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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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なーろっぱ世界の短編 婚約破棄とか聖女とかドアマットとか転生とか

病弱妹優先婚約者様が、51回目に「アレなら死んだ」と笑った。

作者: マンムート
掲載日:2026/06/29


 最近王都で話題のレストラン、恋人たちの逢瀬の舞台、その貴賓室。


 さて、これから婚約者同士の楽しき交流の始まり、という瞬間。



 わたくしの婚約者であるモーリス様の耳元にかがんで、


「小侯爵様」


 モーリス様の執事が囁きましたわ。


 いつも通りのタイミングですわ!


「……そうか。判った」


 モーリス様はうなずき。


「すまない、レスフィーナ嬢」


「また妹様ですか」


「ああ、具合が悪くなったらしい。本当にすまない」


 そう言うと、モーリス様は当然のように席を立ち、執事と侍女を引き連れて立ち去ってしまわれました。



 ぽつんと残されたわたくし。



「……これで何回目かしら? あちらの妹様のせいでキャンセルになったのは」


 乳姉妹でもある優秀な侍女が


「50回目でございます」


「わたくし、よく我慢しましたよね」


「並外れた執着……もとい忍耐かと」



 くっ。言うわね。


 でも、わたくしにとってこの歯に衣着せずにいう彼女は貴重ですもの。



 わたくしは冷め始めてしまったお紅茶を、ぐっと飲み干し。


「そんなわたくしでも決めましたわ!」


「普通の感覚としては遅すぎかと」


「だってぇだってぇ……このことさえなければアレは優良物件でしたもの!」



 わたくしの婚約者だった……いや、まだ婚約者のモーリス様。


 2歳年上の頼もしい殿方……のはずでした。



 涼やかな美貌。キラキラした黒髪。


 少し釣り目気味だけどやさしげな眼。


 黒く澄んだ瞳。


 すらりと高い背。


 うっとりさせる心地ちょっとハスキーないいお声。


 しかも将来有望な有名若手建築家。


 そのうえご実家は貴族の中でも一二を争う資産家で領地も豊か。


 それを象徴する、王都の中心部のまさに一等地にある立派なお屋敷!



 美貌、資産、家柄。



 ちょー好みでしたわ。



 性格? 婚約者をおいて妹様のところに駆けつけるなんて、最低に決まっているではありませんか!


 能力? 若手の有名建築家だそうですけど、自称病弱の妹様(どうせ詐病ですわ!)に延々と騙され続けるなんてお里が知れてますわ!



 今までの婚約者様は10回から20回で逃げていったようですわね。


 当然ですわね。


 会うのはいつもあちらの指定した場所で、向こうの邸宅から徒歩10分圏内!


 妹様からの報せですぐ戻れるようにですわ! バカにしてますわ!


 しかも最初は月1回だったのか、最近は週2回呼び出されるんですのよ!


 わたくしの忍耐力を養おうという婚約者心なんでしょうか?


 バカにしてますわ!


 お父様もお母様も友人もみんな、そんな婚約者は辞めてしまえ! の大合唱なんですのよ!


 それでも、わたくし我慢してました。



 だって、美貌とお声と家格と資産が!



 ですが、さすがのわたくしでも50回もされるとね。



 しかも、最近は魅力的だった資産の方も、出費が増えたとかで随分と目減りしてしまったようで……


 向こうも歴史ある侯爵家ですからガードが高くて、内部の事情は探り出せませんでしたが。


 自称病弱の妹様に貢いでいるに決まっていますわ!



 しかも立派なお屋敷も崩壊が進んで大変だとか!


 この前は、王広間の天井が崩落したとか。


 自分のお屋敷さえもろくに管理できないヘボ建築家なんてお話になりませんわ!



 流石に美貌とお声だけでは、限界ですわ!



「婚約破棄の書類を整えておいて」


「承知いたしました。すでに雛形は出来ております。あとはお嬢様とあちらの署名だけです」


 用意がよすぎですわ!


「……ちなみに何回目のあたりで作らせましたの?」


「32回目でございます。まさか50回もお耐えになるとは」


「それ嫌味?」


「いえ滅相もございません。お嬢様の忍耐力への賛辞でございます」


 うそつけ!




