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南の国から。

作者: す~みん

 「俺たちは金曜日の夜を迎える為に仕事してるようなもんだ」


 そう僕に教えてくれたのは一回り年上の先輩だった。

 社会人になって3年目、日々の業務にも慣れてきたのか、仕事にやりがいのようなものを感じることが出来るようになってきた。慣れたら慣れた分だけ仕事も増えてきたのは、こなせる仕事量ってものが増えたということだろう。

 そして、僕がこの3年間で仕事の成長と共に得たものは、金曜日の晩酌という非凡なものだった。

 金曜日の夜はどうしても飲みたくなる。ここ1年間で営業マンの後輩と飲みにいった回数は数え切れない。

 今日も「加藤さん、金曜日だし飲みに行きましょうよ」と定時である17時半を3時間オーバーした時点で声を掛けられると思っていた。お互い一人暮らしだし、家に帰るまでにある行きつけの居酒屋でビールかな、と。

 しかし、後輩は今夜大阪の実家へ帰るとのこと。

 飲み相手が居ないので、とりあえず今夜は家でしっぽり飲むことにした。

 スーパーへ行き、閉店間際に行われる半額のお惣菜も魅力的だが、何か今日はひどく疲れたので帰りのコンビニでビールとアテを買って帰ることにした。

 帰り道に寄ったコンビニの駐車場で、いつもと見慣れない光景があった。

 遠めで暗がりでも分かる。クリッとした大きな目。黒髪ショートカット。背の低い。いわゆる「可愛らしい女の子」だった。

 それだけで言えば特に変わったことは無いが、手にしてる荷物が多い。こんな何も無いところに一人旅でもないだろう。何かメモ紙を見ながらキョロキョロと辺りを見渡している。

 気にはなったが、それだけだった。別にこちらから声を掛けることもない。むやみやたらに他人に干渉するものでも無いし。

 一通り食料品とアルコールを購入し、店を出る。

 ふと駐車場に目をやると、さっきの女の子はまだ辺りを見渡している。

 道に迷ったんだろうか、そう思った時、ふと彼女と目が合った。

 少し驚いた僕はそのまま家路に着こうと思ったが、僕は彼女に声を掛けられた。

「すいません、ちょっといいですか?」

「ハイ?」

 声を掛けられると思ってなかった僕は、多分間抜けな顔をしていたと思う。

「あの、この辺りに住んでる方ですか?」

 彼女は上目遣いで聞いてきた。

「そうですけど。」

「そしたら、あの、、、」

 彼女は持っていた紙を僕に手渡した。

「この住所ってこの辺りですか?」

 僕はその紙を受け取った瞬間、少し驚いた。

 何故って、その紙には僕の住むアパートの住所が書かれていたから。

「あぁ、知ってます。この近所ですよ。」

「本当ですか!?あの、すみませんが道を教えてもらえないでしょうか?」

「いいですよ。僕の家、近所なんで連れていってあげますよ。」

 僕は敢えて自分が住んでいることは伝えなかった。

「え、本当ですか。でも、そんなの申し訳ないですし、道順だけ教えて頂けたら、、、」

「いや、本当にいいですよ。帰り道だし」

 嘘は言ってない。帰り路が退屈だったし、こんな可愛い子と話せるならと下心もあった。

「じゃぁ、すみませんがお願いします。ありがとうございます。」

 彼女は深々と頭を下げた。

 僕らはその住所までの道のりで、少しだけ話をした。

 聞けば、彼女は宮崎から来たそうで、関西へ来るのは初めてなんだとか。コンビニで僕に声を掛けるまで、1時間ぐらい迷ったらしい。

「このアパートですよ。」

 コンビニから目的地まで、歩いて10分程で目的地に着いてしまう為、彼女がここへ来た理由は聞けなかった。

 しかし、退屈しない10分間だった。

「ご丁寧にありがとうございました。」

 彼女はまた深々と頭を下げた。

 その時、彼女が一瞬誰かと重なった。思い出せないけど、一度会ったことがあるような。

 気にはなったが、思い出せないので僕はその場を立ち去ることにした。

「いえいえ、それでは。」

 言いながらその場を後にし、僕は家に帰った。

 僕の家は1階にあるので、恐らく彼女には見られていただろう。

 しかし、それがどうだということも無い。僕の興味は右手に持っているアルコールにある。

 さて、今日は飲むか。

 そう思った瞬間、僕の部屋のチャイムが鳴った。

 反射的にドアを開けて僕は目を丸くした。

 さっきの女の子だ。

「こ、こんばんわ。アハハ、、。さっきはどうも。」

「はぁ、、、。」

 気恥ずかしそうな、バツが悪そうな彼女は僕の顔を見て言った。

「カティーさん。…ですよね?」

 カティー、僕は大学時代特定の友達にそう呼ばれていた記憶がある。

「まさか、君は。」

鈴音すずね、山下鈴音の妹で、咲といいます。」

「す、すずちゃんの妹!!え、っていうか妹さん居たの?」

「ハイ。私、カティーさんに会いに来ました。」

 恥ずかしそうに笑いながら、彼女は言った。僕はただただ驚くばかりで、何しに来たんやろうと思うばかりだった。

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