それでも君をアイシテル
この作品は、乙女ゲーム製作所「イケプロ!!」のHPにて、あまりにも主旨とかけ離れているため掲載を断念した作品です。
残酷な描写があるだけではなく、救いもほとんどありません。
それでもご覧になる方はどうぞ。
X月X1日
今日、街で初めて君を見た。
透き通るような白い肌に、長い手足、栗色の髪。
その通りを横切る誰もが、君に視線を移していた。
君はこの辺では有名らしいから、友人が君のことをすぐ教えてくれたよ。
ユズ。
それが君の名前なんだね。
僕は例え記憶がすべてなくなってもそのことだけは忘れないと思う。
X月X3日
ユズ、君はいつも、その店にいるね。
僕は今日、君のいるあの店に行ったよ。
あの店には、他にもいろんな子がいるけれど、やはり君がその中で一番輝いている。
他の子が次々と店から消えていっても、君だけは同じ場所に居続けるだろうね。
客は皆、君のあまりの美しさに、手を出すことを躊躇している。
僕?僕は、他の奴らとは違うさ。
ただ、僕が君に手を出した瞬間、君が穢れてしまうのではないかと思って怖いのさ。
X月X4日
今日は、店の男が君に触れていたのを見てしまった。
あの、汚らしくて、小太りで、下品な中年男だ。
いつも、君をいやらしい目でみているのが、不快極まりない。
でも君は、そんな愚かな男の行いにも、不快感一つ見せることなく、知らない振りをしていたね。
ユズ…君はなんて強い女性なのだろう…。
でも、穢れが広がると困るから、あの男の触れた君の髪飾りは僕が持ち出して、処分しておいたよ。
君は僕が守るからね。
X月X5日
君に似合う髪飾りを探してきた。
銀細工のスズランをかたどった清楚で上品なものだ。
君のような気品にあふれ、気高い女性にはとてもよくあう。
それにしても君はとても物静かな子で、感情を表に出さないから、どんな声で話すのか、どんな顔で笑うのか、とても気になるよ。
君をもっと知りたい。
君の好きな花は何なんだろう?君の好きな色は?甘い物は好きなのかな?
君といろんなものを見たい、君といろんな場所に出かけたい。
もう、僕の頭は君でいっぱいなんだ、ユズ。
X月X6日
君の髪からあの髪飾りが消えていた。
きっとあの愚かで下品な男が彼女から取り上げたに違いない!
あれは彼女の為にあるものだと言うのに!
X月X7日
今日も君を一日中眺めていた。
ユズ、君を愛してる。
君が好きなんだ…だから、君にどうしてもキスをしたかったんだ。
なのに、あの愚かで下品な男は君に触れることすら許してはくれなかった。
しかも、それだけではなく、
「そんなに彼女に触れたければ、買えばいい。まぁ、お前のような男にそんな金がある様にも見えんがな。」
とまで言ってきたんだ。
まるで、物か娼婦の様な言い方じゃないか!
わかってるよ、君はお金なんかじゃ動かない、強い女性だ。
だからゆっくり、愛をはぐくんでいこうと思う。
X月X8日
今日、初めて君と言葉を交わした。
「いつも来てくれる人ですよね?ありがとう。」だって。
その声は僕の思っていた通りの声で、とても驚いた。
僕は喜びで胸がいっぱいだった。
君をそばで感じるだけでも幸せだったのに、まさか君から話しかけてくれるなんて。
僕はその日たくさんのことを、ユズと語り合った。
しかし、またもや店のあの愚かで下品なあの男がやってきて、僕とユズを引き離した。
彼女は、この店の外へ出ることを許されていない。
あの男がそれを制限しているのだ。
かわいそうな籠の鳥のユズ。
でも、安心して…僕が君を助けてあげる。
X月X9日
あの男は、僕らの会話を邪魔するばかりか、僕が店に入ることすら禁じた。
でも大丈夫、君と僕の心はもうつながっているも同然。
だから君が目の前にいなくたって君の気持はわかってしまうんだよ。
君はもうあの場所にうんざりしているんだよね。
待っていて、今夜君を連れ出すから。
やれやれ、ようやく今日の仕事も終わりだ。
あたりはすっかり夜だ。
満月のせいか今日は月の明かりがいつもよりつよい。
あれだけ言ったのだ。
さすがに今日は店にあの気味の悪い男は来なかった。
「お前も、大変だな…ユズ。」
彼女が店に出るようになってから、もう五年。
店の看板である彼女は、誰の目にも止まるようなそれは美しい見目をしていた。
もともとは異国からやってきた彼女。
珍しい毛色や瞳の色に彼女をほしがるものは大勢いたが、すべて断ってきた。
そこに現れたのがあの男だ。
はじめのうちは、彼女を見るために毎日通う程度だったが
しだいに、彼女の髪についていた髪飾りを盗み出し、別のものに取り換えたり、
彼女にキスをしようとしたり、
さらには一日中話しかけている時もあった。
私は、仕方なくその男を出入り禁止にした。
客とはいえ、マナーが守れないのでは仕方がない。
ガシャーン!!!
