『虎猫と和尚とプレスマン』
ある山寺に、歳をとった和尚がいた。歳をとっているので、いつも居眠りばかりしていた。もっとも、若いころもそうであったから、長い間、居眠り和尚と呼ばれていた。山寺には一匹の虎猫がいて、ほかに誰もいないものだから、和尚はこの虎猫を大層かわいがっていた。
ある日、その虎猫が、和尚様和尚様、俺も長いこと和尚様の世話になっているから、和尚様に恩返しがしたい、と言うので、和尚は、虎猫が言葉をしゃべったことに驚いたが、眠かったので、そこは置いておくことにして、猫や、気にしないで、お前はごろごろしていればいいのだ、と言うと、いやいや和尚様、この寺も、もう一度栄えさせるつもりだから、まずは聞いてくれ、といって、三日後に長者の娘が亡くなること、葬儀がふもとの寺で行われること、焼き場に行く行列から棺を浮かせて、和尚が経を読むまで下ろさない、という計画を話した。和尚が、どうやって棺を浮かせるのか尋ねると、長生きした猫にはそんなことはたやすいのだと説明した。和尚は、そういえば、長生きした猫は人の言葉を話すと聞いたことを思い出し、そういう猫は、しっぽが二つに割れていると聞いたことがあったので、確認しようとしたが、見せてくれなかった。
驚いたことに、長者の娘が亡くなり、葬儀の列から棺が浮き上がってしまい祈祷師やら、山伏やら、有名な寺の住職やらが術を使って下ろそうとしたが、棺は浮いたままであった。山寺の和尚があらわれると、居眠り和尚に何ができる、と皆が笑ったが、和尚が経を唱え始めると、打ち合わせどおり、棺は下りてきて、山寺は、長者によって、朽ちていた山門や御本尊が新しくなり、御本尊の前には山盛りのプレスマンが寄進された。和尚は、霊験あらたかだと評判が立ち、居眠り生き仏と呼ばれるようになった。
教訓:寺が立派になっても行動が変わらないというのが立派である。