 そして、ついに51回目


 運命の日ですわ。



 どこか遠くで、何かが崩れる音がしたのも、これから起きることを象徴してるみたいですわ。



 いつもの貴賓室、いつものメンバー。


 そしていつもの展開。


「小侯爵様」


 モーリス――もう呼び捨てにしてやりますわ――の執事がいつものように現れましたわ。


「……そうか。分った」



 来ましたわ!


 わたくしは侍女にめくばせしました。


 彼女の持っている小さなかばんには婚約解消と、賠償請求の書類が!


 近くには、我が家の手の者と弁護士も控えております。



 逃げられませんわよ!



 執事は首を振った。



「「え?」」


 わたくしと侍女は思わずハモってしまいましたわ。


 うなずかないんですの?


 いつもとパターンがちがうんですけど!


 ここはうなずく一択でしょうが!



 モーリスは目を見開き、


「まさか。そうなのか!?」


 まぁ、初めて見る表情!


 目を見開いてすら美貌ですわね!



 ですがなぜか、モーリスは慌てて口を手で覆いました。


 執事は、ほほえみさえ浮かべて。


「小侯爵様。もう恐れることはありません。玄関ホールと正面大階段が犠牲になりは致しましたが、お話しになっても大丈夫でございます」


 モーリスが目で執事に問うと、執事は頷き返しました。


「……そうか! ついにか!」


「はい、ついにでございます」


 なぜか、モーリスと執事のお顔には、晴れやかな笑顔が浮かんでいました。


 モーリスの侍女までが、


「ま、まことでございますか!? アレが、本当に」


「本当だ」


 侍女は座り込むと、号泣しだしましたわ。


「な、長うございました……これでもう脅されることもなくなるんですね……」


「これで、終わった!」


「終わりましたな!」



 婚約者とそのお付たちが勝手に盛り上がっておりますが、わけがわかりませんわ!



 わたくしは意を決して、


「妹様がまた倒れたのではありませんの? それならお戻りになったほうがよろしいのでわ?」


 わたくしの侍女が、カバンを抱え直した気配がします。


 書類はばっちりですのよ!


 来るなら来いですのよ!



 モーリスは晴れやかなお顔で。


「ああ、アレなら死んだ」



 あっさり。


 あまりにあっさりして……しかもうれしそうですわ!



「え……」


「はーこれで、レスフィーナ、いや失礼、レスフィーナ嬢と好きなだけいくらでも交流できる!」


 モーリス様がわたくしを見る熱いまなざし。


 思わずときめきがドキドキですわ!


 な、なにが起こっているんですの!?


「レスフィーナ嬢。これからはレスフィーナと呼んでもいいだろうか? 俺のことはモーリスとよんで欲しい」


「は、はひっ」


「ありがとうレスフィーナ! 実は一目ぼれだったんだよ! なのにあいつの、あの化け物のせいで!」


「え、え、え?」


 文脈からすると、モーリス様は、わたくしに一目ぼれしてた!?


 まさかっ。なら、今までなんで。



 モーリス様の執事は目頭をハンカチでそっとぬぐいながら、


「ぼっちゃん、いえ小侯爵様、本当にようございました。我が侯爵家に覆いかぶさった暗雲が晴れた心地でございます」



 暗雲?


 暗雲=妹様?


 そういうふうに聞こえるんですけど!



「ええと……モーリス様、いえモーリス……失礼ですけど。貴方、妹様の死を喜んでいるように見えるのですけど」


「もちろん!」



 ええっ!?


 この方、自称病弱な妹様を溺愛していらっしゃったのではありませんの?


 そのために家財を傾けるほどの浪費をしていらっしゃったのでは?



「俺が戻らないと、屋敷を破壊するとか侍女を殺すとか脅してくる化け物が消えたら、嬉しいに決まっているじゃないか」


「は?」



 病弱な妹様が家を破壊?


 それに今のセリフからして、妹様=化け物呼ばわりですわよね?


 聞き間違いでしょうか?



「ああそうか……今までレスフィーナには何も説明できなかったからな」


 執事が うやうやしくわたくしに礼をして、


「怪物、いえ妹様は癇癪を起こすとそれはそれは凄まじい叫び声をあげる方でした」 


 ?


 わたくしは頼りになる侍女を見ました。


 ?


