているのか毒舌にもそんなに動じていません。


…それにしても赤ずきん、機嫌が最悪ですね。

もしかしてさっきのこと、かなり怒って…



「怒ってますよ、勿論。」



で、ですよねー!?

スイマセン、後で謝りますから、劇中だけは真剣にお願いしますー!



「はいはい…仕方ないですね。…で?わざわざ呼びとめて何なんですか?オオカミさん。」

「赤ずきん、お前、何処に行くんだ?」

「貴方に伝える義務はないと思います。では失礼。」

「だから話進まねーだろ。おい、待て。」



そのまま素通りしようとした赤ずきんを、オオカミは追いかけて再度呼びとめます。

あまりにもしつこかったので、

赤ずきんはため息交じりにおばあさんの家にお見舞いに行く旨を伝えました。

オオカミはなるほど、と頷きます。



「そうか、でも見舞いには花がないといけないだろう?」

「まあ、そうですね。」

「そこに綺麗な花畑があるのを見つけたんだ。ちょっと摘んで行ったらどうだ?」

「結構です。」

「なんでだよ。」

「寄り道はしません。私は言いつけを守るいい子ですから。」

「少しくらい、いいだろ?おばあさんも喜んでくれると思うぞ?」

「でも…。」



その後も、あーだこうだと議論を繰り広げる赤ずきんとオオカミですが、

結局赤ずきんはオオカミの言うとおり少し寄り道して花を摘んで行くことにしました。

オオカミが見つけたと言う花畑はそれはそれは綺麗なものでしたし、彼女もおばあさんに喜んでもらいたいですからね。



「ところで、赤ずきん。」

「はい、なんですか?」

「お前のおばあさん家はどこだ?」


オオカミは花を摘んでいる赤ずきんに尋ねます。

赤ずきんは怪訝な顔をしながらも、



「…この道をまっすぐ行って別れ道を右に行った先の家です。」



素直にその居場所を教えました。

オオカミはそうか、とニヤリと笑うと赤ずきんを残し、どこかに立ち去りました。


―しかし、オオカミは気付きませんでした。

残された赤ずきんが不気味な笑みを見せていたことを……





「え、これなんてホラーなのかしら?」

「…ホラー展開とか止めてくれないかな?」

「というか、これ童話よね?」



…観客席がなにやらざわざわとしていますが、まあ、先を続けましょう。





次につづく。

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