手紙が告げる始まり
ランテルナ・ハッブルはいたって普通の女の子で、ちょっと優しすぎるのが玉に瑕なくらいの、幼馴染で親友のオリバー・スミスとおままごとを楽しんでる大人しい子どもな訳で、まさか王立魔法学校「フクロウ学園」に通うことをきっかけに、自分の人生が山あり谷ありのドタバタコメディな舞台になることなど想像もしていないのであった。
ランテルナはその日、いつものように両親の営むパン屋さんを手伝うために、早朝から起きて顔を洗い、ポストの中を覗き込んだ。するとポストの中に、丁寧に伸びた皺のない綺麗な封筒が入っていた。ランテルナは手を伸ばし、封筒を手に取ると裏を返し差出人を確認して、そこにはフクロウ学園より愛を込めてと書いてあり、それから表に戻して、宛名を見ると「アンドロメダ通り五番地ハッブルベーカリーのランテルナ・ハッブルさまへ」と綴られていたので、ランテルナはびっくりして「まあ」と口を押さえながら両親の元へ手紙を見せに行った。
両親はさあ仕事をしよう、パンを作ろうと腕まくりをしていたところで、ランテルナが慌てて駆け込んできて何かと思い、彼女の方を見ると、ランテルナはフクロウ学園の封蝋を見せて「わたし、フクロウ学園に行けるの!?」と叫ぶものだから、母親も父親もすっかり驚いてしまって封筒を開けるように急かした。ランテルナは封筒を無闇に破かないように、慎重にちぎって中身を開けた。中から出てきた羊皮紙の便箋には次のように書かれていた。
「ランテルナ・ハッブル様へ
りんごが落ちる季節となり、貴殿にはフクロウ学園への入学が許可されたことをここに記します。
入学式までに以下の物を用意しておいて下さい。
・式典服
・制服
・羽ペン
・インク
・杖(杖の店ユグドラシルで調達すること)
フクロウ学園校長ソフィア・アルキメデスより」
ランテルナは頬を赤くして音読した。「りんごが落ちる季節」とは、魔法用語でお祝いの時に用いられる言葉だ。式典服と制服はアンドロメダ通りのミスター・ポムの店で整えられる。羽ペンとインクも同じアンドロメダ通りにある「驚きの文具店」という名の店で上質なものが買える。
ランテルナの目は希望に満ち満ちていた。
店の仕込みが終わり、焼き上がったパンを店内に丁寧に並べていくのだが、ランテルナはこの作業がいっとう好きだった。出来立てほやほやの香ばしいパンの香りが鼻をくすぐり、お店の中に並んでいく様は宝石箱の中身を丁寧に整理しているようだった。
開店の準備ができたため、母親が表にでて「OPEN」と書かれた看板をひっくり返し、開店を知らせる。すると、チリンチリンとドアにつけられた来店を知らせるベルが鳴り、一人の少年が駆け込んできた。
「ルナ!」
お客人の正体はどうやら幼馴染のオリバー・スミスだったようで、オリバーは手に握りしめていた紙を慌てて伸ばして、その紙にとめられた封蝋を見せてこう言った。
「ルナの元にも届いたよね?!フクロウ学園の入学許可証!」
ランテルナはオリバーの差し出した封筒を見て、オリバーも一緒に学園に通えることを知り、頬を喜色に染めた。
「オーリーのところにも届いていたのね!私たち同じ学校に通えるの、素敵!」
「そうだよ、すごいなあ。あのフクロウ学園に通えるなんて夢みたいだ」
“あの”フクロウ学園とオリバーがいったのは、フクロウ学園は国内最高峰の魔法教育機関であり、入学許可証が届いた選ばれしものだけがその門をくぐることを許された、特別な学校だからだ。「Opinion(意見)」「Wise(賢い)」「Liberal(自由な)」の三つの理念
「O.W.L」を掲げ、上流貴族から果ては平民まで、魔法の才能さえあれば幅広くその戸を開けている。
“その”フクロウ学園から入学許可証が届いたのだから、ランテルナとオリバーは顔を見合わせて驚き、入学を喜んだのだった。