 彼女もちいさく首を振ります。



「……叫び声で家が壊れるように聞こえますけど……何かの比喩ですわよね?」


 モーリス様は首を振った。


「いや、比喩じゃないんだ。あの化け物が癇癪を起こして叫ぶだろう。そうすると窓ガラスが飛び散るんだよ」


「まさか。叫んだだけでそんな」


「まさかじゃないんだ。あの化け物がこちらを脅すために威力を押さえていても、部屋の窓ガラスは粉々になる」


 執事が口を挟んだ。


「本当なのでございます。ですから当家ものは皆、アレにおびえておりました。特にこの者は……」


 侍女が涙ながらにうなずき、


「私の妹が、あの化け物の専属侍女にされておりまして……小侯爵さまと婚約者様の会話を逐一伝えないと、妹がミンチにされてしまうのです」



 ミンチ=挽肉?


 なにを言っているんですの!?


 全てが納得できないことばかりですわ!


 特に納得できないのが。


「信じるには、バカバカしすぎますわ。どうやってわたくしとの会話を、ばけ――いえ、妹様が知れるんですの」


「レスフィーナ。キミと出会う場所を指定していたのは、あの怪物なんだ」


「?」


 その時、わたくしの侍女が


「あ……」


 とちいさく叫んだ。


「あの説明でわかりましたの?」


「……もしかして、ですが。妹様が会話を聴ける範囲内でしか、お嬢様には会えなかったということでございますね?」


 向こう側の3人は揃ってうなずいた。


「そんな、まさか」


「アレは音を操る怪物だったからな……耳もよく聞こえたんだ。しかも執念か執着か俺と自分に関する話だけが遠距離でも聞けたんだ」


「な、なんですのその無駄な能力は!? というかまさしく能力の無駄遣いですわ!」



 わたくしなら金が動きそうな話だけ聞きつけて、大儲けできますのに!



 頼りになる侍女がなぜか、呆れたような冷たいようなまなざしでわたくしを見ましたわ。


「な、なにかしら? わたくしならその能力を使って金儲けするのになんて考えてませんわよ!」


 侍女はわたくしからさりげなく視線をそらし、


「……どうやってその恐ろしい能力が判明したのでございますか?」


 先方の侍女が涙ながらに、


「私の先輩の侍女が……勇敢で気の利く素晴らしい人でした……ある日、珍しく呼び出しもなく、小侯爵様と前の前の婚約者様との会話も盛り上がって……彼女はそれを怪物にはそのまま伝えなかったのです。そうしたら……怪物が叫んで頭を吹き飛ばされてしまったのです」


「あれは、むごうございました……」


 モーリス様は、憎しみさえこめて声音で、


「あの化け物は勝ち誇って言ったんだ。『あたしぃぃ! 聞こえるのよぉぉぉ! ウソつきはきらいなのよぉぉぉ!』って」


 美貌でイケ声の方だと、変な声色でも素敵ですわ!


「あの怪物の叫びによって、すでに3名の侍女が全身ミンチになって害されておりますので……この者も逆らえず」



 うわ。


 それは、逆らえないですわね……。


 かといって屋敷から連れ出して施設にいれるのも危険ですわね。


 収容するために移送したら、収容先で凄まじい破壊と殺戮を巻き起こしそうですし。




 モーリス様はわたくしに対して深々と頭をさげて、


「レスフィーナ。今まで本当にすまなかった」


「は、はぁ」


「監視盗聴されている上に、すぐ戻らないと屋敷が家族がどうなるか分からない……キミに真実を言う事はできなかったんだ」


 ありえない話ばかりでついていけませんわ!


「あの怪物は、俺だけが幸せになることに我慢できなかったのか、それとも俺や周囲を甚振って憂さ晴らしをしていたのかは分からなかったし分かりたくもなかったが、最悪、レスフィーナを害そうとさえするかもしれなかったし」



 ですが、うそをおっしゃっているお顔ではありませんわね。



「だがキミのおかげで、ようやく全て解決した」


「わたくしの……? ま、まさか冤罪ですわ!」


 これは多分、凄い誤解をされていますわ!


「わ、わたくしモーリス様との逢瀬を妨害する妹様を憎んで雑誌の通販グッズで呪殺などしていませんわよ!」



 言ってから気づきましたわ。その手があったじゃありませんか!