「なんの音だ?」
店の方からガラスの割れるような音が聞こえた。
まさか、強盗だろうか?
一瞬、足がすくんだが、店を守るためそうは言ってられない。
私は、狩猟用に使っている散弾銃を手にとった。
そして、二階の作業場から、一階の店へとゆっくり下りた。
階段の手すりの間から、店の様子を覗く。
どうやら、店の前のショーウィンドウのガラスが割られたらしかった。
「誰だ!!!」
月明かりがその男のシルエットを映し出していた。
はっきりとはわからないが、だいたい見当がついた。
その男は彼女を抱いていたから。
「またお前か!!!いい加減にしろよ!!!」
「彼女を…迎えに来たんだ。ね?ユズ…」
そう言って男は、彼女を見ながら薄く笑った。
その目は、常人のものとは思えない、焦点の定まらないものだった。
この男は狂っている。
それだけは間違いなかった。
「何故そんなにも「それ」に執着するんだ!!」
「彼女が言ったんだ。僕に、助けてほしいって。」
「何を言ってるんだ?そいつがそんなこと言うわけないだろうが。」
そう言いつつも、私は男に近づいた。
「くるな!!お前にはもう彼女は触れさせない!!」
「何を言ってるんだ?それはうちの商品だぞ!!」
「彼女を物のように言うな!!!彼女は…彼女は僕の大切な人だ!!」
男はポケットからナイフを取り出した。
果物でも切るかのような小さなナイフだった。
しかし、それを持って男は私に向かってきたのだ。
「っ!!!この変態野郎が!!!」
自分の身を守るためだ。
そう思って私は、引き金を引いた。
弾丸は、男の左胸を赤く染めた。
「ぐっ…うぐぁ……ユズ……ユズッ……。」
男は、地をを這いつくばってなお、彼女に手を伸ばそうとした。
私はは、その手を思いきり踏みつけた。
「っ………」
「この銃は殺傷能力は低いが、お前の場合は場所が場所だ。そのうち死ぬだろう。馬鹿な男だ、人形に本気になるとは。」
「ユズは……人形じゃ……。」
男は息も絶え絶えに、まだ話す。
言葉を紡ごうとするたびに口からは鮮血があふれ出た。
それでも、私は男に真実を伝える。
「いいや、こいつは人形だよ。この通りで最も美しく、誰の目にも止まるような……正真正銘私の作った人形だ。」
ここは私のドールショップ。
そして、この人形ユズは私の作った最高傑作だった。
しかし、傑作ゆえに、まさかこんな男まであらわれてしまうとは。
「ユズ…ユズ…。」
男は、それでも人形の名を呼び続ける。
もはや、何か意図があって彼女を呼んでいると言うよりも、本能でその名を読んでいるようだった。
「お前は後で処理してやる。お前のせいで薄汚れた彼女を綺麗にしなけれなならないからな。」
全く、店の床が汚れたうえに、ショーウィンドウも割れてしまった。
明日までに何とかしなければならない。
店主はそんなことを考えながら、そのまま人形を連れて作業場に戻って行った。
ドールに恋した男の結末。
この文章に矛盾を感じたら、それは間違いではありません。
覚悟をされた方のみ、続きである「ANSWER~それでも君を愛してる過去編~」をご覧ください。