第1章
ある秋の日のこと。
都は、その年の豊作を祝って盛大な祭りの真っ最中だった。
「おい!」
背後からの聞きなれた声に、男は振り返る。
見れば、そこには同僚たちの姿があった。
みな、いつも城で見かける兵士姿とは異なり、ずいぶんと身軽な格好をしていた。今日は思い思いに飲んだり食べたりと、楽しいひとときをすごしているようだ。
男のもとに近づいてきた彼らは、男が持つ荷物に気づいた。
「旅に出るっていう噂は本当なのか?」
「ああ」
男は笑って荷物を顔の高さまで持ち上げてみせる。
「これからちょうど都を出ようと思っていたところだ」
仲間たちは口々に、何も祭りの最中に出ることはなかろうと言った。
「祭りの最中だからこそ出るんだ。周りに気にされずにすむ」
「お前な……」
仲間の中でも、彼が幼い頃から知る一人が前へと進み出て男の肩を叩いた。
「ずいぶん長い休暇をもらったと聞いたが――戻ってくるよな?」
男は笑みを崩さぬまま、その問いには答えなかった。
荷物を肩に背負いなおすと、仲間たちに手を振り歩き出す。
「克安! 絶対に戻ってこいよ!」
だが、男は仲間を振り返りもせず、雑踏の中へと姿を消していった――……。