 なんで気づかなかったんでしょう! 不覚ですわ!


 愛読していましたのに!


 実はお父様がハゲたのも、わたくしが面白半分にかけた呪いのせいなんですのよ!



「……お嬢様。この世に呪いなどというものはありませんよ。しかも雑誌の通販で購入では……」


 と侍女に突っ込まれてしまいました。


「で、ですが、雑誌とかの後ろの方のページで、よくほら、そういう道具の広告とか!」


「詐欺も同然でございます。よくよく読めばどこにも『確実に効果がある』とは書いてありませんよ」


「さっ詐欺なんですの!? でも、お父様の頭は……」


「肖像画を拝見するに、先代様もその先代様も現当主様と同じ頃に頭がおさびしくなっていたのですから、単に歳でございましょう」



 乙女の夢が壊れましたわ!



 なぜかモーリス様はお笑いになりました。


 ああ、笑っても美貌ですわ!


「今までの婚約者は、10回から20回の時点で俺との婚約を解消してしまった……当然だ。だがレスフィーナ。キミは違った。辛抱強く我慢してくれた。そのおかげなんだ」 


「……ま、まぁ、婚約者として当然ですわ。おほほ」



 この流れでは、お顔と声と家柄と資産だけに執着してたとか言えませんわ!



「ぜんぜん婚約破棄をしないキミに、あの化け物は怒りをたぎらせていたらしくてね。キミとの交流を増やさせた上で、常にキャンセルさせるという手段に出て来た」


「それで交流の回数だけは増えていたんですのね……」


 月1回の交流が、週2回まで増えたのが、わたくしへの心理攻撃だったなんて……妹様おそるべし!


「だが、キミは婚約者を辞めないでいてくれた。そうしたら怪物はさらに怒り狂い、あの奇声が大きくなっていったんだ。30回目で声が少しかすれるようになり。40回目で、ついに喉から血が噴き出すようになった!」


 なんと、わたくしが怪物にダメージを与えていたなんて……わたくしおそるべし!


「アレが病弱というのは誠で御座いましたから、あの破壊音を発すると、身体にはそれ相応の負担があったようでして」


「え、病弱というのは本当でしたの!?」



 あ。でも考えてみれば当然ですわね。


 元気であれば、わたくしの屋敷まで押しかけて来て、ご自慢の破壊音をふりまいていた可能性大ですもの。


 きっと王都は大パニックになっていましたわ!



「ここ10回ばかりは、こうしてレスフィーナと会う度に屋敷が滅茶苦茶になったけど、みるみるうちにアレは衰弱していっていたから……」



 もしかして!?


 わたくしは思わず叫んでしまいましたわ。


「モーリス様のお屋敷の出費が最近ひどく増えていたのは……破壊の度に修理していたからだったのですのね!」


 失敗しましたわ! 今のはなんとはしたない!


 ですがモーリス様は、全くお気になさらず。


「レスフィーナ。キミの推測通りだ」


 モーリス様の執事が、その言葉を継いで、


「このまま進めばもしかしたら……侯爵令嬢様は我が家の希望の星となったのでございます。貴女様の忍耐心なら、あの化け物に打ち勝てるのではと」



 わたくしの知らないところで、わたくしが希望の星に!?


 しかも陰で、わたくしと化け物が高度な心理戦を繰り広げていたなんて!



「49回目で、叫びと共に部屋中に血が飛び散るようになったのでございます……大広間の天井と引き換えでございましたが」


 座り込んだままの侍女が、そっと涙をぬぐいながらしみじみと、


「先日の50回目でお屋敷の東翼が半壊……お屋敷が崩壊するのが先か、あの化け物の喉が破れるのが先か……我々奉公人一同、絶望と希望に板挟みにされる日々でございました」


「そしてついに今日! あの化け物は喉が破れて出血多量でくたばったんだ!」



 くたばった。


 そんな乱暴な言葉も、モーリス様がうつくしいお声でおっしゃると、素晴らしい祝福のようにさえ聞こえますわ。



「ありがとう! ほんとうにありがとう! レスフィーナ! キミは俺を、いや、我が家を救ってくれた女神さまだ! これからは何の遠慮も憂いもなくキミを大切にするよ!」



 熱っぽく見られると、ドキドキがキュンキュンしてしまいますわ!


