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第6章
静かな湖畔で雲隠は月明かりの下、一人二胡を奏でる。
低く、高く。
二胡の音は学然の部屋にも届いた。
その音色で、学然は克安の願いが成就したことを知る。
(本当に、不器用なやつだよな――……)
克安も、そして雲隠も。
二人とも悲しいくらいに生きることに不器用だ。
学然は見覚えのある書物を手にする。
(克安が読んでいたやつか)
彼がここにいた時、手にしていた書物だった。その間から1枚の赤く紅葉した楓の葉がはらりと落ちた。
いつの間にか紛れ込んでしまったのだろうか。それとも、克安が栞代わりに挟んだのだろうか。
それを見た学然の頭の中を、風のように何かがよぎっていった。
だが、すぐにまた静けさが戻る。
なにごともなかったかのように、再び雲隠の二胡の音色だけが響き渡る。優しく、すべてを包み込むように――。
第2話はこれにて完結。
このお話を書くとき、真っ先に書き始めたのは、実は第5章でした。
克安が最期に瞳に移した空。
それを描きたくて書き始めました。
相方に「ここだけは絵にして」そう無理を言って、サイトではこの部分をマンガにしてもらっています。