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人生を変える出会い

鬱蒼と木々が茂る山奥の中、一人の少年が身の丈ほどもある細身の長剣を片手で振るっていた。仮想の敵をイメージし、肩に掛かる長さの黒髪を汗で顔に貼り付けながら長剣を操る。イメージした敵の数は十、剣兵が四人、槍兵が四人、弓兵が二人だ。


「……よし!」


深呼吸を一回、頬を叩いて気合を入れて戦闘を始める。四方から一斉に襲い掛かってくる剣兵の一撃が振り下ろされる前に右脚を軸にし回転、剣兵の剣を握る腕を切り飛ばす。間髪いれず逆方向に回って剣兵全員の頭を切る。剣兵の死体を死角にし、二人の槍兵が槍を突き出してくる。少年は跳びあがって二本の槍をかわすが、もう二人の槍が跳んで動けない少年に突き出された。無理に身体を捻り、薄皮一枚で穂先を避け、着地と同時に長剣を一閃させ槍兵を一掃し、返す刀で飛んできた二本の矢を切り裂く。

少年は足下に転がる想像の槍を蹴り上げ、長剣を投げながら、キャッチし投擲する。投げられた長剣と槍は弓兵の胸を貫き絶命させる。


「……駄目だな」


ポツリと一言、少年黒神真紅はそう囁いた。所詮はイメージ、現実でここまで自分に都合よく相手が動いてくれるわけがない。


「実戦が一番なんだけどな。でも、相手になってくれる人はここにはいないし、かと言って片っ端から魔獣と戦うって訳にもいかないしなぁ……」


彼の故郷は今いる国、『ドラグニア帝国』から遠く離れた和国という国だ。彼は和国にある『黒神神社』という神社に拾われ、育てられたのだ。孤児である彼は常々、自分を拾ってくれた黒神神社の人たちに何かしらの形で恩返しをしたいと考えていた。そう思ってた彼の目に飛び込んできたのは、大国ドラグニアにある騎士養成学校の生徒募集だった。

通常、騎士養成学校に入るためには莫大な金が掛かるので、金を持っている裕福な貴族くらいしか入れない。だが、特待生で入る事ができたなら、入学金や学費、その他諸々の費用が全て免除される。しかも、騎士養成学校を卒業できれば、王族に仕える事が出来る。つまり、将来は約束されたようなもの。しかも特待生の条件に、優れた者であれば身分は問わないとまである。これは行くしかないだろう、と真紅は単身で和国からドラグニアへと旅立ったのだ。


(まぁ、そこまでは良いんだよ。死に物狂いで勉強とか剣の修行したから騎士養成学校にも特待生として入れて……でもなぁ)


「まさかあそこまで貴族が陰湿な連中だったとは夢にも思わなかったな」


騎士養成学校に入学して早一年以上が過ぎていた。十六歳になった真紅は、入学当初から変らぬ侮蔑の視線を貴族達から受けていた。たった一人の平民、貴族でないにも拘らず自分たちよりも優秀な成績を収める真紅に、ほとんどの者が嫉妬しているのだ。しかも、一部の教師を除いて教師達は平民である真紅に目をかけてすらいない。


「はぁ……ま、いいか。俺は俺でただ頑張ってくだけだ…ん?」


ふと、真紅はあることに気がついた。山が、森が静か過ぎるのだ。山に入って大体に、三時間もすると、真紅の匂いを嗅ぎつけた魔獣が襲い掛かってくる。故に真紅は常に場所を移動して修行をしている。だが、今日に限って魔獣の動きがない。それどころか、気配さえないのだ。


「……何かあったのか?」


一抹の疑問を胸に抱きながらも真紅は修行場所を変えようと移動を開始する。


「この先にある小川で顔でも洗うか」


誰に言うわけでもなく独り言を呟きながら歩くこと数分、真紅は目的の小川にたどり着いた。が、驚きの余り顔を洗うどころではなくなる。川が血で真っ赤に染まっているのだ。きな臭い鉄の臭いが鼻を突く。


「上流で何があったんだ? これだけの量の血が流れてくるなんて……虐殺でも起こったのか?」


或いは、これだけの血を内包するだけの何かがいるのか。真紅は少しだけ逡巡してから、上流に向かって走り始めた。何故かは己でも分からない。上流に何がいるかは分からない。下手をすればその何かに殺されるかもしれない。でも、真紅は向かわずにはいられなかった。

上流に近づくにつれ、川はより赤くなり鉄の臭いはきつくなっていく。そして、川の源泉となる洞窟へとたどり着いた。恐る恐る中に足を踏み入れると、吐き気を催すほどの血の臭いが真紅を襲う。


「……」


思わず生唾を飲み下す。洞窟の奥に何かがいる。確実に何かが、人を超越した存在が。恐怖はある、それでも真紅は一歩を踏み出した。この先には確かにあるような気がしたのだ。自分の人生全てを帰るような出会いがあると。ごつごつとした岩壁に手をつけながら歩を進めていく。進むにつれ、川のせせらぎ、水滴が落ちる音と一緒に微かな音が聞こえてきた。痛みを堪えるような唸り声のよう。


(近い……)


大人二人分ほどの広さの洞窟を歩きながら、真紅は遭遇の予感を感じた。数秒としない内に狭い通路が終わり、開けた場所に出た。そこで真紅が目にしたのは……。


「……誰ぞ。我の眠りを妨げようとする大馬鹿者は?」


身体を動かす事さえ、言葉を発することさえ苦痛だろう。だが、その生物は自分が弱ってる様子など微塵も見せずに首を持ち上げ、ルビーの如き紅い灼眼で真紅を睨みつけた。攻撃的に後ろへと突き出す二本の角、尻尾には幾何学的な模様が刻まれ、そこから弱々しい光が放たれている。無数の傷に覆われ、水溜りのように拡がる血溜まりに横たわりながらもなお美しいと思える巨躯、羽ばたけば数日と掛からずに世界を渡りきる事ができる翼。


「……我を殺しに来たか、『小さき者』よ。殺すが良い、だが我の命は奪えても魂や誇りまでは穢せぬぞ」


世界最強の種族、ドラゴンが彼の目の前にいた。

ドラゴンの名前どうしよ? 何か良さそうなのってありますかね? ……あ。アンヘルだけは無しで

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