表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/13

「シンデレラ」



-CAST-


シンデレラ――本城那津

王子様――国崎聖悟

継母――高宮麗奈

義理の姉――篠原未央

魔法使い――水谷信二

国の宰相さん――乾圭太朗

王様――斎藤宏樹


ナレーター――天の声(?)



※ショートストーリーで紹介した「いきなり童話パロ」の再編集版です。




「―で、何すんの、今から。」

「劇をやれだと。ほら、台本。」

「は?私も出るの?めんどくさい。」

「主役のお前が出ないでどうすんだよ。とっとと衣裳に着替えろ。」

「わー!分かったから脱がそうとすんなっ!」



*******



むかしむかし。

ある所にシンデレラという女の子がいました。

シンデレラは優しい両親と一緒に幸せに暮らしていましたが、ある日母親が病死してしまいました。

それを悲しんだ父親は、再婚し、新しい母親を家に迎えました。

彼女にも娘が一人いたので、シンデレラの家は一気に4人家族となったのです。

家族が増え、喜んだシンデレラ。

しかし、彼女たちはとんでもない性悪女だったのです…


「ちょっと、誰が性悪よ!」

「…撤回をお願いしていいかしら?」


…あ、すいません、未央さん、麗奈さん。ナレーションに突っ込まないでくれますか?

これ、一応聞こえてない設定なので。


…えーと。そうそう。

その後、彼女らの…その、あまりよろしくない本性は、シンデレラの父親が亡くなってから現れるようになりました。

彼の遺産を手にした母と娘は、シンデレラをまるで使用人のようにこき使うようになったのです。

シンデレラは毎日毎日、家の掃除から洗濯、料理、果ては母娘の身の回りの世話までまかされました。


「シンデレラ!洗濯物をたたんでちょうだい!」

「シンデレラ!私のイヤリングはどこ!?」


容赦なく飛んでくる継母や義姉の言葉。

哀れなシンデレラは過酷な労働の日々に、みじめに泣き暮らして……

…あれ?そうでもない?…意外と楽しんでいるようです。

料理とかプロ顔負けのお手並みですし。

のんきに鼻歌なんて歌っていますし。結構この生活、あってるんじゃ……

……。

ま、まあ、何はともあれ。そんな日々を過ごしていたわけですよ、彼女たちは。


そして、ある日。お城から舞踏会の招待状がシンデレラの家に届きました。

継母と義姉は喜び、早速ドレスの発注やらアクセサリーの選択やらをします。

多少お高い買い物も、気にしません。

だって王子様に会えるんですから、それはもう着飾るしかありません。

きらびやかな宝石を片手にきゃーきゃー騒ぐ継母たち。

その様子をシンデレラは――見向きもせずに必死に窓の汚れを落としていました。


…ちょっと、シンデレラさん?興味なさすぎやしませんか?

フリですか?

…いえ、強がり的なアレと信じることにしましょう、うん。



「じゃあ、シンデレラ。行ってくるわね。」


―舞踏会当日になりました。

継母が優越感たっぷりに玄関口の彼女にそう告げます。

隣の義姉も華麗なドレスを身にまとい、シンデレラを見下しています。

舞踏会は招待状を受けた客ならば全員参加できるのですが、もちろん綺麗なドレスを持っていないシンデレラはお留守番なのです。

ああ、やっと本筋に近づいてきた。


「しっかり、留守番を頼むわよ。掃除も怠らないように。」

「あなたの分まで楽しんでくるわ!お土産でも持って帰ってくるわね。」

「はい、行ってらっしゃいませ。」


高らかな笑いを残して高級馬車に乗り込んだ二人は、お城を目指します。

それを見送ったシンデレラは、肩を落としつつ屋敷の中に戻りました。


――シンデレラは言いつけ通り、一人で家を掃除していました。

箒で床を掃き、水拭きをし、暖炉の灰を綺麗にし……

そうしてやっと掃除が一段落した時、ふと外から漏れる光を覗き、ため息を吐きました。


「…早く終わらないかなあ。」


…おや、いきなり台詞が違いますね。

本心をこんなときに出さないでいいんですよ、貴女って人は!

ほら、ちゃんと演じて!何のためのキャラですかっ!

『えー』じゃない!ほら、12ページから!



「…はあ。私も舞踏会に行きたいなあ(棒)」

「わーナッちゃん、超棒読み~」


シンデレラがそう言うと、背後にいきなり黒いローブの人が現れました!

こらそこ!え、これ不法侵入じゃない?とか突っ込まない!

あと魔法使いもちゃんと台本読んで!