 だって、ただでさえ好みなのに! 困りますわ!


 しかも女神とか!


 そのうえ確か、出会ったその日に一目ぼれした、とかもおっしゃっていたような……。


 溺愛される予感しかしませんわ!



 お顔とお声。家柄。


 しかも資産を食いつぶす寄生虫も消えたとなれば……超優良物件の大復活ですわぁ!




 侍女がわたくしの耳元でそっと囁きました。


「お嬢様、ここで簡単にお許しになると、ちょろいんでございますよ」


「……っ!」


 確かに! 50回も袖にされた女が、ホイホイとほだされるなんて! ありえませんわ!


「じ、事情は分かりましたけれど、わたくし怒っていますのよ! だって50回も置いてきぼりにされたんですもの! ぷんぷん」


「本当にすまなかった! これからはキミが嫌というまで溺愛するから!」



 そんな素敵ボイスで溺愛とか言われたら……。


 ああ、身も心もモーリス様に飛び込んでしまいそう!



 これが恋ですの!? 恋ですのね!



 い、いえ、耐えるのよレスフィーナ!



「で、溺愛とか言って、ぐ、具体的にはどうするんですのっ!?」


「キミの記念ホールを造る!」


「え?」


「怪物最後の咆哮で玄関の大ホールが崩壊したのだけど、それをキミの記念ホール、いや大聖堂にする!」


「いや、ちょっと」


「正面には巨大なキミの彫像! そしてキミの肖像画も飾ろう! もちろんどんな怪物でも破壊できない堅牢な建築にするよ! 一日一回屋敷中の者が全員集まって礼拝する! 特に毎年今日を我が家の記念日として指定し、子々孫々までキミの偉大さと愛を称えるよ!」


「それは溺愛とは違いますわ! 単なる信仰ですわ!」


「庭にもレスフィーナの記念塔を作るよ! 王都一の高さのね! もちろん設計は俺で!」


「それも溺愛とはいえませんわ! なんか違いますわ!」


「そうか! 改装では溺愛を示すには不足だね! 一から建てないと……王都の郊外にレスフィーナ大聖堂を建てよう!」


「そうではなくて! 溺愛というのは、こう、もっと、その、とにかくそうではなくて!」


 見かねたのか、モーリス様の侍女が口を挟んでくれました。


「僭越ながら小侯爵様。女性にとって溺愛というのは、モニュメント建設ではないと思います。もっと個人的なうれしはずかしいものではないかと」


 モーリス様は、はっ、と何かに気づいたようで。


「そうか! そちら方面ではなかったか!」


 そして、妙に色気がある笑みを見せて、


「なら、耳元で愛と賛美を囁き続けるよ! そして起きたらキス、眠る時もキス、それ以外の時もキスを浴びせよう」


 わたくし思わず想像してしまいましたわ。



 ビジュアルも音声も強烈すぎますわ!



 で、でも、もう一声!


「さ、賛美とかされてもっ、それに、キスだって、キスだけなんて、そ、そんなので溺愛とかおこちゃまですわ」


「ならば、キミをベッドから一日中出さない。キスは生まれたままの姿の時にしか出来ない場所へもたっぷりと」


「! そっそれは行きすぎですわ! 破廉恥ですわ! わたくしたち、まっまだ婚約中ですのよ!」


「なら結婚したらそうするよ! 俺が設計した聖堂にはコネがあるから、今から一ヶ月で結婚できるよ! どう?」



 この美貌でイケ声でささやかれたら……た、たまりませんわ!


 それに結婚してしまえば、どんな溺愛でも破廉恥どころか推奨ですものね!



「……まぁ、そこまでおっしゃるなら」


「お嬢様!! まさにそれはちょろいんで御座いますよ!」


「ちょろいんであることが必要な時があるんですのよ! それがまさに今ですのよ!」



 いいんですちょろいんで。


 だって、わたくし怪獣との激戦を(無自覚に)乗り越えて超優良物件をゲットしたんですものね!

 


たくさんの作品の中から、本作をお読みいただきありがとうございました。


最後までお付き合いいただけたこと、とても嬉しく思います。


少しでも心に残るものがあったり、何かを感じていただけたなら、


評価や感想をいただけるととても励みになります。


別の物語も書いておりますので、もしよろしければ、そちらも覗いてみてください。


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