「分かってるって~。ごほん、シンデレラ、舞踏会に行きたいかい?」

「はあ、あまり……じゃなくて、行きたいデス。」

「ならば、このステッキで魔法をかけてあげましょう~。」

「…なんか魔法、効かなさそうだな。」


胡散臭そうに魔法使いを見るシンデレラ。

…いや、仏頂面する場面じゃありませんよ、ここは。

確かにこの魔法使いは何処からどう見ても怪しいし、貴女の言うことも分かりますが…


「失礼な!じゃ、もうとっとと変身させてやる!」

「うわっ!」


逆ギレ魔法使いがステッキを一振りすると、ボンっと音を立ててシンデレラは煙に身を包まれました。

すると、なんということでしょう、彼女は一瞬のうちに綺麗なドレス姿へと変わっていたのです!

首元には真珠のネックレス、そしてガラスの靴を履いています。

シンデレラは驚いたように目を瞬かせました。


「わ、意外と仕掛けがすごいな。」

「夢を壊すようなこと言わないでよ。あ、馬車はそこにあるから。」

「こっちも本物の馬か…どんだけ金使っt「ちょっと黙ろうか。」



かくして、『0時に解ける』という制限つきの魔法をかけられたシンデレラはかぼちゃの馬車に乗って(押し込められて)、お城を目指しました。


最早どうでもいいことですが、お二方、台本通りの進行をしてくださいよ。

あ、水谷くんはもう出番ないんで、舞台裏行ってください。

監督のお説教タイムです。



――



「…王子、頼みますから舞踏会に出てくださいよ。」

「いい、俺は結婚なんかするつもりはない。」


舞台は変わってお城の中。

会場の真上にある部屋の中で、宰相さんと王子様が話していました。

二人ともなかなか様になっています。お芝居も上手いです。

…ああ、元からそうでしたっけ。


そう言わずに、と、宰相さんは王子を階段まで連れ出し、華やかなホールを見せます。


「ほら王子。お美しい令嬢ばかりですよ?」

「お前たちが勝手に集めただけだろう。俺には関係ないことだ。」


頬杖をつき渋る王子に苦笑する宰相。

背後から現れた王様も、たっぷりとしたおひげの隙間からため息をもらしました。


「一体何が気に入らないというのだ、王子よ。」

「…父上。」

「お前の未来のお妃を決める大事な会だというのに、お前が参加しないのでは意味がないだろう。」


そうです。

今回の舞踏会は、王様の言うとおり王子様の結婚相手を決める会だったのです。

そのため、国中に招待状が届いたんですね。

素朴な疑問ですが、会場のキャパシティってどうなってるんでしょうね。


「ですから、俺には妃などまだ必要ないと言っているでしょう!」

「王子、少し声をひそめて……」

「黙れ、宰相!俺は俺の結婚相手くらい、自分で見つける!」

「そのような、聞きわけのないことを――」

「父上は何も分かっておられない!」


いいですね、男性陣、迫真の演技です。いい感じです。

先程のグダグダ芝居が帳消しになりそうです。

王子様はさらに王様に追及しようと口を開きました。


―と、その時です。玄関から来訪の合図であるラッパが鳴らされました。



「おや、どなたかいらっしゃったようですね。もう舞踏会は始まってるのに、誰――」



しかし、王子様は宰相さんの言葉を最後まで聞かずに部屋を飛び出しました。

本当は来訪者が誰だか知らないはずですけどね。何故でしょうね。


…まあ、彼も気になっていたんでしょうか、頬がゆるゆる緩んでいます。

王様と宰相さんはやれやれ、といった具合に肩をすくめました。



一方。

会場に着いたシンデレラは好奇の視線を受け気まずい思いをしながらも、

中に進んでご飯をつまんでいました。

花より団子です。

それにしても他の人に目もくれず一心不乱に美味しい料理を食べまくるとは。

…ヒロインとしてはちょっとまずい気がしますが。


シンデレラが笑顔でワインを傾けているとき、バンっと勢いよく広間のドアが開かれました。

途端に周囲がざわつきます。華やかなドレスに身を包んだお嬢さんがたは頬を赤く染めています。


「王子様だわ!」

「やっといらしたのね!」


なんて声があちこちからあがり、辺りは色めき立ちました。そしてシンデレラは―


「…ん?おうじ?」


シンデレラは、ロブスターの殻を割っていました。

…ちょっと、ちゃんと芝居をする気がありますか、那津さん。

私(ナレーター)をこれ以上怒らせないでくださいよ。


王子様はきょろきょろと誰かを探すように視線を泳がせます。

そしてその人を見つけると他の女性には目もくれずに歩み寄って―


「…見つけた。」


嬉しそうに語りかけました。


勿論、お相手は白いドレスを身にまとったシンデレラ。

なんて素敵な王子スマイルなんでしょう。

全く関係ないお嬢様も何人かぶっ倒れるほどの威力です。

シンデレラもうっとりしています。


…あ、片手にもっているステーキの皿は置いてください。雰囲気ぶち壊しなので。


―ごほん。気を取り直して。

王子様は跪いてシンデレラの手を取り、『私と一緒に踊って下さい』とダンスのお誘いです。

シンデレラも頷き、二人は広場の中央に足を進めました。

くるくると優雅に踊る王子と少女は一枚の絵のようで。

周囲の者は羨望の眼差しでそれを見ていました。


…一部を除いて。


「っ誰なの、あの女は!いきなり現れて王子様と踊るなんて!…わたくしの方がよっぽど美人ですのにっ!」

「あら、あの方…シンデレラにそっくりではありませんか?」

「な、なんですって!?お母様、本当ですの!?」


―ひそひそと話すのはシンデレラの義姉と継母です。

中央にいるシンデレラを悔しそうに見つめています。

ギリ、と歯噛みする姿はとても演技には見えません。

――ってあれ未央さん、もしかしてそれ、素ですか?

……。

ま、まあ、そんな外野はともあれ、王子とシンデレラは静かなものに変わった音楽に合わせ、身体を揺らしながら二人だけの世界を作っていました。


「綺麗だ。よく似合ってる。」

「…そういうことを素面(しらふ)で言うかな、君は。」

「事実だからな。」


純白に着飾ったシンデレラを見て、王子は嬉しそうに笑いました。



――ゴーン、ゴーン。


しかし、幸せな時間もつかの間。

お腹の底に響くような、重い鐘の音が鳴り響きました。例の、十二時の鐘です。

シンデレラの一夜の魔法が解けてしまう頃合いとなってしまいました。


「(…えっと、ガラスの靴を途中で落として退場、だっけ。)ごめんなさい、王子様。…私、もう行かなくては。」


シンデレラが台本を思い出しつつ、ドレスのすそをまくって走り出しました。

ガラスの靴を鳴らしてまっすぐ出口を目指し――

ですが――それは果たして、失敗に終わったのです。


「待てよ。」


シンデレラは手を掴まれ、あっという間に王子様の腕の中に戻されてしまいました。


「ひゃっ!」

「逃がすわけ、ないだろ?」


びっくりして王子様を見上げるシンデレラ。

王子様はいたずらっ子のような表情を作ります。


「ちょ、待って!私、逃げないといけないんだけど!」

「だから、逃がさないって。」

「台本無視!?」


おっと、これは暴挙に出ました王子様。

なんと、シンデレラ最大の見せ場である『ガラスの靴を落とし逃走』を許さないようです。


「俺、思うんだけどさ、惚れた相手をみすみす逃して後日探す、なんて面倒な手段を取った王子は腑抜けだろ。とっとと捕まえてしまえばよかったんだよ、こんな風に。」

「ガラスの靴の存在意義は!?」

「知らん、そんなもん、いらん。」


きっぱりと男らしく言う王子様はニヤリと笑いました。

あらま、ガラスの靴涙目ですね。

ていうか、物語のクライマックス、総無視ですね。


呆然とするシンデレラ。

ちなみに魔法はとっくに解けてしまっているので、シンデレラは元の地味な灰色の服に衣裳チェンジしています。

しかし、王子は彼女のみすぼらしい姿を見て、にっこりと笑いました。



「…貴女がどこの身分の者であろうと関係ない。俺は貴女を妃に望みます。」



王子様はそんな完璧な台詞を口にし、完全に〆に入っちゃってます。

それも、世の女性を一瞬で虜にしてしまうような甘くとろける笑顔で。

…シンデレラは引き続き絶句しているようですが。


―しかし、台本がだいぶ書き変わってしまいました。もう無茶苦茶です。

どうしましょうねえ、こんな結末でいいのでしょうか。

あ、でも審査員は『これでも全然アリ!!』と言ってますね。

鼻血を出してる女性もいます。

…まあ、イケメンは何やっても許されるってやつですね。

これでよしとしましょうか。



「なー、もう帰っていいだろ?劇終わったし。」


そうですね、いいですよ。どうぞ彼女ごと持ち帰っちゃってください。


「ちょっ!物語ぶち壊しっ!?」


物語の冒頭からぶち壊した貴女にとやかく言う権利はありません。

ほら、とっとと行きなさい。リア充が。


「ほら行っていいって。てか我慢できないから、ここで襲ってい?」

「ちょーっ!?」


こうして王子様に捕まったシンデレラはそのまま城に留まり、幸せに暮らしましたとさ。

めでたし、めでたし♪



「めでたくない!めでたくないからーっ!」



END




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